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米津玄師の新曲 ゲーム機を“優先”で発表 「流出」も織り込み済み?

河村鳴紘サブカル専門ライター
米津玄師さんが出演するプレイステーションのテレビCM=SIE提供

 アーティストの米津玄師さんが出演するプレイステーション(PS)のテレビCMが24日から放送され、新曲「POP SONG」が披露されました。情報の出し方がユニークでしたので、振り返ってみます。

 まず22日午後5時「米津玄師×プレイステーション」の告知と共に、PSのCMに米津さんを起用すると発表。そして23日中に動きがあることも触れられました。

 すると23日午前0時、ゲームファンたちのスマートフォンが鳴りました。PS4かPS5にアクセスすると、抽選で新CMが1日早く見られるというお知らせでした。特定の人にアクセスできる権利を与える「アーリーアクセス」というものです。しかし、この仕組みが理解できず「見られない」と混乱する人も見かけました。

 なお私は抽選に外れたものの、すぐ新CMを楽しむことができました。誰かがネットに新CMをアップをしたからですね。CM内の米津さんの姿は、大ヒット曲「Lemon」のイメージがある人からすると、驚くものだったかもしれません。

 そして24日早朝、テレビの情報番組などでCMが紹介。そして午前8時には公式YouTubeでも配信されました。

 ゲームファン以外のために一つ補足説明をします。なぜ発表が「1月23日」なのかといえば、初代PSの発売日12月3日にちなんでます。「1・2・3」はPSのキャッチフレーズで、話題作りの一つになってるのですね。

 米津さんは、楽曲制作だけでなく、CMの変身するアイデア、キャラクターデザインなどにも参加したそうです。

 米津さんの所属レーベルはSME Recordsで、PSはソニー・インタラクティブエンタテインメントですから、意地悪く言えばソニーグループ内の企画です。しかしそうであっても、米津玄師さんという大物の起用はインパクトがありました。

 そしてこの手の情報の出し方ですが

(1)CMを普通に放送するだけ

(2)自社サイト・チャンネルで発表

(3)プレスリリース配信

……のいずれかで終わっていた話です。それだけで終わらせず、驚くような話題を作ろうという意気込みがうかがえます。

 しかも限られた人への「アーリーアクセス」といっても、誰かがネットの海に放出するのは分かり切っている話。逆に「流出」も織り込んでいるのは明らかで、どうしても「CMが見たい」という人には結果として手が届くようになっています。

アーリーアクセスのお知らせ=SIE提供
アーリーアクセスのお知らせ=SIE提供

 この手の話題作りは、他のコンテンツでも悩むところです。同じ仕掛けばかりするとマンネリ化は避けられません。プレスリリースを出して、メディアの記事を狙うにしても、プレスリリースから書けばどうしても似た内容の記事になります。そうであれば、情報を発信する側が、ユーザーに刺激を届けるための工夫をするしかありません。

 最大のポイントは、人気アーティストの新曲をゲーム機というプラットフォームで発表したことでしょう。しかもテレビの情報番組よりも先んじて、特定の人にのみ映像を届けることができたわけです。この仕組みは、他のアーティストの楽曲発表、映画やアニメの先行PV公開などにも応用できそうです。

 また今回のアーリーアクセスは、「PSネットワーク」のアカウントから選ばれています。今回の施策は国内のみの話ですが、やる気になれば世界中(月間アクティブユーザー数1億400万)でも展開できます。

 さらにアカウントは「ゲーム好き」の属性があり、かつその中の多くは、有料でサービスをするユーザー(PSプラス、会員数は世界で4720万)でもあります。囲い込んだユーザーに対しては、ロイヤリティー(ユーザーの忠誠心)を高めるため、こうしたサービスは有効と言えそうです。

 そういえばSIEは、PS5の発表時にもさまざまな工夫をしていました。次はどんな仕掛けをしてくるのか。PS5本体が依然として人気で品薄になるなど大変ではありますが、注目したいと思います。

【関連】PS5 異例続きの発表方法なぜ

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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