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過去最高益でもソニー決算に厳しい記事なぜ PS5品不足でくすぶるゲームファンの不満

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:アフロ)

 ソニーグループの2022年度第1四半期(4~6月)決算が29日、発表されました。第1四半期の売上高と営業利益はともに過去最高を更新したものの、「ソニーGが下方修正 ゲーム下振れ」などと厳しめ論調の記事も目につきました。なぜでしょうか?

◇「ギャップ」狙いでマイナスに目が

 理由をひと言でいえば、記事化にあたり、明確なテーマをすえるために起きてしまうことです。記事を書くときは、読者に理解しやすくするため、最も伝えたいことを絞ります。今回の決算で検討するのであれば、主に以下の三つでしょうか。

(1)ソニーグループの第1四半期 売上高と営業利益は過去最高

(2)通期の売上高予想が11兆5000億円に増加(1000億円アップ)

(3)通期の営業利益予想が1兆1600億円に減少(500億円ダウン)

 記事を書く側の視点でいえば、(3)に目が行くのです。

 理由は「ギャップ」です。近年のソニーグループの業績は好調でした。ところが好調なのに、今回の営業利益予想がダウンしています。そこに違和感・話題性があると判断したわけです。記事のポイントが決まれば、テーマを補強する要素を集めます。今回でいえば、下方修正の理由(ゲーム事業の伸び悩み)にも触れることになります。

 ただし、第1四半期の業績が過去最高益という事実(プラスのイメージ)はあるわけで、記事の持つマイナスのイメージと合致しません。場合によっては、「第1四半期の業績が過去最高益」という重要な事実を避けて記事にすることになるでしょう。書いてしまうと、かえって読者を戸惑わせるからですね。とはいえ、他の記事を見たり、決算短信を見た人が「あれ?」となってしまう可能性もあるわけですが……。

 仮に、ソニーグループの近年の業績が悪ければ、過去最高益などのプラス部分が注目されたでしょう。また通期の決算であれば、総括的な意味合いがあるので、プラス部分の方が取り上げられたのではないでしょうか。

 決算は、複数の記事を見て、実際の短信に目を通す方が良いのですが、それを求めるのも酷な話です。ただし決算は視点でガラリと変わる一面がある……ということは、頭の片隅に置いておいても損はないかと思います。

◇ゲーム事業に求められる高い数字

 とはいえ、第1四半期(2022年4~6月)のゲーム事業が、予想通り伸びなかったのはその通りでしょう。

 ゲーム事業の第1四半期の売上高は6041億円、営業利益は528億円で、いずれも前年同期(2021年4~6月)を下回りました。売上高は、為替差益という“追い風”があったにもかかわらずです。ゲーム事業は、ソニーグループの約3割の売上高・利益を稼ぐ柱。決して悪い数字ではありませんが、求められるものが高いのです。

 イマイチの理由は、新型コロナによる「巣ごもり」需要がなくなり、外出が増えた結果、ソフトや追加コンテンツの販売が減少したこと。さらにソフト開発費の増加を挙げています。実際データの裏付けがあり、ゲーム機(PS4やPS5)のプレー時間も15%減少しているとのこと。ここ数年コロナ対策として外出を我慢していた分、その反動があるのは、消費者の行動としては納得できるところです。

 むしろ「近年、各ゲーム会社の業績が異常に良すぎた」とも言えます。新型コロナの感染拡大以後、ゲーム会社の業績は絶好調でした。家庭用ゲーム機の世代切り替え時期で、赤字もあり得たにも関わらず、大黒字で乗り切ったのですから。特にソニーのゲーム事業は欧米に強く、「巣ごもり」の反動どうなるのか。今後も不確定要素が多く、予想の難しいところです。

 業績アップのためには(ありきたりですが)、人気ソフトの創出、サービスの向上、プロモーションの強化といったところでしょう。もちろん、いまだに品不足が続くPS5の増産も最優先で求められることの一つでしょう。

◇ゲームファンの不満をどうする?

 「コロナの巣ごもりの反動」はいつか起きるわけで、決算もある意味予想の範囲内でした。

 むしろ個人的に気になったのは、ゲームファンと思われる人たちの不満の声がずっと続いていることです。今回の決算とPS5の品不足を関連付けて、「ソニーが悪い」「日本市場を軽んじている」などと批判する声は、以前からありますが、今回もよく見かけました。まあ本当に「ダメ出し」をするなら、不満すら言わないので「早く何とかして」という要望といえなくもありません。

 ですが、一方でPS5の品不足について、即座の解決を求めるのは、極めて難しいのも事実です。人気商品が一部の人に買い占められて、希望小売価格や定価よりも高い価格で売りさばかれる「悪質転売」ですが、それ自体は違法ではなく、もはや一企業が対応できるレベルを超えています。世界的な半導体不足と戦争、流通の混乱、物価高などの不安定要因が解決したわけでもありません。それでもPS5の品不足への不満コメントが並ぶところに難しさがあります。

 「〇〇が悪い」と事象を単純化してしまうのは、「気に入らない」という感情の問題に近く、厄介といえるかもしれません。PS5の早急な増産と共に、PS5を入手できない(であろう)ゲームファンのくすぶる不満をどう和らげていくか。イメージの問題は後に引く可能性があるものの、効果的な対策はなく、悩みは深いと言えそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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