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マンガ大賞2021で大賞に選出された『葬送のフリーレン』は、どこがすごいのか?

加山竜司漫画ジャーナリスト
「サンデーうぇぶり」の『葬送のフリーレン』トップページより引用

連載開始から1年足らずで大賞受賞!

3月16日、今年もマンガ大賞(マンガ大賞実行委員会主催)が発表された。今年の1位に選ばれた作品は『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人、作画:アベツカサ)。

なお、二次選考ノミネート作品は以下のとおり。

マンガ大賞2021 二次選考ノミネート作品

『【推しの子】』赤坂アカ×横槍メンゴ

『女の園の星』和山やま

『怪獣8号』松本直也

『カラオケ行こ!』和山やま

『九龍ジェネリックロマンス』眉月じゅん

『SPY×FAMILY』遠藤達哉

『葬送のフリーレン』

  原作:山田鐘人、作画:アベツカサ

『チ。―地球の運動について―』魚豊

『水は海に向かって流れる』田島列島

『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理

マンガ大賞の選考対象は、前年の1月1日から12月31日に出版された単行本のうち、最大巻数が8巻までの作品(電子書籍含む)。

このレギュレーションでは「最大巻数が8巻まで」というのがポイントとなる。年度版の賞レースの場合、連載開始直後の作品が選ばれやすく、いわば“青田買い”の傾向になりやすい。しかし、本賞のように8巻までの猶予があれば、じっくりと作品を見極められる。それがマンガ大賞の、賞としての特長といえる。

しかし例外的なケースもある。

今年の二次選考ノミネート作品では、『葬送のフリーレン』がその例外に該当する。『葬送のフリーレン』の連載が始まったのは小学館「週刊少年サンデー」2020年22・23合併号(4月28日発売)から。同年12月31日時点では単行本3巻までが刊行され、マンガ大賞の選考対象となった。しかし、週刊連載のペースだと、来年の今頃には9巻まで刊行されている可能性もある。

つまり『葬送のフリーレン』は、「受賞チャンスは今年だけ」だったかもしれない。本作がそのチャンスをモノにできるかどうか注目していたところ、見事に大賞に選出されたのである。

各界で絶賛される後日譚ファンタジー

「マンガ大賞2021」公式サイトトップページより
「マンガ大賞2021」公式サイトトップページより

『葬送のフリーレン』は連載開始からまだ1年が経っていないにもかかわらず、「このマンガがすごい!2021」(宝島社)オトコ編で2位に選ばれ、出版取次大手の日本出版販売が主催する「全国書店員が選んだおすすめコミック2021」でも2位に選出されているように、すでにマンガファンのあいだで高い評価を得ている。

本作は、いわゆる「剣と魔法の世界」を舞台とするファンタジー作品である。勇者一行の魔法使い・フリーレンは、1000年以上は生きるという長命種のエルフ。魔王討伐後、勇者一行はパーティを解散し、それから50年が経過した。

勇者ヒンメルが天寿をまっとうした際に、フリーレンはヒンメルについて何も知らなかったのではないかと涙し、かつての冒険を追憶するかのような旅に出る。

公式のキャッチコピーに「本格“後日譚(アフター)”ファンタジー」とあるように、英雄譚の“その後”に焦点を当てた作品である。

ファンタジーの持つ力

ファンタジー作品は、われわれの暮らす現実とは異なる世界を舞台とする。そこには、われわれの世界とは異なったルール(社会規範や自然の摂理)が働く。そうしたファンタジー世界に身を置くと、読者は「日常的に見慣れたもの」さえも、まるで目新しい出来事であるかのように見ることができる。これを異化という。

「見慣れた現実」から距離を置くことで、普段とは異なった視点で現実を捉え直し、本来であれば驚きに満ち溢れた現実世界の姿を再認識させてくれる。目の前の「あたりまえ」から読者を解放してくれるのが、ファンタジーの持つ力なのだ。

『葬送のフリーレン』が提示する、われわれにとっての「あたりまえ」とは、死についてである。

長命種であるフリーレンは、時間に対する考え方が人間と大きく異なる。彼女からすれば、人間はすぐに死んでしまう種族だ。彼女はこれまで数多くの人間を見送ってきた。「葬送」とは、劇中で語られるフリーレンの異名であるだけでなく、「おくりびと」としての意味合いも持つ。

フリーレンがエルフという長命種であるからこそ、この「おくりびと」としての側面が際立つ。だが、本作を読み進めるうちに、はたと気づかされるはずだ。われわれもまた、ひとりの葬送者である、と。先に亡くなった者たちを見送り、親しかった故人を追慕する立場にあるのだ、と。

フリーレンは旅を通じて、さまざまな気付きを得ていく。そこに悲壮感や重苦しさは感じない。それは彼女の旅が、失われた時間を埋めるためではなく、豊かだった思い出を確認するものとして描かれているからだ。

巻数を重ね、劇中の時間が経過するほどに、本作は魅力的に輝いていく。

現在、フィクションの分野では、ファンタジーが大流行している。その風潮は、決して「現実逃避」ではなく、この複雑化した現実世界を捉え直そうとする時代精神の発露と理解したい。

『葬送のフリーレン』は、そんな時代精神を反映した良作なのである。

大賞受賞から明けて今日3月17日には、コミックス第4巻がリリースされる。期待の話題作を追いかけるには、ちょうどいい頃合いだ。

漫画ジャーナリスト

1976年生まれ。フリーライターとして、漫画をはじめとするエンターテインメント系の記事を多数執筆。「このマンガがすごい!」(宝島社)のオトコ編など、漫画家へのインタビューを数多く担当。『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)執筆・編集。後藤邑子著『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。』(文藝春秋)構成。 シナリオライターとして『RANBU 三国志乱舞』(スクウェア・エニックス)ゲームシナリオおよび登場武将の設定担当。

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