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「道徳のよう」と話題のFF14規約改定 誹謗中傷など問題の具体例挙げた狙いと背景

河村鳴紘サブカル専門ライター
オンラインゲーム「ファイナルファンタジー14」

 スクウェア・エニックスの人気オンラインゲーム「ファイナルファンタジー(FF)14」が10月27日に改定した規約で、プレー時の禁止事項について具体例を挙げたことが「道徳のようで素晴らしい」などと話題になりました。規約は、柔軟な運営のために抽象的な表現になることが普通です。なぜここまで踏み込んだのでしょうか。

◇「異例の建て直し」が話題に

 FF14は、広大な世界「エオルゼア」を冒険するオンラインRPGです。MMORPGというジャンルで、多くのプレーヤーが同じ世界で同時に遊ぶため、現実世界に近い雰囲気があるのが特徴です。

 具体的にはプレーヤーは自分の分身となるキャラクターを自由に作成し、世界へ飛び込みます。何をやっても良く、戦闘はもちろん、モノづくり、収集、ファッションもあり、自分の家も持てます。もちろんゲーム内の絶景をぼーっと眺めたり、世界を歩き回るという楽しみもありです。

 実は波乱万丈のゲームでして、2010年にサービスを始めたものの不評を受けて大規模改修。絶体絶命だったのですが2013年にリニューアルすると、出来の良さから人気が爆発。ゲーム業界でも「異例の建て直し」として話題になりました。

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 改修後の人気を受けて取材をさせてもらったことがあるのですが、ガイドが充実した親切なゲーム設計で、オンラインゲームでありながらパッケージゲームのように一人でも遊べる懐の深さがあります。私も「召喚士」としてプレーし、戦いはそこそこに、釣りに明け暮れたものです。12月7日には拡張コンテンツ第4弾「暁月の終焉」の発売を控えていますが、長年遊ばれ続けていることが分かりますね。

◇問題行為の具体例 ネットも同じ

 さて改定された規約ですが、プルダウンにして問題行為の具体例を分かりやすく列挙しています。「暴言/誹謗中傷/侮辱/脅迫などの攻撃的な表現」「過度な批判/非難/否定/嘲笑などの他者を刺激したり軽視したりする表現」の中から、ゲームをプレーしてない人でも分かりやすい例を3つを挙げてみます。

・「ばか」「あほ」「くず」「死ね」「消えろ」「頭おかしい」「ゴミ」などの侮辱的な言葉を用いて、他者を攻撃することは禁止されており、通報が行われて当社によって禁止行為に該当する内容が確認された場合は、ペナルティが科されます。また、直接的な言葉を用いなくとも、「全滅したのは〇〇のせいだ」「ほんとミスばっかりだな」など、他者を責め立てて攻撃するようなことや、「ゴミ」を「53」などのように言い換えた表現も禁止行為に該当します。

・「そのミラプリセンス(著者注:キャラクターのコーディネートのこと)無いからやめたら?」「お前の喋り方気持ち悪い」など、他者の特徴を持ち出して攻撃することは禁止されており、通報が行われて当社によって禁止行為に該当する内容が確認された場合は、ペナルティが科されます。

・意見の食い違いが発生した際に「貴方のようなタイプは一生そのままですね」と表現するなど、建設的なアドバイスもなく、責め立てるような表現をすることや嫌味を言うことは禁止されており、通報が行われて当社によって禁止行為に該当する内容が確認された場合は、ペナルティが科されます。

ファイナルファンタジーXIV禁止事項 「◆不快な表現」の「ポイント」

 同作を遊んでいなくても、ドキッとする人は多いのではないでしょうか。この話はゲームに留まらず、ネットにも言えるからです。批判や指摘という“大義名分”を掲げて、考え方や価値観の異なる他者を強く攻撃して炎上するSNSの各トラブルと似ています。だからこそ、同作の規約改定を見た人は「分かりやすいし、良くできている」と感心したわけですね。

 同社はここまで示しても、説明不足と判断したのでしょう。数日後に「ファイナルファンタジーXIV禁止事項」の更新に関する補足をアップして、普通にプレーしている人には問題ないし、相手に配慮した言動を取りましょうと呼びかけています。

 それにしても常識なのに「ゲーム以外にもいえることで素晴らしい」と話題になること自体が、ゲームだけではなく、SNSを含めてネットでの誹謗中傷の根深さを示しています。SNSでは、相手の存在を否定すると取れるような、そして相手を屈服させようとする攻撃的な言葉が飛び交っています。

◇FF14チームに聞く 大切なのは相手への思いやり

 そして具体例を挙げるということは、それらを逆手に取られてしまうリスクもあります。にもかかわらず詳細な具体例を挙げたのでしょうか。そこで「ファイナルファンタジー14チーム」に、規約改定の狙いを聞きました。

ーーFF14について、具体例を挙げた禁止事例について、加えたのは10月27日ですか。

 はい。公式サイトのトピックスで告知しましたとおり、2021年10月27日に「FF14禁止事項」ならびに「アカウントペナルティポリシー」の2つを更新いたしました。

ーーFF14で、具体的なプレーの例を挙げながら禁止事項を規約に盛り込んだのは初のケースでしょうか? (2002年からサービス中のオンラインゲーム)「FF11」を含めても初めて?

 FF11とFF14は異なるサービスですから、必ずしも規約類が同一ということではないのですが、ご認識のとおり、FF11も含めて規約関連ドキュメントの中で禁止事項の詳細な具体例を挙げるのは今回が初めてです。

ーー具体的な禁止事項を発表することで、一定のリスク(一部ユーザーの反発)があると思うのですが、開発チーム内で懸念はなかったのでしょうか。

 ご質問にある「一部ユーザーの反発」というところは、懸念ではありませんでした。記載した事例はあくまでも例であり、それがすべてではありませんし、キチンと運用していけば、プレーヤーの皆さんのご理解やご協力は得られると考えたからです。

 ただし、それ以外に、今回禁止事項に具体例を挙げるにあたり、2つの点で懸念したことがありました。

 ひとつ目は、詳細に書けば書くほど、「違反にならなければ(=ペナルティを科されなければ)何をしても問題ない」と考えるプレーヤーにペナルティのラインを探られてしまう可能性があるというものです。違反にはならなかったとしても、他者とコミュニケーションをとるうえで大切なことは、他者を慮(おもんばか)る気持ちです。そこがこれまで具体例を記載してこなかった大きな理由の一つでした。しかし、現実世界でも時勢とともにハラスメントの考え方や対応方法が変わっていくように、人によって捉え方の差が大きくなる事例が目立つようになったり、「よくわからないが故にルールを守れない」といったようなお声を多数頂戴したりするようになりました。このような事象に対応するため、あくまでも参考のための一例であることは明示しつつ、具体的な禁止事項の追加を決めました。禁止事項に書かれている大半のことは、FF14に限らず、特にオンライン上で不特定多数の他者とのコミュニケーションをとるうえでは大切なことです。他者を慮り、より良いコミュニケーションをとるうえでの参考にしていただければと考えています。

 もうひとつは、今回の変更が広く周知されていく際に、特に日頃から詳細までは情報を追っていないような方から、FF14が混沌としたサービスであるかのように際立って見えてしまう可能性があるということです。MMORPGというジャンルで非常に多くの人が一堂に会するサービスであることから、コミュニケーション上のトラブルは確かに発生することではあります。しかし実際には、普通にプレーをしているぶんには、プレーヤーの99%以上の方はこのような不快な出来事に遭遇することはありません。それでもなお、何が違反であるかを正しく把握しておくことは、予防や危機回避にも繋がりますし、万が一自分がそのようなトラブルに巻き込まれてしまった際に、適切なサポートを得られる手段を知ることにもなりますので、多くの皆さんに正しい理解が広まってもらえればと考えています。

 このように正しい理解が進むことで、より健全なコミュニケーションが発展することが大切と考えており、これら懸念よりも将来的なポジティブさを重視し、長く続くサービスを更に向上させよう、という意思のもとに規約改定が実施されています。

ーーFF14の現在のユーザー数などの規模を教えてください。またゲーム中におけるユーザーからの問い合わせは、一日平均何件ぐらいあるのでしょうか?

 課金会員数は開示しておりませんが、FF14は、現在までに全世界で累計2400万人を超える皆さんにご利用いただいています。プレーヤーの皆さんからのお問い合わせは、時期によっても異なるものの、最近ですとグローバル全体で1日2000~2500件程度のお問い合わせをいただいています。詳細な内訳は公表しておりませんが、大別してログイン情報の確認やプレイ料金といったアカウント関連のお問い合わせが最も多く、次いでインストールやゲームの起動、プレー環境といった技術的お問い合わせが多くを占めており、プレーヤー間トラブルは全体の一部でしかありません。

ーーFF14で多いユーザートラブルは。

 プレーヤー数から考えるとトラブルは比較的少なく、他者を慮ってプレーしてくださっている方が多い印象ではありますが、発生するトラブルの中では発言に起因するコミュニケーショントラブルが多い傾向にあります。

 FF14での主なコミュニケーション手段は、文字によるチャットです。そのため、口頭でのコミュニケーションと比べて、発言時のニュアンスや温度感、雰囲気といった情報を付加することが難しくなります。トラブルの中にはもちろん直接的な不適切な表現や乱暴な言葉遣いというものもありますが、ニュアンスがうまく伝わらなかったことからボタンの掛け違いが重なり、最終的にトラブルにまで発展するというケースも少なくありません。

ーーFF14の運営にあたり、ユーザー間のトラブルに対して、ユーザーからの通報があれば積極的に介入して解決する……という考えでしょうか?

 ひとつひとつの通報に対する対応については、積極的でも消極的でもなく、決められているルールに沿って対応を行うことになります。そのうえで、ルールが実情にそぐわないという状態になったり、プレーヤーから解決してほしいといった声が多くなったりするケースでは、今回の禁止事項の改訂のように、新しいルールを決めて介入を行います。このように、プレーヤーの皆さんが快適にプレーできるようにするために、新しいルールを決めていくことは積極的に行おうと考えています。

 なお、大前提として、私たちのカスタマーサポートの方針は「困っている人を助ける」というものです。ゲームの不具合、アカウントトラブル、そしてプレーヤー間の揉め事など、プレーヤーが自分自身で解決できない何らかの原因によってゲームを楽しんで継続することが困難になってしまった場合に、私たちは求めに応じてその原因の解消に取り組んでいます。

 ですので、なんでもかんでも介入してということではなく、「FF14のサービス運営上、やってもらっては困ることが確認された」もしくは「その状況が著しく不快、または困った状況に陥っていてゲームを継続できなくなっている」のどちらかの場合に介入を行います。通報やサポート依頼があった場合には、しっかりと調査を行ったうえで必要な対応がとられます。プレーヤー間トラブルの場合には、通報の対象となった言動の判定だけでなく、そこに至る経緯も含めて、ゲーム内の様々なログを確認して客観的な総合判断を行うように心がけています。

 改めてとなりますが、あくまでも、「お互いが相手を慮(おもんばか)って、楽しくプレーしていただく」というのが理想であり、私たちが目指すところになります。トラブルに対して積極的に介入、という意図はまったくなく、時流に沿ってもう少し踏み込んだ具体事例を示すことで、より理想へ近づけていきたい、ということがすべてになります。

◇もう一つの顔「驚くほど親切で優しい世界」

 FF14チームの指摘はもっともです。

 今回の具体例を示した規約改定の背景には、大多数は問題ないものの、一部の心ない言動や振る舞いがネックになっていることを示しています。ネットの世界では、トラブルになっても逃げることが簡単と思っている人がいて、意図して攻撃的な態度を取る人もいる……ということです。相手をやり込めればスカッとするでしょうから、ストレス解消にしている人もいるのかもしれません。

 なおFF14のような発言の証拠の残るテキスト(文字)よりも、証拠の残りづらいチャット(音声)の方が問題もしれません。

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 私もさまざまなオンラインゲームをプレーしていた経験から言えば、多くの人が集まると、いろいろあるのは確かです。目的やプレースタイルは人それぞれで、意見も多様ですから、ゲーム内の任務をクリアできなければいら立つ人もいるでしょう。また熱中するほど議論は白熱し、キツイ言葉が飛ぶのを実際に見たこともあります。

 ただ一方で、(ゲームにもよるのでしょうが)、もう一つの顔もあります。驚くほど親切で優しい世界なのです。困っていると人助けをして課題をクリアしたり、攻略法を教えたり、初心者を支援するのは「当たり前」のような文化が根付いていました。異文化交流も体験でき、英語でコミュニケーションを取って同じ目標を達成すると、相当うれしいものです。

 そして、オンラインゲームのトラブルはごくまれで、親切にしてもらい、楽しんだ体験の方が圧倒的に強いのです。だからこそ長くサービスが続くわけで、オンラインゲームをきっかけに現実世界で結婚した人も身近にいます。初めてオンラインゲームをプレーすると、パッケージゲームとの違いに驚くはずで、ゲーム内世界の躍動感も感じられます。今流行のワード「メタバース」的な世界を先に再現しているともいえるかもしれません。

 ネットの世界では、相手の顔が見えないだけに現実世界以上に相手への配慮は必要です。その知見を蓄積したFF14チームから、トラブルの具体例が示されたわけで、今回の規約改定でより理解を深めた人もいるはずです。そして、自分の価値観に合わないものを封じるために攻撃的な発言をする人が(特にSNSで)1人でも減るのであれば、大変有意義なことではないでしょうか。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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