Yahoo!ニュース

「天空の城ラピュタ」は悪役・ムスカの物語?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「天空の城ラピュタ」のムスカ(c) 1986 Studio Ghibli

 宮崎駿監督のアニメ映画「天空の城ラピュタ」が12日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で放送されます。1986年に公開され、テレビでの(再)放送はまもなく20回に届きそうというのに、視聴率はいまだに2桁をキープするほどの人気作です。

 「天空の城ラピュタ」は、見習い機械工の少年・パズーが、空から光に包まれてゆっくりと降りてきた少女のシータと出会う場面から始まる物語です。国防軍から追われるシータと共に、空に浮かぶ伝説の島・ラピュタを目指します。

 同作の見どころは、手に汗握る冒険活劇やボーイ・ミーツ・ガール的な要素などありますが、その一つとして挙がるのは“ラスボス”のムスカでしょう。ムスカは、政府機関の将校で、発言や行動から「切れ者」という雰囲気をかもしだし、最初から最後まで物語に絡みます。

 ムスカは、部下を巧みに使いこなして仕事を完遂。ラピュタの圧倒的な力を、さも自分のモノのように扱う「俺様」的な行動もあります。部下を見捨てるような行動、シータへの扱いのひどさもポイントで、悪役としては実に理想的。そしてセリフの一つ一つに力があります。そしてインパクトのある最期(笑)も用意されていますが、それもまた魅力を際立たせていると言えるでしょう。

 「機動戦士ガンダム」にはシャア、「鬼滅の刃」には鬼舞辻無惨……といったように、タイプは違えど人気作には視聴者や観客が無視できない宿敵がいてこそ。ムスカの存在があってこそ、作品が一層輝いていると言えます。

 ムスカについては、鈴木敏夫さんの書籍「天才の思考」(文春新書)で、一つのエピソードがつづられています。同作のシナリオを読んだ鈴木さんと、高畑勲さんが感じたのは「話の構造がムスカの野望と挫折になっている」で、鈴木さんがその点を指摘すると、宮崎監督はちょっと困った顔をしたそうです。

 さらに鈴木さんは、宮崎監督はムスカが好きで自己投影していること、豪快な女海賊のドーラも、制作中に亡くなった宮崎監督の母親が投影されていることにも触れています。そしてムスカの指摘を受けて、パズーとシータが前面に出て、最終的にうまくバランスが取れたのでは……とも振り返っています。

 宮崎監督の書籍「出発点1979~1996」(徳間書店)で、「天空の城ラピュタ」の企画書にある「あらすじ」に、次の一文があります。

飛行石を手に入れ、空中帝国の主となって世界に君臨する野望をむき出しにした男。その男に狙われる古いラピュタ王族の血をひく少女。かくされた飛行石のありかをめぐる争いに巻き込まれた、発明家を夢見る見習機械工の少年。

 人物紹介は3人で、ムスカ、シータ、パズーの順番。ムスカに力が入っているのは明らかです。もともとは、鈴木さんや高畑さんがムスカの物語と感じたぐらいなのですから当然ですが、ここまでくると“裏の主役”といった気さえします。

 そして「天空の城ラピュタ」を、「ムスカの野望と挫折」という視点で見ると、冷静に仕事を遂行している切れる悪の男が、最後に「情け」をかけて大逆転負け……となるわけです。このように違う面白さが感じられることも作品の深みであり、「天空の城ラピュタ」が長きにわたって愛される作品である理由なのかもしれません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事