PS5のスペック発表で見えた“ゲームの哲学” 初代PSと逆作戦

PS5のロゴ=SIE提供

 今年の「年末商戦期」に発売予定の新型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」の主なスペックが3月19日に発表され、ゲームファンの間で大変盛り上がりました。ですが、難解な用語の連発に加えて英語のため、「?」という声もあったのではないでしょうか。今回の発表の意味するところを簡単に説明してみます。

 ◇今回の発表は開発者向け

 まず、今回の発表について、普通の人が理解できないのは当然です。本来は、毎春に米国で開かれるゲーム開発者向けの会議「ゲームディベロッパーズカンファレンス」向けの発表ですね。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて同会議が延期されたため、英語でのネット配信となりました(日本語の字幕もなし)。またCPU(ゲーム機の中心部分、中央演算処理装置)やGPU(3DCGを描写するための処理装置)などPC関連の知識は大前提です。つまりゲーム開発者向けの発表なので、一般ユーザーに分かる必要はない……とも言えます。

【参考】「PSブログ」 PS5技術仕様の追加情報を公開

 そして、PS5のスペック発表を肴(さかな)に、盛り上がった人達は、高性能PCでバリバリゲームを遊んだり、知識の豊富な一部のコアユーザーです。さらに彼らは、ゲームのポイントはソフトであることを十分理解した上で、それでも未知のゲーム機のワクワク感を想像して楽しんでいるというわけです。スペックを見て、自分なりに分析して興奮すること自体がエンタメであり、コンテンツの一つなのですね。

 ◇PS5 性能では劣るがロード速度は上

 今回のPS5のスペックを普通の人が理解するには、ライバル機とされるマイクロソフトの新型ゲーム機「Xbox Series X(XSX)」と比べるのが、最もイメージがつかみやすいでしょう。理解しやすいのは、このツイートですね。

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)もマイクロソフトも、ライバル機のことを言及してやる必要はゼロなので、互いのゲーム機は表向き比較されず、第三者が勝手に比較することになります(裏ではバチバチに意識しているでしょう)。そしてあくまで数値の話ですが、基本のマシンパワーはXSX、データの読み込み(ロード)時間の速さはPS5にそれぞれ軍配が上がることが分かってもらえるでしょう。

 ゲーム機の設計で、性能の良い部品を使えば(当然)価格は上がります。基本的にコストの制約がある以上、高性能と低価格を満たす万能のゲーム機は存在しません。つまり「何を取り、何を捨てるか」で、そのゲーム機の“哲学”が浮き彫りになります。

 PS5が、ロード時間の短縮に重きを置いているのは、これまでの発表でも重ねて触れられていました。今回の会見もそのラインから外れません。そしてPS4を実際に遊んでいる人ならば、ロード時間の長さに不満を持っていますから、この方向性は歓迎されるでしょう。

 会見でも触れた記憶媒体「ソリッドステートドライブ(SSD)」は、ハードディスクドライブ(HDD)よりも容量は少なく単価は高いものの、データの読み書きの速度が速いという特徴があります。そしてPS5は少しでも価格は抑えたいのに、SSDをあえて使うわけですね。XSXも採用してますが、両ゲーム機を比べるとロードスピードの数字に相当の差があります。PSシリーズとXboxシリーズは、基本的に似た傾向を持つゲーム機だけに、ここだけは違いが際立ちます。ゲーム的に表現すれば、PS5はロードスピードに能力値をほぼ“全振り”しているイメージでしょうか。

 ちなみに映像や演出面の進化は、ゲーム機の世代が変われば当たり前のことですので、個人的見解としては、二の次と考えています。約10年前のPS3でも既に十分にリアルで、ゲームに慣れてない人は、ゲーム画面を実写映像と間違えていましたから、PS4とPS5の映像の違いは(残念ながら)分からないでしょう。PS5では、光の屈折や反射を正確に再現する「レイトレーシング」、雨粒の微妙な音や敵のくる方向が分かる「3Dオーディオ」などの先端技術があり、ゲームの表現を豊かにしてくれますが、残念ながら演出面の驚きはいずれ慣れるでしょう。

 しかしロード時間の短縮は、ゲームプレーの快適さを常時担保します。会見でもその説明に相当の時間を費やしていました。PS5の武器がロードのスピードにあることは趣旨一貫しているわけです。ただし、あくまでも数字上の話ですから、実際にゲーム機に触って遊んでみないと判断できないのも確かです。

 ◇“ゲームの哲学”の変化

 話は変わりますが、PS5の特徴である「ロード時間の短縮」のこだわりを見て、初代PSのことを思い浮かべました。

 初代PSが発売された当時のゲーム業界は、データ容量は少ないものの、ロードのスピードが速い「ロムカセット」が基準でした。初代PSでは、ロムカセットと比べてロード時間のスピードが遅いものの、データ容量が多く、価格を抑えられ、かつ生産スピードの速いCD-ROMを採用。それを武器に人気作「ファイナルファンタジー7」をはじめ多くのソフトメーカーを自陣営に取り込み、最終的に任天堂をゲーム業界の“王座”から引きずり下ろしました。

 そして、初代PSから四半世紀後に投入されるPS5の狙いが、性能を落としてもロードスピードを重視していることであり、「初代PS」の求めた方向性と「逆の手」であることです。むしろ、当時の任天堂のコンセプトに似通っているところに、個人的には面白さを感じます。それは、モニター(テレビ画面)に映るゲーム映像が、人の目で区別できる限界になりつつあることと、無関係ではないでしょう。

 初代PSが出た当時、ゲームには未知の演出表現を求める空気があり、その象徴がCD-ROMの巨大なデータ容量でした。そのためか、PSシリーズは、基本的にマシンパワーを追求する“哲学”があり、取材する側からも感じるところでした。自社生産のCPUを搭載し、性能押しできたPS3はその“哲学”の結晶とも言えます。ところがSIEは、PS3の“失敗”を踏まえ、PS4の発表からスリープモードを搭載するなど利便性に重きを置き、明らかに従来とは違う流れになりました。PS5では、PS4で打ち出した流れに自信を持ち、より強化しているように見えるのです。

 ちなみに、会見に登場したマーク・サーニーさんは、人気ゲーム「クラッシュ・バンディクー」シリーズなどを手掛けた開発者です。昔にインタビューしたことがあるのですが、13歳で大学進学、17歳でゲーム業界にデビューした天才です。16歳のときに、数千人からわずか3人が選ばれる素粒子のプロジェクトへ参加したにもかかわらず、ゲーム業界の道を選んでいます。当時の取材でサーニーさんは「手応えのあるゲームは良いが、フラストレーションがたまるのは論外」と、常にプレーヤーの目線を重視していました。今回のPS5の「ロード時間短縮」の“哲学”と通じるものがありますね。

 スペックが発表されたPS5ですが、価格や詳細の発売時期は伏せるのは仕方ないにしても、外観すらもまだ見せていませんから、ゲームファンのモヤモヤする日は続きそうです。新型コロナウイルスの世界的な流行で、「年末商戦期」に発売されるのか心配ですが、次の発表を心待ちにしております。

ゲームを愛するものの、ゲームには愛されないヘタレなゲーマー。ゲーム好きが高じて、記者として兜倶楽部にも出入りし、決算やメーカーの各発表会、PS3の米国発表会、中古ゲーム訴訟、残虐ゲーム問題など約20年間ゲーム業界を中心に取材をする。合わせてアニメやマンガにも手を伸ばし、作品のモデルになった場所をファンが訪れる“聖地巡礼”現象も黎明期から現地に足を運ぶなどしている。マンガ大賞の選考員も担当しており、好きなジャンルはラブコメ、歴史もの。

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