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東京ゲームショウ開幕! 注目高まる「eスポーツ」 五輪種目を目指す

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
東京ゲームショウは今年で27回目。昨年の総来場者数は過去最多の27万1224人

 世界最大級のゲームの展示会「東京ゲームショウ2017」が9月21日、千葉市の幕張メッセで始まった。世界36ヶ国・地域から609の企業・団体が出展し、このうち国内企業の出展は292社と過去最多となった。21日・22日は業界関係者向けの公開で、一般公開は23日・24日。

ビジネスデイ初日の東京ゲームショウの内部の様子
ビジネスデイ初日の東京ゲームショウの内部の様子

 今回のゲームショウで特に前面に押し出しているのがeスポーツだ。eスポーツは「エレクトリックスポーツ」の略で、「ストリートファイターシリーズ」といった対戦格闘ゲームや、「コール オブ デューティシリーズ」といった一人称視点シューティングゲームなどの対戦型ゲームを「スポーツ競技」とみなしている。アメリカなどでは1億円を越える高額の賞金をかける大会もあり、世界レベルで人気が高まっている。国内の専門学校では、こうしたeスポーツの選手を養成するところも現れている。

 

 21日は開会式が行われた後、eスポーツをテーマにした基調講演が開かれた。冒頭では一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の岡村秀樹会長が登壇し、「ゲームをスポーツの競技として捉えるeスポーツは、米国やアジアなどを中心に盛り上がりを見せている。2019年にはeスポーツの観戦規模が、世界で3億人を越えるとも言われている。日本国内での整備は必至だ」と挨拶した。

2022年アジア大会で正式種目に

 eスポーツの広がりは、実は五輪の正式競技になるかもしれないところまで来ている。既に2022年の中国・杭州で開かれるアジア大会では、eスポーツが正式なメダル競技種目になることが今年4月に決定している。アジア大会はアジア・オリンピック評議会が主催しており、この動きを受けて、早ければ2024年のパリ五輪でeスポーツが正式種目化するのではという見方もある。

 こうした流れを受けて、ゲームショウが開幕する前々日の19日には、国内eスポーツの5団体が統合するというリリースが発表された。国内のeスポーツ団体を1つに集約させることで、プロライセンスを制度化し、eスポーツ選手の地位向上と、日本や海外で活躍できる環境を整備する狙いがある。さらに、将来のオリンピック正式種目化を見据え、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟を目指す。

対戦者と握手を交わすeスポーツブースの様子
対戦者と握手を交わすeスポーツブースの様子

視聴者は13万人から211万人に

 その後のパネルディスカッションでは、国内でeスポーツ大会「RAGE」をプロデュースする株式会社CyberZ執行役員の大友真吾氏が登壇した。その発表によると、「RAGE」は2016年1月からこれまで5回大会を開いており、この5回の間に来場者数は150人から1万1千人に、インターネットによる生放送視聴者数は13万人から211万人に増えたという。大友氏は「徐々にではあるが、eスポーツを観る文化というものが根付いてきていることを実感している。海外に引けを取らないような、大きく楽しい市場を形成していきたい」と話し、国内で着実にeスポーツが普及してきていることを訴えた。

eスポーツブースの様子
eスポーツブースの様子

 だが一方で、まだ課題は山積しているとの声もある。統合が予定されているeスポーツ団体の一つ、一般社団法人日本eスポーツ協会の理事を務める馬場章氏はこう警鐘を鳴らす。

「分裂しているとさえ海外から言われていた5団体が1つにまとまることはもちろん良い側面もあります。が、産業界が中心となって統合されることには疑問も残ります。野球やサッカーなど他の競技では、競技者であるアスリートが中心となってプロリーグが形成されてきた歴史があります。これがトップダウンの形で進められてしまうことで、ゲーマーたる選手の気持ちや考えがどれぐらい反映されているのかが問題です」

米は優勝賞金1億円、日本は10万円

 他にも、eスポーツの普及の上で、法律面の問題もあると言われている。例えばアメリカなどでは優勝賞金1億円という額が設定されるが、日本国内ではこの上限が10万円までとされている。景品表示法など、法律による様々な規制があるためだ。日本で海外のような人気のeスポーツ大会を運営するには、こうした法律から変えていかないといけないと主張する人もいる。

 今回のeスポーツ団体統合がその糸口となるか――だが、これについて馬場氏は「まだその段階にすら至っていない」と冷静だ。

「国内のeスポーツ団体は、高額の賞金額を定める以前にやるべきことが山積しています。言い換えれば、競技や観戦文化の土壌作りや、競技用のゲームタイトルの普及など、そもそもまだ何もできていない状況にあります。今回の統合を機に、こうした問題をどういうふうにしていくか、具体的なイメージを固めていく必要があるでしょう」(馬場氏)

基調講演登壇者によるフォトセッション。右端が大友氏
基調講演登壇者によるフォトセッション。右端が大友氏

メディア露出も重要なカギ

 メディアがどれだけeスポーツを報道するかも、普及の重要なカギとなる。「週刊ファミ通」元編集長で、これも統合が予定される一般社団法人e-sports促進機構の理事を務める浜村弘一氏は、「eスポーツの国内普及のためには、メディアがもっと積極的に取り上げていかねばならない」と今年4月に開かれたセミナーで話した。浜村氏は、野球人気がラジオやテレビといったメディアの普及と共に人気が加速していったと指摘する。ラジオ中継しかなかった頃は大学野球が花形とされていたが、1953年にテレビ中継が始まったことで、アマチュアからプロに人気がシフトしたというのだ。テレビを通じて野球を“観る”ようになったことで、野球をやらない人でもプロの活躍を楽しむ人が増えた。そしてこれは昨今のインターネット動画中継の普及にも同様のことが当てはまる。ゲームをプレイしない人にも、プロゲーマーのプレイをいかに魅力的に伝えるかがeスポーツ普及のカギになるというのだ。

 先述の馬場氏は、「eスポーツ普及を考える際、チーム経営・イベント運営・メディア・ハード(ゲーミングPC)・ソフト(競技タイトル)の5つの要素が重要になる」と話す。今回のeスポーツ団体統合や、ゲームショウでの取り上げによって日本のeスポーツ界はどう変わっていくのか。その魅力が一人でも多くの人に伝わることを祈るばかりである。

「ファイナルファンタジー14」に登場する操作キャラクター
「ファイナルファンタジー14」に登場する操作キャラクター
ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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