「人生を失う前にゲームを止めましょう」 鹿児島県警のツイート問題 でも本質は別にある

(写真:show999/イメージマート)

 世界保健機関(WHO)が、ゲームのやり過ぎで日常生活が困難になるとされる「ゲーム依存(障害)」ですが、「疾病」と認定されても異論や疑問が挙げられています。そんな中、鹿児島県警察本部サイバー犯罪対策課がツイッターで、ゲーム依存に触れ、「人生を失う前にゲームを止めましょう」と書き込みをしました。

鹿児島県警察本部サイバー犯罪対策課のツイート=現在は削除
鹿児島県警察本部サイバー犯罪対策課のツイート=現在は削除

 サイバー犯罪とは無縁の「ゲームを遊ぶ行為」に対してのツイートに反論が寄せられました。その後、サイバー犯罪対策課はツイートを削除し、「不愉快な思いをされた方については誠に申し訳ありませんでした」と謝罪しました。

 投稿の理由について、「長時間のゲームによりリスクが高まると注意喚起をすることが目的だった」と説明しています。

県警サイバー犯罪対策課の担当者が10日に投稿した。同課は投稿削除に関し「医学的知見を持たないのに断定したのは不適切だった」と説明。改めて「不愉快な思いをされた方には誠に申し訳ありませんでした」と投稿した。1日からの「サイバーセキュリティー月間」に合わせ、長時間のゲームによりリスクが高まると注意喚起をすることが目的だったという。

ゲーム障害巡る投稿削除、鹿児島 県警公式ツイッター、批判集まり(共同通信)

 サイバー犯罪対策課のツイートを見る限り、これまではサイバー犯罪防止の呼びかけを丁寧にしていました。今回の問題ツイートのニュアンスを好意的に解釈すれば「ゲームのやりすぎに注意を」という感じなのでしょう。それでも「人生を失う前にゲームを止めましょう」の文言は、まるで標語のようにインパクトがあるのは確かで、それも怒りをかったのは推察できます。おまけにゲーム依存は、サイバー犯罪との関連性がなく唐突感は否めません。

◇「ゲーム依存」が拡大解釈されて一般に広がっている

 お上の失言を見つけて、反撃の心配をせず叩くのは、実にスカッとする……というのはあります。

 ですが、それで終わりではありません。この問題の本質は「ゲーム依存」にツッコミどころがありながらも、推進派の狙い通りに一般層へ広がり、しかも拡大解釈されて広がっていることです。鹿児島県警も「大丈夫」と思ったからこそツイートしたわけですし、ヤフートピックスになった共同通信の記事のコメント欄でも、ゲーム依存が確定された揺るぎない事実と捉えているものが見られます。

 そもそも「ゲーム依存」を説明するのは大変です。2019年に「疾病」に認定されましたが、不確かな部分もあります。そもそも定義は厳しく「12カ月以上」「ゲームを遊ぶ習慣をコントロールできない」「現実世界で悪影響を及ぼしてもゲームをやめられない」というものです。ですが、そんな定義は無視して「ゲームに熱中する=ゲーム依存」というイメージが確立しつつあります。

原案:河村鳴紘(WHOの定義を下に書かれた文章を元に作成)/画像制作:Yahoo! JAPAN
原案:河村鳴紘(WHOの定義を下に書かれた文章を元に作成)/画像制作:Yahoo! JAPAN

 ゲームといっても幅広いわけで「信長の野望」や「桃太郎電鉄」「マインクラフト」などの教育に役立つゲームもあり、オンラインゲームを使って英語の訓練になる場合もあります。そしてゲーム感覚で遊べる知育アプリも存在します。バリエーションがあるのに、そこには触れられていません。つまるところ、ゲーム依存の研究が不足しているので、そうならざるを得ないのです。要は先に「病気」だけが確定して、詳細は現在研究中なのです。だからこそ、疾病の適用は2022年となっているのですね。

 さらにWHOの認定には、アルコールやギャンブルなどの依存症を専門にする久里浜医療センターの意向が働いており、WHOのプロジェクトの予算を同センターが一部拠出しました。ビジネス視点で見ると、投資(プロジェクトの予算拠出)は回収・成果(ゲーム依存=疾病という結論)が必要です。第三者的な公平な視点が入るかは期待するのが難しいでしょう。

【参考】WHO「ゲーム依存」疾病認定までの6年間、舞台裏の記録(ハフポスト)

【参考】「ゲーム障害」を過度に心配してはいけない理由(WIRED)

 そしてWHOは「病気」と認定した後、昨春の新型コロナウイルスの感染拡大では、在宅をするためにゲームを推奨するキャンペーンをしました。ゲーム依存が確たるものでないからこそ、こうした矛盾が起きるわけです。

【参考】ゲーム業界とWHO、「PlayApartTogether」キャンペーン 新型コロナウイルス感染拡大受けて(ねとらぼ)

 昨年、香川県のゲーム規制条例が施行されましたが、条例は憲法違反として、高松市の高校生と母親が同県に損害賠償を求めた訴訟を起こしています。ゲーム規制条例は、成立時にパブリックコメントを偽造したという疑惑も報道されています。ゲームを規制するために民主主義のルールを軽視するなど、同条例もツッコミどころが多いのです。

【参考】ゲーム条例めぐる訴訟、原告「憲法違反」 県は争う姿勢(朝日新聞デジタル)

【参考】【解説】ゲーム条例のパブコメ「ご意見箱」に連続投稿の疑い…同じ誤字も多数 香川(瀬戸内海放送)

 ですが、上記の問題はゲームに興味のない大多数の人に関係ありません。ゲーム好きの子供たちは多く、親の悩みのタネであるのは事実です。だからゲーム依存の話を聞けば「うちの子が勉強をせずにゲームばかりするのは、それが理由だ」と支持したくなるでしょう。まだ不明な点が多く、複雑な問題があるにもかかわらず、WHOのゲーム依存の疾病認定、香川県のゲーム規制条例の流れだけを見ると、「ゲーム規制はした方がいい」と思うのが普通です。「国際機関が認めた」「自治体が認めた」というのは大きいのです。

 最近の「ゲーム依存」の記事は、「ネット依存の疑いのある中高生は93万人」というデータが使われています。ところがこのデータは、昨年2月に厚労省が開催した「ゲーム依存症対策関係者連絡会議」で、データのとり方に疑問があり、当時のメディアが総じてスルーしています。それも時間が経過すると、ゲーム依存の“証拠”として使われるわけです。

【参考】厚労省研究班調査:国内中高生93万人にゲーム依存の疑い?!が報道される前に(木曽崇)

 サイバー犯罪対策課のツイートは、「ゲーム依存」が“事実”として捉えられている流れの一つに過ぎないとみると深刻な話です。そして今後も多くの公的機関などで同種の発言が続くでしょう。その都度、ゲーム依存の発言をたたくだけでは、ゲーム規制の流れは変わりません。そしてゲームを規制しても、この国の教育システムなどの根本的な問題を解決しないかぎり、何も変わらず、次の「スケープゴート」を探すだけのことだと思うのです。

追記(2021年2月15日午後1時36分)誤解を招く可能性のある表現があり、一部修正しました。