アニメ「PUI PUI モルカー」なぜ人気が爆発した? 「鬼滅の刃」との類似点も

「PUI PUI モルカー」の公式サイト

 愛くるしい“しぐさ”にハートを奪われること必至のアニメ「PUI PUI モルカー」。今月5日にテレビ東京系の子供向け番組「きんだーてれび」(毎週火曜午前7時半)で始まると、放送前はノーマークながら公式ツイッターのフォロワー数が約30万になるなどネットで話題になりました。なぜでしょうか。

◇モルカー人気 三つのポイント

 同作は、見た目はモルモットのぬいぐるみなのに、短足を駆使してキュートに“四足歩行”する車「モルカー」が、さまざまな出来事に巻き込まれる3分アニメ(正確には2分40秒)です。公式で第1話を見ることができます(見られないリンクもあります)。

 第1話は、困った人のせいで道路が渋滞し、病院を目の前にしながら救急モルカーが立ち往生も、爆笑の“逆転劇”が起きる……という内容です。現在4話まで配信中ですが、その魅力は三つあります。

 第一は「見た目のインパクト」です。ずんぐりボディーに愛くるしい目、羊毛フェルトのふかふか感は、思わず触りたくなる魅力を放っています。非公式のグッズが制作、フリマサイトなどで売買され、公式ツイッターが注意喚起するほどでした。

 第二は、見た目だけでもインパクトのあるモルカーが、動くと魅力がさらに数倍にアップすることです。モルカーの“四足歩行”のトコトコ感、耳の動きのパタパタ感、涙目でふるえる姿に萌えるでしょう。かくいう私も萌えました。

 アニメを見慣れない人は、実写のように思える同作ですが、「ストップモーションアニメ」という手法で、静止画をコマ送りにして動いているように見せるものです。コアなアニメファンでなければ、アニメといえば「イラストが動く」ようなイメージがあり、人形劇のようで新鮮に感じた人もいるでしょう。

 最後は、子供向け番組ながら、大人の鑑賞にも耐えうる深みがあることです。視聴後は人の愚かさに苦笑いしてしまうでしょう。人間がトラブルを起こし、モルカーが解決するという流れに風刺的な要素もあります。

 なおモルカーらのせりふはなく、表情や耳の動き、仕草、効果音を巧みに用いて、さまざまな表現を演出しています。3分足らずの作品でありながら、起承転結があり、見た目の可愛さのイメージとは逆の濃密な内容。ギャップも視聴者の琴線に触れているのでしょう。3分と気軽に見られるためハードルが低いのもポイントです。

◇サブスク視聴の効率の良さも

 同作は放送前までは、プロであるアニメの関係者、ファンのいずれもノーマークでした。アニメファンが注目するのは、深夜枠などのスタンダードな30分アニメ(本編放送は20分強)で、約3分のショートアニメやパペット(人形)アニメは脇役的な扱いだからです。しかし、面白いものを見つけると、無名の作品でも素直に応援するのが、ネットの良さでもあります。見た目が可愛く、ストーリーに深みがある上、オリジナリティーもありますから、推しがいもあるでしょう。

 規模こそ違いますが「鬼滅の刃」も類似の流れです。テレビ放送後に「すごいぞ」という口コミを見て、サブスクのアニメ配信サービスを活用し、後追い視聴をすることも簡単なので、人気作の流行にも乗りやすいのですね。「鬼滅の刃」で後追い視聴を体験した人は多く、いちいち録画せずとも話題の作品をピンポイントで見られる「効率の良さ」もあります。

 ネットは話題にならなければ完全無風で、良い作品が日の目を見るとは限りません。そして企業が宣伝を懸命にしても動きがないのに、ユーザーの意外な一言が拡散して人気となり、爆発の連鎖がおきると100倍、1000倍になる世界です。普通のアニメ映画の興収は10億円が合格点なのに、「鬼滅の刃」は360億円を超えたようなことが起きました。ライト層に広げたのはテレビでしょうが、爆発の元はネットのパワーであったのは疑いの余地がありません。

 もちろん「鬼滅の刃」の域に達するのは難しいでしょう。また、他作品と作風がかぶらないこと、その時期の視聴者の求める雰囲気と合致するかなどの要素も大切なので、運の要素もあるでしょう。しかし、無名だろうと、王道でない3分アニメだろうと、中身がよければヒットの可能性を証明したのは大きいと言えます。

 そして放送前に完全ノーマークのアニメが、ここまで人気になるのですから、ネットで話題になること、幅広い視聴者の取り込みの重要性を改めて再認識できます。「PUI PUI モルカー」の人気を受けて、本物のモルモットにも注目が集まっており、放っておいても、世間がどんどんネタを広げてアニメの注目を高めてくれます。企業が宣伝せずとも、周囲がどんどん宣伝する必勝パターンです。

 もう一つ面白いのは、声優を起用せずとも人気を得たことです。今のアニメは、作品の人気を得るために、声優の人気を当てにしている側面があります。ですが「PUI PUI モルカー」は、せりふもナレーションもないからこそ、独特の雰囲気を生み出しています。

 「PUI PUI モルカー」の見里朝希監督ですが、東京藝術大学大学院の修了制作として発表した作品「マイリトルゴート」(2018年)が「パリ国際ファンタスティック映画祭」グランプリなどを受賞しています。人気作が出ると同タイプの作品が企画・放送されるのが常ですが、独特の作風だけになかなか大変ではないでしょうか。

 人気は日本だけのものではなく、台湾では「天竺鼠車車」と訳され、警察のフェイスブックアカウントでも掲載されていますが、その目の付けどころは、さすがという気がします。日本も同じようにプッシュをすれば、警察のイメージアップになる上、話題にもなるのでいいことずくめのように思えます。

 「PUI PUI モルカー」は全12話予定であることが、公式サイトにある見里監督のインタビューで明かされています。残り8話をぜひ楽しんでみたいと思います。