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【解説】任天堂の決算記事 高収益でも「ダメ出し」目立つ なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:アフロ)

 任天堂の2023年3月期連結決算が発表されました。売上高は約1兆6016億円、本業のもうけを示す営業利益は約5043億円。営業利益率は約30%で、一般的な“合格ライン”とされる10%をはるかに超えていますが、多くの記事、特に大手メディアでは「ダメ出し」的な書き方をされてしまいます。なぜでしょうか。

◇決算記事の基本に沿うとマイナス

 それは決算記事の基本的な視点に沿うと、マイナスの評価をせざるを得ないからです。

 決算記事の基本的な書き方は、前年度との比較です。「なぜ前年度と比べるのか」といえば、企業は毎年成長路線を描く「増収増益」が望ましい……というのが根底にあるからですね。売上高も利益も前の年よりも増えてこそ、投資家などのイメージも良くなります。

 従って世の経営者は、商品の発売時期を調整して、決算で増収増益になるなど、少しでも業績のイメージをよくするなどの工夫をします。前年度よりも業績が落ちる「減収減益」は頭打ち感があり、投資家が逃げてしまう可能性があるので、どうしても嫌われるのです。

 今回の任天堂の業績が面白いのは、「減収減益」である一方、極めて高い売上高と営業利益を維持していることです。同社の20年間の業績をさかのぼると、通期の売上高で1兆6000億円を超えた年は、今回を入れて5期のみで、最も厳しい時期は売上高が5000億円を割ったことも……。そう考えると、1兆6000億円の数字が輝いて見えます。そして、営業利益率が30%を超えるのは他業種からするとありえない水準と言えます(しかも一部上場企業なのに)。

 とはいえ、今回の任天堂の決算で「減収減益」なのは事実です。それに類する「頭打ち」などのワードは、経済系の記事を書くのであれば不可欠ですし、むしろ外すほうが不自然です。

 ではどうすればよいのでしょうか。

◇エンタメ企業の決算 王道の手法になじまず?

 ゲーム会社などのエンタメ業界を長年取材して感じるのは、エンタメ業界には、前年度と比較する決算記事の王道の手法が、なじまないのでは?……ということです。なぜならゲームなどのエンタメビジネスに、本質的に求められているのはホームランだからです。

 もちろん企業を維持していくためには黒字でないと困るので、コンスタントなヒットも必要です。しかし、世の中を驚かせるような社会的大ヒットは狙って飛ばせるものではありませんし、数年で一気に黒字の“貯金”を稼ぎ出すようなビジネスモデルも、それはそれでもっと評価されてよいのでは?……と考える時があります。

 株式会社は営利を追求するため、どうしても常に右肩上がりの成長を求めてしまうし、増収増益は評価されてしかるべしです。しかし今は、多様性が求められる時代ですし、そうであればさまざまな評価があっても良いと思うのです。

 任天堂の今回の決算に話を戻すと、「減収減益」という短期的な事実だけでは言葉が足りないのです。長期で見ると高い売上高や利益をキープしているということ、そこに加えて、今後の業績が下がる理由として、ゲーム機のビジネスはピークを迎えると右肩下がりになり、新商品で再び成長軌道に乗せる……という特徴にも(多少面倒でも)触れるほうが、理解されやすいといえます。

 特にニンテンドースイッチは、ピークは過ぎたとはいえ、2023年3月期も1800万台弱を出荷しました。ゲーム機が2000万台売ると大ヒットという扱いをされますし、日本ではいまだに同機はよく売れています。従って「スイッチが(前年度より)売れなくなった」などの事実だけに触れて、補足事項なく終わらせると、「それはそうなんだけど……」と、ゲームをよく知る人たちがモヤっとしてしまう一面があるのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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