イチから分かる 香川県ゲーム規制条例を解説 「賛成8割」に飛びついたメディアの“反撃”に注視

ゲームを遊ぶ少年(写真:アフロ)

 18歳未満のゲームの利用を原則1日1時間に制限する香川県のゲーム依存症規制条例が今月1日、施行されました。ところがパブリックコメント(パブコメ)全文の情報公開を請求したメディアが、パブコメの不自然さを指摘し、ネットでは大きな話題になりました。条例の背景と問題点をよくわからない人にも分かるよう説明し、問題点を洗い出してみます。

◇条例の根拠はWHOのゲーム依存

 香川県ゲーム規制条例は、18歳未満の「ゲーム依存」を防ぐのが狙いで、「ゲームは平日1日60分まで」など具体的な制限が記されるのが特徴です。県や保護者、ゲーム会社などの責務を記していますが、罰則はありません。当初は、ネットとゲームの両方が対象でしたが、反発を受けてゲームに限定した経緯があります。

 条例の根拠となる「ゲーム依存」ですが、昨年、世界保健機関(WHO)がゲーム依存を疾病として認定したことですね。ただし適用は2022年からの予定です。ちなみにWHOの認定には、アルコールやギャンブルなどの依存症を専門にする久里浜医療センターの樋口進院長の強い意向が働いています。WHOのプロジェクトの予算をセンターが拠出するなどの努力をしています。

【参考】WHO「ゲーム依存」疾病認定までの6年間、舞台裏の記録

 ただ意地悪に見れば、WHOという“錦の御旗”をうまく使い、「ゲーム依存」をアピールしているとも取れます。「93万人のゲーム依存」という記事もあったりしますが、数字の根拠について識者からも突っ込まれており、厚労省も冷静なのが現状と言えます。

【参考】厚労省研究班調査:国内中高生93万人にゲーム依存の疑い?!が報道される前に

 また条例を推進した、対策条例検討委員会の会長・大山一郎議長は、テレビゲームをやり続けると大脳の前頭前野の活動が低下し、子供がキレやすく反社会的になると主張し「ゲーム脳」に対して、賛意を持っていることを新聞の取材に明かしています。そして「ゲーム脳」は、今では脳の専門家に否定され、疑似科学になっている状況です。

【参考】子どものゲーム依存防げ*四国新聞 紙面で警鐘、啓発用DVDも配布*健康懸念 香川で条例化へ

◇条例に元首相も皮肉

 そして、大きな話題になった条例について意見を募るパブコメですが、期間を通常の半分程度の2週間に短縮、一般の意見は県内のみとしました。さらにパブコメの発表時は、賛否を問うのでないにもかかわらず賛成8割と強調。一方で2600件以上もの大量の意見が寄せられた点、反対意見(約300件)のボリュームの多さ(賛成1ページに対して反対80ページ以上)についてはスルーしました。そして疑問を唱えた議員がパブコメ全文公開を要請するものの、実質的に拒否しました。

 改めて振り返ると、その異様さが浮かび上がります。

 他地域の議員は、管轄外の条例に口を出さないのが普通ですが、多くの議員がその姿勢に対してツイッターで批判を浴びせました。その中でも、鳩山由紀夫・元首相が痛烈な批判をして話題になりました。

 ともあれ、今回の条例は、やり方が強引すぎました。そのため「何らかの“反撃”の動きはあるだろう」と踏んでいました。すると今月13日に早くも動きがありました。

【参考】ゲーム条例のパブコメ「原本」が開示 多数を占めた賛成意見「全く同じ文章」が何パターンも 香川

 地元テレビ局「瀬戸内海放送(KSB)」が、パブコメの原本(A4用紙4186枚分)を情報公開請求し、条例に賛成した意見に“多数派工作”の疑いがあると報じました。ネットでは同じIPアドレスに注目が集まりましたが、そもそも同じような文章が大量に送られており、送信日時も連続、おまけに誤字やスペースも同じものが多数あった事実に加え、以前から工作の可能性は指摘されていました。その疑いを晴らす責任は、議会にあるのは言うまでもありません。

◇「8割の賛成」メディアも反省

 注目はこの疑いに対して、メディアがどう動くかです。3月のパブコメ発表時、ほとんどのメディアは「県民の8割が賛成」という見出しで報じました。つまり、“多数派工作”が事実であれば、「8割の賛成」がウソになるわけです。KSBもその点について反省の一文を入れています。

ただ今回、一番問題なのはパブリックコメントで賛否を問うていないにもかかわらず、賛成と反対の数を集計して公表したこと。そこに引っ張られ、3月12日の発表時に、我々報道機関が「県民の8割が賛成」という見出しで報じてしまったことは反省すべきだと思います。

出典:ゲーム条例のパブコメ「ご意見箱」に連続投稿の疑い…同じ誤字も多数 香川(KSB)

 KSBの4月13日の報道を見て、背筋がぞっとした関係者は少なくないはずです。

 私もパブコメが発表された後、多くのメディアの記事を拝見しましたが、残念ながらパブコメの件数に出た不自然な数字を指摘するものは、ほとんど見かけませんでした。だからこそ私は危機感から「パブコメの数字が不自然」という記事を書いたわけです。

【参考】香川ゲーム規制条例案 パブコメの件数が語る“真意”(3月15日)

 そしてメディアにいた身から言えば、意図的に「だまされた」メディアは、完全に敵となります。既にその動きはありますが、追及の動きは強まるでしょう。

 皆さんも真剣であるほど「だまされた」「利用された」と知ったら、笑って許せますか?……という話です。ノーコメントだったり、当事者も誤解していたら、考慮の余地はありますが、今回の件に関しては、とてもそう思えない状況です。今は「新型コロナウイルスでそれどころではない」というのも確かですし、「誘導されるメディアが悪い」という意見も一理あるとは思います。しかし、「賛成8割」と報じたメディア(特に記者)は、カチンと来るでしょうし、この疑いに対して納得のいく説明があるまで追求するでしょう。

 ちなみに“多数派工作”疑惑について、大手では朝日新聞と毎日新聞、産経新聞、共同通信が報じています。有力地方紙でも北海道新聞や東京新聞がページを割いて掲載しました。なお、「ゲーム依存」防止のキャンペーン企画をするなど力を入れていた地元紙の四国新聞ですが、有料記事データベースを見ても、この問題を報じた形跡は見当たりません。

◇議会事務局の迷走コメント

 もう一つ、不思議なことがあります。この件に関して、香川県の動きがおかしいことです。公開資料で名前を黒塗りにして、一方でわざわざIPアドレスを公開し、“炎上”のネタを作ったわけです。「IPアドレスの意味、仕組みを理解しなかった」という見方も否定しませんが、むしろ個人的には「意図的に公開した」という考えが捨てきれません。なぜなら、条例の素案公開の段階でも、県の職員がネットで自身の意見を公開して批判しており、その文章は分かりやすく、丁寧な言葉を選んでいます。

【参考】意見表明 香川県庁職員の私が香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案について思うこと

 そして議会事務局は、“多数派工作”疑惑について、興味深いコメントを残しています。それを伝えた共同通信の記事は、ネットで消えているのですが、有料データベースに記事は存在していますので、その一文を引用しましょう。

 また賛成意見の多くは、県議会が意見公募用に指定したメールアドレスではなく、県議会のホームページ内にある「ご意見箱」に送られていた。議会事務局は「意見公募は適正に行われた。賛成や反対の数を知るものではなく、広く意見を聞く目的は果たした」としている。

出典:47NEWS

 驚く人も多いかと思います。そもそもパブコメの賛否「賛成8割」の論理を持ち出したのは、議会側なのです。明らかに答える気がないと思われても仕方ないでしょう。それにしても、条例賛成意見の投稿・内容も、本気であればもう少し隠せるはずですが、ネットの皆さんが指摘する通り、驚くほど雑でして、かえって裏がある?と考えさせられてしまいます。メディアがどこまで追求できるか。そして別の方法を取るか。今後の注目ポイントはそこになるでしょう。ですが今は、新型コロナの対策でそれどころではないというのも本心でしょうから、なかなか難しいところですね。

◇WHOがまさかのゲーム推奨

 ゲーム規制条例が施行される同時期のタイミングで、WHOが新型コロナウイルスの感染拡大に対抗するため、人々にゲームを推奨するキャンペーンを始めました。

【参考】ゲーム業界とWHO、「PlayApartTogether」キャンペーン 新型コロナウイルス感染拡大受けて

 ゲームを疾病に認定する方針を打ち出したWHOが、新型コロナ感染防止対策のためとはいえども、なかなかのはしご外しですね。ともあれ、個人的には、それに対する見解を条例賛成派の方に聞いてみたいものです。

ゲームを愛するものの、ゲームには愛されないヘタレなゲーマー。ゲーム好きが高じて、記者として兜倶楽部にも出入りし、決算やメーカーの各発表会、PS3の米国発表会、中古ゲーム訴訟、残虐ゲーム問題など約20年間ゲーム業界を中心に取材をする。合わせてアニメやマンガにも手を伸ばし、作品のモデルになった場所をファンが訪れる“聖地巡礼”現象も黎明期から現地に足を運ぶなどしている。マンガ大賞の選考員も担当しており、好きなジャンルはラブコメ、歴史もの。

有料ニュースの定期購読

河村鳴紘の「記事も鳴かずば撃たれまい」サンプル記事
月額550円(初月無料)
月4回程度
ゲームやマンガ、アニメなどサブカル分野を取材すること20年以上。現場から経営までの取材経験を元に、取材側から見える視点、今だから明かせる昔話、業界の矛盾などに切り込みます。ネット向け記事を執筆して多くの話題を提供した実体験を元に、記事を作る上での“仕掛け”なども明かします。記事の制作が効率優先のお手軽になりつつある現状を勝手に憂いつつ、情報の発信方法に悩む皆様の“助け船”になれば幸いです。

あわせて読みたい

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

Yahoo!ニュース個人編集部ピックアップ