名古屋のローカル鉄道がまさかの利用者増 “脱クルマ社会化”する中京圏のゆくえ

枇杷島駅(愛知県清須市)に停車中の城北線の車両。1両しかなくディーゼル車だ

1時間に1本、1両編成の城北線

 日本の三大都市圏である名古屋圏。日本最大のクルマ社会としての印象も強い。その中心駅である名古屋駅から、東海道線を北に一駅いった枇杷島駅に行くと、“都会屈指のローカル線”とも言える路線がある。名古屋市に本社を置く東海交通事業が運営する城北線だ。

 城北線は、愛知県清洲市の枇杷島駅と、春日井市の勝川駅間11.2キロメートルを約17分で繋ぐ。東海道線と中央本線のバイパスになるような形で名古屋市の北部を半環状に結んでおり、首都圏にお住まいの方なら、武蔵野線をイメージすると近いかもしれない。作りかけだったJR東海の貨物線を旅客線に転用する形で、1993年に全線開業した。

勝川駅(愛知県春日井市)に入線する城北線の車両
勝川駅(愛知県春日井市)に入線する城北線の車両

 だが車両が1両編成しかなく、電化もされていない。東海交通事業はJR東海の完全子会社であり、車両はJR東海と同じものが使用されている。東海道線が8両編成で停まっている隣のホームに、ディーゼルエンジン音を響かせる1両編成の車両が並んでいるのを見ると、異様な光景にも映る。

 列車の本数も日中は1時間に1本しかなく、平日全体で27本、休日全体でも19本しかない。さながらローカル線といった感じだ。だが、いざ乗車してみると、地上を列車が走るのは枇杷島駅周辺ぐらいで、以降は終点の勝川駅まで新幹線のような高架の上をひたすら走る。

城北線が走る線路。ほぼ全線が複線になっており、大部分を名古屋第二環状自動車道と並走するが、架線がないのも特徴だ
城北線が走る線路。ほぼ全線が複線になっており、大部分を名古屋第二環状自動車道と並走するが、架線がないのも特徴だ

 車窓は見渡す限り地平線まで建物が広がっており、さながら名古屋大都市圏の中心部にいることが実感できる。途中から名古屋第二環状自動車道と並走し、ジャンクションの間をジェットコースターのように縫って走る場面もある。線路もほぼ全線にわたって複線で、レールも継ぎ目が少ないロングレールで実に都会的だ。

 こうして見ると、まさしく大都市の中心を走る路線と言って間違いないのだが、だからこそ違和感を覚えるところも多い。まず非電化なので線路の上に当然架線はなく、複線であるにもかかわらず、走っていてすれ違う列車はない。途中で名古屋市営地下鉄鶴舞線と名鉄犬山線、小牧線と交差するが、直通する乗換駅はない。実にもったいなくも感じる。

繋がっていない20メートルの高架橋

繋がっていない高架部分。最短距離にして20メートルほどだ。接続用の用地も確保されているように見える
繋がっていない高架部分。最短距離にして20メートルほどだ。接続用の用地も確保されているように見える

 終点の勝川駅へと到着すると、この感情は頂点に達するだろう。勝川駅にはJR中央本線と接続しているものの、わずか20メートルを残して高架橋が繋がっていないのだ。そのため、JRに乗り換える際は、その手前に設置されているホーム端から地上に降り、住宅地の中を5分ほど歩く必要がある。距離にして約500メートルだ。

 一方で、その100メートル先の勝川駅に行くと、ホームの中心部に線路が敷けるスペースが確保されており、将来的に城北線が乗り入れられる構造にはなっている。

JR勝川駅のホーム。両端が中央本線として使用されており、中心が城北線乗り入れ用に確保されている
JR勝川駅のホーム。両端が中央本線として使用されており、中心が城北線乗り入れ用に確保されている

 一体なぜ、ここまで“もったいない”構造になっているのか。春日井市都市政策課で交通を担当する、松浦武幸さんはこう説明する。

「勝川駅が今のような構造になったのは、2009年に駅の立体化(高架化)が完了してからです。県と市が中心となって立体化事業を進めたのですが、最後の部分だけ繋がっていないのは、コストの問題がネックになっている感じですね」

 市は東海交通事業の親会社であるJR東海に毎年要望書を提出しているものの、JR東海からの回答は「必要な経費を賄えないため接続は考えていない」というものだ。城北線は国鉄時代に貨物線として整備された経緯から、JR東海は城北線の「賃借料」を毎年約40~50億円を鉄道建設・運輸施設整備支援機構(旧・鉄道公団)に支払っている。こうした経常費用もあり、JR東海も動き出せていない現状だ。

 だが、この「賃借料」も2032年度には終了し、以降は城北線のインフラ全てがJR東海に移管される見通しだ。また、自治体サイドでも「城北線整備促進協議会」を愛知県と沿線自治体である清須市、名古屋市、春日井市の3市で動いており、住民への利用促進や、城北線の改善要望をJRに働きかけ続けている。

“脱クルマ社会化”する名古屋圏

 こうした努力もあってか、“都会のローカル線”の様相を呈している城北線の利用者が近年増加傾向にあり、城北線勝川駅の利用者数は10年前に比べ20%以上も増えているという。 松浦さんはこう分析する。

「春日井市も少子高齢化と無縁ではなく、市の人口は近年伸び悩んでいる現状です。にもかかわらず鉄道の利用者が全体的に増えているのは、若者の定期利用者が増えているからではないかと私は考えています」

 一般的にも名古屋圏は日本有数のクルマ社会として知られ、クルマで名古屋市内まで通勤する人の割合も東京や大阪と比べると多い。だが、春日井市をはじめ、クルマを持たない若者が増え、若者を中心に鉄道利用者が増えているというのだ。

 この分析には裏付けもある。国土交通省が毎年公開している資料「三大都市圏の主要区間の平均混雑率の推移」によると、名古屋圏の通勤通学時間帯の鉄道輸送量は2018年度過去最高となり、平均混雑率も132%と、実は大阪圏の128%より高い。名古屋圏全体として見ても、通勤の“脱クルマ社会化”が進んでいる傾向があるのだ。

名古屋圏の通勤通学時間帯の鉄道輸送量は2018年度過去最高となり、平均混雑率も132%と、実は大阪圏の128%より高い。名古屋圏全体として見ても、通勤の“脱クルマ社会化”が進んでいる傾向がある(国交省「三大都市圏の主要区間の平均混雑率の推移(2018)」より引用)
名古屋圏の通勤通学時間帯の鉄道輸送量は2018年度過去最高となり、平均混雑率も132%と、実は大阪圏の128%より高い。名古屋圏全体として見ても、通勤の“脱クルマ社会化”が進んでいる傾向がある(国交省「三大都市圏の主要区間の平均混雑率の推移(2018)」より引用)

 松浦さんはこう続ける。

「春日井市はJRと名鉄で名古屋市内に出られる方が多いのですが、どちらも地下鉄駅に接続しているという利便性があります。こうした背景もあり、市内の鉄道利用者は近年右肩上がりで、過去最高を更新し続けています」

春日井市の中央本線(上)と名鉄小牧線(下)の乗降客数推移。人口減社会で就学労働人口が減る中、どちらも右肩上がりなのが特徴だ。中央本線の2005年が突出しているのは愛知万博のためだが、近年これに迫る勢いで利用者が増えている
春日井市の中央本線(上)と名鉄小牧線(下)の乗降客数推移。人口減社会で就学労働人口が減る中、どちらも右肩上がりなのが特徴だ。中央本線の2005年が突出しているのは愛知万博のためだが、近年これに迫る勢いで利用者が増えている

 この先取りするかのような“脱クルマ社会化”を生み出しているのは、春日井市のまちづくりが、いち早く鉄道利用者を中心としたものを想定しているからだ。勝川駅ではマンションタイプが、高蔵寺駅周辺では戸建てを中心に若い世代の移住者が進んでいるという。そしていま市内で最も人気があるエリアが、城北線とJRがある勝川駅周辺だ。

 そうなると、やはり城北線に対するニーズも今後年々増大してくるようにも思える。城北線が中央本線と東海道線を繋ぐ一体となった路線になれば、春日井市をはじめとした沿線自治体もより鉄道にシフトすることは間違いない。

 城北線の将来的な運用について、JR東海の資料などを見ても、現時点で特に予定は立っていないようだ。

 JR東海に城北線が移管されるのは12年後の話であり、その頃には東京・名古屋間をリニアが行き交っている未来の話だ。その未来に春日井市をはじめ名古屋圏のあり方はどう変わっているのか。城北線の今後が一つのカギになるのかもしれない。

(撮影/全て筆者)