宮崎駿監督のアニメ映画「紅の豚」が14日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で放送されます。1992年に公開された誰もが認める名作の一つですが、なぜ主人公がブタなのか……という疑問が浮かぶ作品でもあります。

 「紅の豚」は、イタリアのアドリア海を舞台に、飛行艇に乗って賊を倒して賞金を稼ぐブタの姿をした男性ポルコの活躍を描いた冒険活劇です。ポルコの幼なじみで淑女のジーナ、飛行艇整備士の少女・フィオ、ポルコにライバル心を燃やす飛行艇乗りのカーチス。彼らとの関係が見どころになります。

◇「中年男」のための作品

 ジブリ作品といえば「老若男女問わず楽しめる」というイメージがあり、それは「紅の豚」も同じです。しかしメイン・ターゲットは中年男性向けです。宮崎さんの著書「出発点」(徳間書店)や映画のパンフレットなどに「紅の豚メモ 演出覚書」として記されています。

国際便の疲れきったビジネスマンたちの、酸欠で一段と鈍くなった頭でも楽しめる作品、それがこの「紅の豚」である。少年少女たちやおばさまたちにも楽しめる作品でなければならないが、まずもって、この作品が「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男たちのための、マンガ映画」であることを忘れてはならない。

 確かに「紅の豚」のストーリーはシンプルで、分かりやすいですよね。同時に、ポルコの設定は、中年男の願望のようにも見えます。輝かしい過去(イタリア空軍のエース)があっても自慢しません。そして組織に頼らない、自己を確立した一匹狼。おまけにブタなのに、淑女だけでなく、若い子からも好意を寄せられます。それでいて、照れながらもハードボイルドに振る舞います。

◇「そもそも何で豚なんですか」

 一方で、あいまいな部分もあります。なぜポルコがブタなのかは、作中では明確に説明されていません。当然、製作時にも同じツッコミが入りました。

 プロデューサーの鈴木敏夫さんの書籍「天才の思考」(文春新書)によると、鈴木さんが最初の絵コンテを見たときに、冒頭からいきなり豚のキャラが出て、作中で豚であることに触れない点に違和感を覚えたそうです。そして宮崎監督に「そもそもこいつは何で豚なんですか」と質問。すると宮崎監督が「すぐに原因と結果を明らかにしようとする。結果だけでいいじゃないか」と怒ったそうです。

 そして、鈴木さんの説得?を受ける形で宮崎監督は、次々とシーンを追加して、今の形になっていきます。

 そして、そのファジーな面は、宣伝にも影響を与えました。鈴木さんの別の書籍「仕事道楽 新版」(岩波新書)では、鈴木さんが「自分に魔法をかけて豚になった男の物語」という、見事なコピーをつけた後で、宮崎監督の盟友・高畑勲監督から「そんなことがこの映画のどこにある? これは宣伝の領域を超えてるよ」と皮肉られたそうです。

 ですが、そういう解釈、想像の余地が働くところにこそ「紅の豚」の面白さがあるのも確かで、それがシンプルな物語に深みを与えています。そもそも、何かを「書かない」ことも、何かを表現するのと同じぐらい大事なことだからです。そして、その塩梅は難しいもので、多くのクリエーターを悩ませてきました。

◇中年になると豚になる?

 なお映画のパンフレットにも、なぜ主人公がブタなのかが、質問として投げかけられています。ただし冒頭部では「ポルコはなぜ『ブタ』になったのか--謎は最後に解き明かされる筈(はず)です」とありますが、巻末の宮崎監督のインタビューでは作中でポルコが「なぜ、豚なのかは一言もふれないつもりです」と宣言しています。この「矛盾」も作品の本質を突いていて、面白いところです。

 そしてインタビューで宮崎監督は、「なぜ主人公がブタなの?」という質問に対して「豚(ブタ)が主人公でいけないという法はないでしょう? 人は年をとり、中年になると豚になるんです(笑)」と、ぼかして回答しています。普通の中年になる人間もいますが、ポルコはあえて「ブタでいい」と思ったのだそうです。

 イヌでもなく、ネコでもなく、ネズミでもなく。どちらかと言えばマイナスのイメージがあるブタを主人公にしたことで、実は困ることもありました。同作の制作は、飛行機がらみということで日本航空(JAL)ありきで始まっているのですが、タイトルに懸念があったそうです。さらに試写を見るまでJALの社長がタイトルを知らなかったことも明かされています。そこまで知ると、いろいろな見方ができそうです。

 結局ポルコはなぜブタになったのか……。ですが経緯を丁寧に提示したところで、受け取る側が納得するとも思えませんし、かえって無粋でしょう。そうであれば、それぞれの考えで捉えるのが望ましいと思えるのです。