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さようなら、ニンテンドー3DS 「不運」だった携帯ゲーム機

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ニンテンドー3DS」シリーズの生産終了を告知する任天堂のホームページ

 任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」シリーズの生産終了が発表され、9年の歴史に幕を下ろしました。1億5000万台以上を出荷するなど大ヒットした「ニンテンドーDS」の後継機として、期待には及ばないながらも奮闘しました。そして3DSは、一言で言えば、ツキがなかったのではないでしょうか。

◇四つの不運 裸眼3Dの着眼点はユニークも

 ニンテンドー3DSは、2011年2月に発売されました。売りは当時に注目された3D映像を、専用メガネなしの裸眼で楽しめることでしょう。3D映像の先行きは未知数でしたが、“保険”としてDS用ソフトとの互換性もありましたから、メディア的には評判は上々でした。3D映像の最大の弱点は、コンテンツ不足ともう一つ、専用ゴーグルなどを装着する手間だったので「いけるかも」という期待がありました。任天堂も最初は「裸眼で手軽に立体視が楽しめる」と強調していましたし、3Dだから演出できる面白さに自信があったのでしょう。

 しかし第一の不運は、3Dの技術を活用した3DSならではのヒットソフトが生まれなかったことです。コンテンツのヒットは、出してみないと分からない「水もの」です。もちろん「ポケットモンスターX・Y」や「とびだせ どうぶつの森」など、人気シリーズのヒットは生まれましたが、3Dである必要はありません。DSのときは「ニンテンドッグス」や「脳を鍛える大人のDSトレーニング」など、タッチパネルならではの楽しさがあり、普及の原動力となりましたから、その差は歴然です。

 最初こそ、裸眼3Dに興味を示したゲームファンですが、何度かプレーすると飽きが来たのです。また長時間プレーにも不向きでした。3DSを手に入れた周囲の友人・知人が、3Dの機能を切って遊ぶようになり、「3Dなし」が当たり前になりました。

 第二の不運は、発売タイミングです。発売1カ月後の2011年3月、東日本大震災が発生して消費は冷え込み、世の中はエンタメどころではない空気になりました。どうにもならないことですが、ゲームの普及で重要な、初期販売の逆風になったのは確かです。

 第三の不運は、強気の価格設定が裏目に出たことです。当初の2万5000円は、携帯ゲーム機にしては割高で、「3D映像もいらない」となれば、余計に高く思えるでしょう。発売から半年後、普及に苦しんだ3DSは異例の1万円の値下げに踏み切ります。このテコ入れで売れ行きは伸びましたが、コストが商品の販売価格を上回る「逆ざや」になり、任天堂は2012年3月期の決算で、初の営業赤字を計上します。

 第四の不運は、任天堂の不振が際立つ流れにあったことでしょう。2012年に発売された任天堂の据え置き型ゲーム機「Wii U」の販売が極度の不振となりました。累計出荷数はわずか1361万台で、1億台を突破したWiiに遠く及びませんでした。任天堂はこれまで、据え置き型ゲーム機の業績が伸び悩んでも、携帯ゲーム機がヒットするなど、リスク分散がされていました。ところが、3DSとWii Uは、ともに苦戦という状況でした。

◇2DSの登場で上向くも

 3DSは、日本では売れたものの、任天堂の売上高の6割を占める欧米市場で伸び悩みました。2013年10月、任天堂は裸眼3D機能を外し、価格を129.99ドルと約2割下げた「ニンテンドー2D」を発売し、一定の成果を挙げます。しかし、同商品の登場は、裸眼3Dに“戦力外通告”を突き付けたのも同然でした。

 2014年10月、3DSと互換性のある上位機種「Newニンテンドー3DS」を出しますが、流れを変えるには至らず、業界の関心は、2015年に発表したDeNAとの提携と任天堂のスマートフォンビジネス、次のゲーム機「NX(後のニンテンドースイッチ)」に向くようになります。3DSは、2012年3月期から2014年3月期までの3年間の年間出荷数は、いずれも1200万台を達成しましたが、年間2000万台を突破したスイッチと比べると物足りないのは否めません。そして、2015年3月期に大台(1000万台)を割り込み、その後の売れ行きは、ほぼ右肩下がりとなりました。

 スイッチが発売されて人気になると、当然3DSシリーズの存在感は薄くなります。その後、「3DSの後継の携帯ゲーム機はあるのか」と注目が集まりますが、現段階では「ニンテンドースイッチ」が据え置きゲーム機と携帯ゲーム機の両方を統合する形になっています。ゲームはビジネスであり、「売れた商品が正義」というのは、その通りです。DSの成功があるだけに、ビジネスとしては3DSに厳しい評価が下されるのは仕方ありません。

 しかし、3DSは「3D映像を気軽に楽しむ」という新しい要素を持ち込もうとした“哲学”を持った携帯ゲーム機であり、任天堂はさまざまな手を駆使して、世界で7500万台以上を売ったことは確かです。それにしても、3D映像を生かしてファンの心をつかむユニークで面白いヒットゲームが何か出ていれば……。違った結果があったのではないかと残念でなりません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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