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アニメ聖地88で新たに「鬼太郎」「高木さん」「バンドリ」が加入、「天気の子」はなぜ落選?

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
10月に開かれた「アニメ聖地88(2020年版)」発表会の様子

 年の瀬も迫り、いよいよオリンピックイヤーである2020年を迎えようとしている。かつてない大勢の外国人観光客が訪れる記念すべき年になるのではないだろうか。

 訪日観光客と言えば、海外から国内のアニメ「聖地」を訪れる動きも近年盛んだ。主に訪日外国人観光客に向けた取り組みを行うアニメツーリズム協会は10月29日、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2020年版)」を発表した。

 これは日本国内のアニメ作品の「聖地」となっている場所をリスト化し、観光周遊に活用してもらおうというものだ。「88」という数字が振られているものの、2018年以降毎年規模を広げる形で選定されている。2020年版では全世界からの8万票にも及ぶ「アニメ聖地WEB投票」に基づき、137のアニメの舞台や関連施設が選ばれた。

2020年版アニメ聖地88のリスト

 2020年版では新たに、「ゲゲゲの鬼太郎」(鳥取県境港市・東京都調布市)や、「からかい上手の高木さん」(香川県土庄町)、「BanG Dream!(バンドリ!)」(東京都・都電荒川線早稲田駅近辺)、「さらざんまい」(東京都台東区)をはじめ10作品が追加された。また、既に静岡県沼津市で大々的な展開を見せている「ラブライブ!サンシャイン!!」も、新たな「聖地」として北海道函館市が加わった。

 2018年の初回選定時は、選ばれた88作品の半数以上がカドカワグループで出版されている作品を占め、さらにアニメツーリズム協会の理事長にはKADOKAWA取締役会長も務める角川歴彦氏が就任していることから、「カドカワ色」が強いという批判が寄せられた。だが、2019年以降は理解が広まってきたのか他の版元の作品が主に加わってきたため、その色も薄まりつつある。

 カドカワ以外から加わった作品もある一方で、年が変わって外れた作品もある。例えば、「聖地巡礼」が2016年の「ユーキャン新語・流行語大賞」トップテンに選ばれるきっかけとなった「君の名は。」(東京都新宿区・岐阜県飛騨市)は、18年には「アニメ聖地88」に入っていたものの、19年以降は漏れている。

 18年から19年にかけては「君の名は。」のほか「ユーリ!!! on ICE」(佐賀県唐津市)と「輪廻のラグランジェ」(千葉県鴨川市)の計3作品が。19年から20年にかけては「CHAOS;CHILD」(東京都渋谷区)「ガーリッシュ ナンバー」(山形県尾花沢市)をはじめ、10作品が外れている。

 また、実際に「聖地」として取り沙汰されていて、ファン投票では上位に入っていたはずのタイトルでも、“大人の事情”によって認定できない作品が少なからずある点にも注意だ。例えば「となりのトトロ」、「耳をすませば」といったジブリ作品や、「SLAM DUNK」、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」などといったジャンプ作品は一貫して入っていないし、「Free!」や「響け!ユーフォニアム」など自社版権となって以降の京都アニメーションの作品群も入っていない。

 外れたり入ったりしていない理由は様々あり、単に投票の結果人気がなかったというものから、地域や権利元がアニメツーリズム協会の理念や取り組みに賛同できないというものもある。どうしてもカドカワ色のある協会を他社版元側が警戒する向きも少なからずあり、こうした場合には公益性ある活動であることを明確に示し、引き続き説得を続けていく必要があるだろう。

アニメツーリズム協会が発行する認定プレート(左)とご朱印スタンプ(右)。少しずつであるが全国の「聖地」に設置が進んでいる=道の駅のたけはら(広島県竹原市)にて筆者撮影
アニメツーリズム協会が発行する認定プレート(左)とご朱印スタンプ(右)。少しずつであるが全国の「聖地」に設置が進んでいる=道の駅のたけはら(広島県竹原市)にて筆者撮影

 だが、特に筆者が取材した中でよく耳にするのが、版元が公式に「聖地」として認めたくないという理由だ。

 あくまで物語の世界は架空のフィクションであり、モデルはあるものの、一ヶ所の舞台から取ったわけではないし、ましてそれを視聴者に押し付けたくない、という考えの作品も珍しくない。

 つまり、あくまでファンが作品のモデルを断定して「聖地」として盛り上げる分にはいいが、第三者の機関によって「聖地」として公認されることには難色を示す製作サイドも少なくないのだ。こればかりは、作り手側の意向を尊重せざるを得ないだろう。

 これらの理由もあり、2020年版では19年一番のヒット映画となった、東京都区内を舞台にした「天気の子」が入っていない。また、佐賀県唐津市をはじめ佐賀県全域が舞台になった、今年初頭に話題作となった「ゾンビランドサガ」も選ばれておらず、もやもやした気持ちを抱くファンもいるかもしれない。

 こうした悩みは協会側にもあるようで、過去に協会が開いた発表会では、外国人「聖地」インフルエンサーが、「アニメ聖地88」のリストにない作品の舞台を巡った発表をしたこともある。

 諸事情あるにせよ、年を追うことに「聖地」に認定される作品の幅が広がってきていることは確かだ。全ての「聖地」をカバーしきれないにせよ、2020年もさらに増えるだろう外国人旅行者のために、「聖地」周遊ルートを提示する取り組みは今後も課題となるところだ。

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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