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PS5の敵はアップル&グーグル 未来予測が不可能な「異種格闘技戦」を制すのはどちらか

河村鳴紘サブカル専門ライター
新型ゲーム機「プレイステーション5」=SIE提供

 今年の「年末商戦期」に発売予定の新型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」の対応ソフトが公開されました。「グランド・セフト・オート5」や「バイオハザード8」「グランツーリスモ7」などの大型タイトルに加え、ゲームの読み込み時間を感じずにプレーできる環境と合わせて、現段階では総じて高い評価を集めています。しかし、今後立ちはだかる可能性のある強敵の存在を考えれば、安心とはいえません。

◇世界のゲーム 9割がデジタル配信

 そのためには世界のゲーム市場を見る必要があります。ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するKADOKAWA Game Linkageによると、2019年の世界のゲームコンテンツ市場は前年からおよそ2割増の約15兆7000億円です。内訳ですが、家庭用ゲーム機とPCのパッケージゲームは約1兆4000億円、モバイルやPCのダウンロードなどのデジタル配信は約14兆3000億円になります。全体におけるパッケージゲームの占める割合は1割に満たないのです。

 また新型コロナウイルスの感染拡大で、ダウンロード配信の割合が増加しています。各ゲーム会社の全ソフトにおけるダウンロード配信の割合は、感染拡大前は2~3割でしたが、コロナ以後の決算(2020年1~3月)は5割になりました。その流れを見ると、PS5がディスクドライブなしのバージョンを出した狙いも理解できるでしょう。

 算出方法が異なるため参考ですが、「ファミ通モバイルゲーム白書2020」によると、2019年のモバイルゲーム市場は約7兆2000億円です。

 他の調査結果でも似た傾向にありますが、世界のゲーム市場のメインはモバイル、残りをPC用ソフトと家庭用ゲーム機用ソフトが分け合う形になっています。そしてダウンロードゲームの市場が伸び、パッケージゲームが頭打ちになる構造になっており、今後もその流れは続くでしょう。

◇無視できないモバイル市場の動向

 コアなゲームファンは、課金で有利不利ができる無料のモバイルゲームを嫌悪する傾向にあります。ただしゲーム市場で、家庭用ゲーム機は傍流に過ぎず、PS5もその中に入ります。

 PS5は、PS4で得た市場を囲い込みつつ、ゲーム専用機ならではの魅力を武器にモバイルの市場を切り取りたいところです。任天堂は、当初の考えを曲げてまでモバイルでゲームを出してコンテンツのパワーをアピールし、自社商品(ニンテンドースイッチ)に取り込む戦略を展開、一定の効果を上げています。PS5が、本音の部分でPS4で得た市場の確保に重きを置くのか、新規ユーザーも貪欲(どんよく)に取り込むつもりなのかで、展開が相当変わってくるでしょう。もちろん前者のような守りに入ったビジネスに、厳しいものがあるのは言うまでもありません。

 PS4の時代と同様、PS5は引き続き、マイクロソフトの新型ゲーム機(Xbox Series X)、PCと競合することになります。PCと家庭用ゲーム機を比較した場合、後者は安価で高性能ゲームが遊べ、動作的にも安定する利点があります。

 ただしPS5が、美麗なグラフィックを楽しめるゲームの競争で優位に立ったとしても、モバイルゲーム市場の動向を無視するわけにはいきません。高性能化が進むモバイルが、携帯ゲーム機を滅ぼしてしまったように、家庭用ゲーム機も飲み込まれてしまう可能性があるからです。

◇やはり脅威 アップルとグーグル

 なぜモバイルゲームが巨大市場になったかといえば、モバイルがインフラ(社会基盤)になったからです。モバイルの出費は必要経費であり、余分な出費扱いとなるゲーム機とは立場が違います。モバイルが無料という扱いの上、ゲームも無料とくれば、携帯ゲーム機に勝ち目がないのは仕方のないところでしょう。無料のゲームに慣れた層に、ゲーム機とソフトを買わせるのは一苦労と言えます。

 そして、ゲーム機の性能に依存しない「クラウドゲーム」の存在があります。クラウドゲームとは、ゲーム機が処理するべきことをサーバーに負担させて、ユーザーの端末はゲームの映像だけを受け取るというゲームのことです。ゲーム機もインストールも不要で、ここ数年で注目を集めている技術です。ただ、遅延などの技術的な問題もあってか、現状はそれほど人気がないのも確かです。

 しかし技術的な課題が解決すれば、モバイルでも高性能ゲームが遊べる可能性があり、もしそうなれば家庭用ゲーム機の優位性が一気に崩れます。今年3月からサービスが始まった5G(第5世代移動通信システム)も、その流れをさらに加速させる可能性があるのは確かです。もちろん、簡単にいくはずもありませんが、「いかない」という保証もありません。

「アップルアーケード」のサイト
「アップルアーケード」のサイト

 その中でも、アップルとグーグルのゲームサービスは脅威です。いずれも豊富な資金力を持ち、ゲーム以外で強力なサービスを抱えています。鳴り物入りでサービスが始まった「アップルアーケード」(月額600円)と「Google Stadia(グーグルスタディア)」(月額10ドルなど)は現在、発表通りにはいかなかったり、コンテンツも十分ではなく、評価は今一つです。しかし、両社とも資金は豊富なだけに、やる気さえあればどこまでも戦えます。

◇1年後の未来予測も至難の業

 アップルとグーグルの弱点を挙げれば、ゲームビジネスに対する知識が任天堂やソニーほど十分でないことでしょう。ソフトメーカーからすれば、大事なコンテンツを託せ、ビジネス的にうまみがあるかです。

 特にアップルのiPhoneではアプリゲームが配信されましたが、多くのメーカーからアップルの強気の姿勢に不満がありました。プラットフォーマーの論理を押し通し、ゲーム制作者へのリスペクトに欠ける……というのが、私が聞く限りの関係者の感想です。中には「任天堂とソニーはゲームへの愛があるが、アップルはゲームをビジネスとしてしか見てない」と批判する人もいました。

 とはいえ、ソフトメーカーもしたたかです。勝ち馬に乗るためにさまざまな手を打ちますし、もうけが少ないと判断されると、手を引いてしまいます。そんなソフトメーカーに対して、PS5のサービス自体が魅力的であることを、ソフトメーカーに対して提案し続ける必要があります。

 モバイル市場を切り取る上でのPS5の弱点は、高額な初期投資(ゲーム機本体)が必要なことでしょう。ゲームはコンテンツの魅力が重要とはいえ、生活インフラと化したモバイルと争うのは大変です。またサービスの値下げ競争に巻き込まれるとやっかいです。この対決は、異種格闘技戦のようなもので、技術革新のスピードの速さ、トレンドの読みづらさもあり、数年後はおろか、1年後の未来を予測するのも至難の業です。

 かつて、NECや松下電器産業(現パナソニック)がゲームビジネスに参入したものの、任天堂に返り討ちにあいました。その後、ソニーがゲームビジネスに参入すると、「松下が勝てないのだからソニーが任天堂に勝てるはずもない」という前評判を覆して、ソニーは勝利しました。前評判ほどあてにならないものはないのです。

 ですから、アップルとグーグルが案外に終わる結果も、うまくすみ分けがされる可能性もあります。ただ繰り返しますが、両社の資金力は豊富なので、ゲーム事業への執念の度合いが結果を左右すると見ています。「勝つまで引かない」というのが一番怖いわけですからね。

 PS5の敵は、これまでとタイプの違う“未知”の敵なのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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