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【聞いてみた】ポケモン新作「アルセウス」 なぜ2タイトルで展開しないの?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「Pokemon LEGENDS アルセウス」

 世界出荷数が初週だけで650万本を達成し、ニンテンドースイッチの「ポケットモンスター」シリーズとしては最速・最多記録を更新した「Pokemon LEGENDS アルセウス」。従来シリーズとはうって変わり、ポケモンがフィールド上でプレーヤーに攻撃をしてくる刺激的な内容で話題になりました。一方でポケモンと言えば、複数タイトルが出ることが普通なのですが、なぜ「アルセウス」は単一タイトルなのでしょうか。

 「ポケモン」シリーズは、主人公が新米のポケモントレーナーとなって、不思議な生き物「ポケモン」を育成、最強のトレーナーを目指す物語です。「アルセウス」の冒険の舞台は、「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」よりも遠い昔の時代。主人公の目的は、ポケモンたちを捕獲・調査・研究し「ポケモン図鑑」を完成させることです。

◇株式会社ポケモンに聞いてみた

 そして、なぜ「アルセウス」は単一タイトルなのでしょうか。株式会社ポケモンに聞いてみました。

ーー「アルセウス」と、ポケモン本編シリーズとの相違点は何でしょうか。シリーズで恒例の2種類のソフトではないのですが。

 「Pokemon LEGENDS アルセウス」は「ポケットモンスター」シリーズの最新作です(いわゆる本編シリーズではないわけではありません)。

 本作は「ポケットモンスター」シリーズの新たな挑戦として、これまでのシリーズの枠を超えた新たな体験を届けたいと考え、開発されたタイトルです。

 プレースタイルやゲーム体験を踏まえ、恒例の2種類が対になるようなソフトではなく、1種類での展開がベストと考えました。

 これまでの「ポケットモンスター」シリーズとの大きな相違点は、RPGにアクションの要素がプラスされている点です。

 従来のシリーズでは、ポケモンを捕まえて育て、バトルの腕を磨いて最強の「ポケモントレーナー」になることを目標としたストーリーが展開されます。

 一方で本作ははるか昔、まだ人とポケモンがともに暮らすことが珍しかった「ヒスイ地方」が舞台です。ポケモンのことをよく知らず、恐れている人間も多いため「ポケモントレーナー」や「ポケモン図鑑」はまだ存在しません。主人公はそんな中で、この地で初めての「ポケモン図鑑」の完成を目指して冒険をスタートします。

 ストーリーの中で、雄大な自然が広がる「ヒスイ地方」を駆け巡り、様々なポケモンたちの生態を調査することになります。時にはポケモン同士のバトルではなく、主人公が直接ポケモンから攻撃を受けることも。ポケモンの攻撃を避けながらこっそり近づき、照準を合わせてモンスターボールを投げて捕まえる……といった部分はアクションの遊びとなっており、今までのシリーズにはない、新たなゲーム性を楽しむことができます。

◇オープンワールドを意識したゲーム設計

 株式会社ポケモンの回答は手堅いものでした。そして「1種類での展開がベスト」と回答した通り、もちろん意図してワンタイトルにしたわけです。何より新しい体験を提示することに注力したからこそのワンタイトルでしょう。

 同作は、発売前からファンの期待がかなり高かったのです。特に今回は、ゲーム世界を一つの舞台で表現し、プレーヤーの自由で行き来できる「オープンワールド」ではないか……という予想もありました。実際は、ある程度の制約はされているため、完全なオープンワールドとはいきませんでしたが、オープンワールドを意識したようなゲーム設計になっています。

 ともあれ「アルセウス」は期待通り、ネットの声を拾う限りでも、発売後も総じて高評価でした。本編もアクション要素の強く、オープンワールド的なゲーム設計については「このままでいい」という声もありました。

 もちろん、どんなゲームにも気になることがあるように「アルセウス」にも、人によっては気になる点はあるでしょう。あえて言えば、オープンワールド的なゲームにありがちな、アクション要素があるならではの「難しさ」でしょう。特に「ポケモン」は普段ゲームに慣れてないような人もプレーするので、アクション強めの要素が万人に歓迎されたとはいえないでしょう。そこを今後のシリーズでどのように”料理”するかもお手並み拝見です。

◇「スカーレット・バイオレット」もオープンワールド

 そして先日発表された「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」(ニンテンドースイッチ、2022年冬)のホームページには、「オープンワールドで豊かに表現された世界を、自由に冒険することができます。境目なくシームレスに広がる大自然や街の数々。そしてそこに息づくポケモンたち」とあります。

 要するに「アルセウス」の発売と、「スカーレット・バイオレット」の発売時期のタイミングを考えると、既にオープンワールドの方向性ありきだったのは明らかです。

 一方で、オープンワールドは、遊ぶのに一定のハードルがあるのも確かです。多くのポケモンユーザーに、オープンワールド的な世界を体験し、新しいポケモンの魅力を体験してもらう位置付けだったのが「アルセウス」という見方もできます。

 「ポケモン」は押しも押されもせぬ世界的なビッグタイトルです。それだけにいろいろな人たちがプレーしていますから、仕組みを大きく変えるのは勇気の必要な決断だったのではないでしょうか。

【参考】ポケモン25周年 日本発の“怪物”コンテンツが世界を席巻するまでの軌跡

 とはいえ「ポケモン」は、「ポケモンGO」や「ポケモンユナイト」など、新しい遊び方を探って、ユーザーに提示し続けています。そして「アルセウス」は、多くのポケモンユーザーに、オープンワールド的なゲームの楽しさを“布教”したわけです(既にオープンワールドが好きなコア・ミドルユーザーも多くいるでしょうが)。「スカーレット・バイオレット」も含めて、新しいポケモンの展開を楽しみにしたいところです。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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