人気ゲームのフェイクニュース 複数メディアが誤って記事化なぜ?
先日、SNKの人気ゲーム「メタルスラッグ」シリーズの新作がPS4・PS5向けに出るというツイッターが出回り、複数のゲーム系メディアが記事にしました。ところがSNKの公式ツイッターが、元になったツイッターをフェイク(偽)と否定。「勇み足」で記事にしてしまったメディアは、謝罪・訂正をすることになりました。背景にある三つのポイントを考えてみます。
◇迅速な訂正も… 根深い問題
「メタルスラッグ」シリーズは、20年以上の歴史がある人気シリーズで、戦場を舞台に戦うアクションシューティングゲームです。ドット絵が滑らかに動く良作で、多くのゲーム機に出ています。ジャンルは違いますが、スマホゲームにもなっていますね。
ライトユーザーの誰もが知っているわけではないのですが、しっかりした作りだけに根強い人気を誇っています。だからこそ、今回のネタが出たとき、多くのゲーム系メディアが反応したわけです。
人間は誰しも間違いはあります。そして間違いが判明した後の謝罪や訂正、フォローは丁寧にしていました。ただし、この問題は起こるべくして起きたともいえ、根深い問題があるのも確かです。
ちなみに「SNKグローバル公式」とは、ツイッターの「SNK GLOBAL」を指しています。ですが正確に言うと、SNKの海外ファン向けの情報発信用アカウントであるため、運営しているのはSNKです。英語での情報発信に「SNK GLOBAL」というアカウントを使っています。
そして記者やライターが記事にする際は、何かの取材をして裏を取るのは、基本中の基本です。もしツイッターをソースに記事を書くならば、「〇〇のツイッターによると」などと根拠となる情報の身元を示す方法もあります。他のメディアでも「〇〇通信によると~」などと、他社のニュースを引用することもあるからです。
なおSNKの広報宣伝部に「今回のメタルスラッグの件で、記事化にあたって問い合わせをしたメディアはいたか」と尋ねると「1件もありませんでした」とのことでした。1媒体なら担当者の「うっかり忘れ」もあるのでしょうが、複数媒体がそろって確認していないのです。
◇スピード最優先の空気
フェイクニュースは、世界的な問題になっています。今回のフェイクニュースを作った人の目的も、愉快犯なのか判然としません。そしてフェイクニュースへの対策は難しい面があり、メディアの「台所」事情も関係しています。
第一に、メディアが速報合戦を展開していることです。ライバルメディアよりいかに早く記事化し、掲載するかが重視されます。面白いネタをいち早く記事にしてアクセス数が跳ね上がれば、メディアに収益をもたらします。逆にタイミングが遅れると全くアクセスが伸びないということもあり、記事掲載のスピードは最優先される空気があるのです。
メディア所属経験のある男性ライターは「最近の(ゲーム系)ニュースサイトは基本は裏を取らないようで、メーカーへの問い合わせとか全然しない。記事掲載の時間が遅くなると拡散力が落ちるので、以前より格段にスピード勝負になってます」と話しながら、裏取りをしないやり方に懸念を示していました。
第二に、英語での発信だったことです。日本語での問い合わせは難しく、さらに時間がかかると考えてしまいます。そうなると「今、ネットであることで書いてしまえ」となりがちです。まあ今回の場合、実態はSNKに日本語で問い合わせれば、すぐわかったのですが……。
掲載の決定と同じく、掲載の見送りをする決断も大切なことなのですが、記事を書かないとアクセスが稼げません。また他メディアが報じてしまえば、「他社も書いてるから大丈夫」と考えてしまい、確認がおろそかになる心理も働いたのでしょう。
最後は、情報の価値が極端に大きすぎず、いかにも実際にあり得る内容だったことです。「メタルスラッグ」シリーズは、コアなゲームファンには知られたタイトルです。ゲーム業界の事情に詳しいと、かえって先入観が入ることがあるのです。
2019年12月、ソニーの家庭用ゲーム機「PS5」の発売日と価格が、公式の発表前に出たネットでうわさになり、ゲームファンの間で拡散しました。しかし、各メディアは飛びつきませんでした。ビッグニュースが唐突に出たことが、極めて不自然だったからです。
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しかし今回のフェイクニュースは、ゲームに精通しているほど「いかにもありそう」な絶妙なネタでした。
◇記事の費用帯効果とは?
ビジネス視点で見ると、メディア運営で収益を上げるには、アクセスの稼げる記事を多く発信できるかが重要です。そして、確認を徹底してしっかり時間をかけた記事だからといって、特別に読まれるわけではありません。プレスリリースを素早く記事にして「一番乗り」で出す方が、得るものが大きいわけです。そして、プレスリリースは各メディアに配信されますから、さらなるネタを求めてネットに目を光らせることになります。
記事作成の効率化という意味では近年、ネットの反応を拾って、それをまとめただけの記事も目立ちます。メディアがなぜそんな手を使うのかと言えば、記事が読まれることに加え、作成の手間がかからないからです。手をかけないでアクセスを稼げるノウハウが開発されたのですね。プレスリリースの文面の大半をコピーして作る記事もありますが、スピード優先の観点から生まれたと言えます。
メディアで編集長の経験がある業界関係者は、今回の問題の背景について、労務と職業倫理、人材育成の問題を挙げました。(1)経験・実績のある人材(デスク級)の長時間勤務が難しく、記事の質が低下しやすい(2)ライバルメディアの記事を見るだけで、事実確認を取らずにそのまま書くようなケースが見受けられる(3)メディアの中には、記者・ライターの教育システムが確立されていない場合があり、そうした場合は人材の質が落ちてしまう……と説明。その上で「PV(ページビュー)さえ取れたら、後は何とかなるというロジックが突き進んだ先のあだ花がこういう話になってくるのかな」と指摘しています。
フェイクニュースの対策のキモとなる「確認」作業ですが、掲載スピードが犠牲になるわけで、それは収益を犠牲することを意味します。ですがその結果、メディアの運営が厳しくなれば、それはそれで困る人も出るわけです。この問題とどう向き合うのかが問われています。