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任天堂&ソニー&MS そろってロシアの販売・サービス停止の意味 政治に翻弄されるゲーム

河村鳴紘サブカル専門ライター
「私たちは戦争に反対している」と書かれた看板を持ち、ロシア国内で抗議する人(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアのウクライナ侵攻で、世界の企業がロシアでの販売やサービスを停止する流れになっています。ゲーム業界も例外ではなく、任天堂とソニー、マイクロソフト(MS)のゲーム機を発売する3社が、そろって「販売停止」をアナウンスする形になりました。

◇3社で微妙に異なるアナウンス

 3社のうち最初にアクションを起こしたのはMSです。4日、ロシアでの製品とサービスの新規販売をすべて停止すると発表しました。つまり、同社のゲーム機「Xbox Series X」も対象となります。同社はわざわざプレスリリースを出して「世界の他の地域の人たちも感じているように、私たちはウクライナ戦争から入ってくる映像やニュースに恐怖や怒り、悲しみを覚え、ロシアによるこの不当でいわれのない違法な侵略を非難しています」とアピール。踏み込んだ表現になっています。

【関連】マイクロソフト、ロシアでの新規販売を停止(日本語版)

 続いて10日、ソニーグループ傘下でゲーム事業を手掛けるソニー・インタラクティブエンタテインメントが、ロシアへのゲーム機(PS5)とソフトの出荷の停止、インターネットサービス「プレイステーションストア」のロシアでの運営を停止すると発表しました。さらに4日に世界で発売したばかりの人気ゲーム「グランツーリスモ7」についてロシアでの販売を見送っていましたが、改めて発売停止をアナウンスしました。つまり4日時点から、そのタイミングを検討していたことになります。なお、MSとは異なり、企業としてプレスリリースは出さず、公式ツイッターでの発表に留めています。

 そして同日、任天堂もロシアでのゲーム機とソフトの出荷について、物流の混乱などを理由に中止すると明らかにしました。オンラインショップについては、ロシアでの決済事業者が取引を止めたため、ソフトの購入といったサービスが4日から利用できなくなっていました。なお任天堂は、プレスリリースとツイッターを使わず、報道関係者の問い合わせには答えています。

 そして三社は、発表の方法にも微妙な違いが見て取れます。MSはプレスリリースを使いロシアの批判の色が強め。ソニーはツイッターのみで政治色はMSに比べてやや薄目。任天堂はプレスリリースもツイッターでも発言せず、最も政治色が薄くて冷静と言えます。三社は同じ「販売停止」でも、行動の意味を考えると、いろいろなものが見えてくるわけです。

◇ウクライナ副首相が名指しで“要請”

 ゲーム業界の一連の動きですが、3月2日の動きが関係しています。ウクライナのフョードロフ副首相がツイッターで、ロシアなどでのネットサービス停止などを求める書簡を公開。「ロシアは全世界に宣戦布告しています」としたうえで、特にMS(@Xbox)やソニー(@PlayStation)に対しては、名指しでサービス停止の“協力を要請”したわけです。

 ウクライナに侵略を仕掛けたロシアに対して世界はほぼ非難一色ですから、ウクライナ政府の“要請”に首を振ることは難しいでしょう。「ユニクロ」の運営会社ファーストリテイリングは、当初ロシアで事業を続ける方針であることがネットなどで批判を浴び、その後方針を転換する形でロシアでの事業を一時停止すると発表しています。ユニクロの二の舞を避けるなら、ロシアへの販売・サービス停止になるのは予想がつく話です。

 ただしロシアも戦争に前向きかといえば、少なくとも国民の間では違うようです。そもそも、米欧のように言論の自由があるとは言えないロシアで、反戦の抗議があると報じられていますから、ただ事ではありません。一方でロシア政府に経済的ダメージ・圧力をかけて戦争継続をあきらめさせる意味でも、ロシア市場での販売・サービス停止には一定の効果があると推測されます。要するに複雑な問題であり、納得できる答えが出るとも思えません。

 ともあれ「新作ゲームが買えない」という立場に自身が追いやられたらと想像すると……。ロシアのゲームファンは、さぞガッカリではないでしょうか。なお、オランダの市場調査会社Newzooによると、2018年のロシア市場は約17億ドル(約2000億円)、約6500万のプレーヤーがいる巨大市場の一つです。

 そしてどこまでロシアを排除するかも、また難しいところです。世界的な人気サッカーゲーム「FIFA」シリーズで、発売元のエレクトロニック・アーツがロシア代表チームや、ロシアの有名クラブを削除すると発表しました。……ということは、ロシアの有名クラブに所属する外国人選手も削除となってしまうのでしょうか。一方でロシアの国外クラブに所属するロシア人選手は削除されないということになります。その判断の根拠は判然としません。一種の「見せしめ」というのはわかるのですが……。

 揺れ動くのは、ゲーム業界の関係者らも同様のようです。聞く限りでは、戦争は反対なのは大前提としてありながらも、「個人的な見解だが、正直言えばそこまでする必要はあるのだろか」など、一部の決定に疑問を持つ人はいました。ネットのゲームファンも「そこまでしなくても」という懐疑的意見は見かけたわけで、本当に難しい問題といえます。

◇ゲームの影響力の大きさゆえに…

 ゲームが政治に巻き込まれる話と言えば、2年前にもありました。2020年、任天堂の人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森」が、香港の民主化運動に関連して、香港政府や中国共産党に抗議するツールとして利用されました。その結果、同作が中国のネット販売市場で購入できなくなったことをロイター通信や共同通信などの複数メディアが報じ、話題になりました。

【関連】「あつまれ どうぶつの森」が中国の通販サイトから“消失” 「政治的な原因か?」憶測広がる(ハフポスト)

 一つ言えることは、ゲームは世界中で遊ばれていて人の心を虜(とりこ)にすること、そしてゲーム産業が世界で20兆円産業に成長したことと無縁ではないでしょう。世界中の人々に強い影響力を及ぼすようになったということは、ゲーム会社の意図とは別に、政治の思惑に巻き込まれやすくなるわけです。そしてゲームがそうした「かけひき」に翻弄(ほんろう)されることは、今後も避けられないのかもしれません。

 特にゲームはネットと親和性が高く、ネットで積極的に発言する人が多いのも特徴です。世界的な世論を味方につけるためにも、ゲーマーをターゲットにした政治的なアプローチはあるでしょう。そしてネットの発言だけで終わるかといえば「ノー」でしょう。戦争は今や、リアルや経済だけでなく、サイバー攻撃もあり、見えないところで激しい戦いが繰り広げられているのは明白だからです。ロシアでの事業停止をした企業に対して、それを良く思わない人たちが行動を起こさなければ良いのですが。

 人々を不幸にする戦争が一刻も早く終わることを祈っています。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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