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「FF7リメイク」体験版で頭に浮かんだ「ドラクエ」感

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ファイナルファンタジー7リメイク」のゲーム画面

 ゲーム史に残る名作「ファイナルファンタジー(FF)7」のCGやシステムを一新した「FF7リメイク」(PS4、スクウェア・エニックス、4月10日世界同時発売)の体験版が配信されました。見る限り好評のようですが、体験版をプレーしたとき、頭に浮かび上がった感覚について触れてみます。

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 FF7は、ソニーのゲーム機「プレイステーション(PS)」向けソフトとして、1997年に発売されました。3DCGを駆使した映画的な演出で、発売初週だけで約200万本(ファミ通調べ)を販売。FF7発売前のゲーム業界は「任天堂一強」で、ソニーのゲーム参入も「負ける」という関係者の声が圧倒的でした。FF7効果でPS本体が爆発的に売れ、ソニーがゲーム業界の“王者”になるきっかけを作りました。「ゲーム機普及のカギはソフト」と関係者に認識させたマイルストーン的な作品です。

 ゲーム内容も斬新で、ヒロインが非業の死を遂げるドラマチックな仕掛けは、いまだにネタにされるほどで、「FF」シリーズの“生みの親”の坂口博信さんも反響に驚くほど。当時「ヒロインは生き返らないのか」というファンの声がゲーム会社に寄せられたほどです。

 ゲームの舞台は、生命エネルギーを資源に発展した超近代都市です。世界を支配する巨大企業「神羅カンパニー」に抵抗する組織の傭兵として青年クラウドは、かつて所属していた神羅の施設へ潜入します。体験版は約1時間でクリアできました。

 感想を言えば、PS版をクリアした記憶が強く揺さぶられ、続きをやりたくて仕方ありません。体験版とPS版のゲーム画面を比較する記事も見かけましたし、ツイッターのトレンドにもなったようにネットの反響は抜群です。商品購入を強く意識させる、体験版としては見事な出来でした。

 そして、プレーを終えると、FFシリーズのライバル「ドラゴンクエスト(ドラクエ)」シリーズのことが頭に浮かびました。同シリーズを遊ぶ時のような、不思議なノスタルジー感があったのです。

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 ドラクエの本編シリーズは、普段はゲームを遊ばない人が買うほど人気です。ゲームクリエーターの堀井雄二さん、マンガ家の鳥山明さん、作曲家・すぎやまこういちさんが生み出すゲームシステム、世界観、演出は、抜群の安心感があります。同シリーズをプレーすると、ドット絵だろうが、3DCGだろうがノスタルジー的な感覚にとらわれるのです。

 一方、FFの本編シリーズは、作品ごとにプロデューサーが変わるのが当たり前で、ゲームシステムも基本は都度一新し、世界観もファンタジーから近未来的なものまで多様です。したがって、最新作を遊んでも、過去シリーズを意識しません。もちろんFFにもクリスタルや魔法名など共通の“お約束”はありますが、縛りが緩いのです。

 FFシリーズの歴代クリエーターに取材をする機会があるたびに、「FFとは何でしょうか」と聞くと、皆さん首をかしげながらも「前述の“お約束”を踏まえつつ、最新の技術を用いて、自身が作りたいものを全力で作る」という答えなのです。そのため、作り手の独自色が色濃く出るので、ノスタルジー的な感覚がないか、あっても薄くなるのではないでしょうか。

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 「FF7リメイク」は、当然ながらPS版に沿った作品です。だから懐かしさはあると想像していましたから、そこは想定内なのです。ですが自分の頭の中に「ドラクエ」のワードが浮かんだのはなぜ?……と思ったのですね。

 体験版を実際に遊ぶと、グラフィックはもちろん、アクション性を強めた戦闘を含めてゲームシステムは別物でした。しかし遊べば、PS版の思い出が強くよみがえるのですね。

 「FF7リメイク」は、2015年に発表されましたが、企画は以前からあったことは明らかです。RPGの開発で苦労することの一つに世界観とストーリーの構築があるわけですが、同作はそのベースがある状態です。にもかかわらず、時間がかかっています。

 理由の一つは、名作となった「FF7」のイメージ、ファンの心の中で美化された思い出を壊すことなく、最新のゲーム画面で再現することが、当初の想定以上に大変なのでしょう。「映画的」というイメージもつきまといますから、フォトジェニック(写真映え)でないと「違う」となってしまうことも容易に想像できます。そして体験版を遊ぶ限りでは、イメージを見事なまでに再現しています。

 名作のPS版といえども、20年も経てばさすがに見劣りしますが、今回の体験版は映画ばりの見事な映像に仕上がっています。ファンの持つイメージの再現度こそ「ドラクエ」的なノスタルジー感覚の“正体”ではないでしょうか。

 ネットの声を拾うと、体験版について肯定的意見が多数派で、新しい戦闘システムに賛否両論ではあるものの、PS版から劇的に変わった映像については受け入れられています。

 ちなみに最も多く見かけた批判は、今回1作で終わらず分作になっていること、さらに何部作になるかの発表がまだないことでした。それは「早く全部プレーさせろ」という期待への裏返しで、分作の狙い通りとも言えます。

 「FF」シリーズの人気は、「ドラクエ」シリーズに負けていません。また「FF7」の人気はシリーズでも屈指です。それであれば「ドラクエ」のようなノスタルジー感も“武器”にできるわけで、ビジネス的にも有利ですから意識をして積極活用するべきでしょう。

 まだ発売前ですが、私の中では、PS版の映像が、PS4版の映像に置き換わりつつあります。もちろん体験版と製品版は別物なので、判断は時期尚早なのですが、今回のリメークのプロジェクトは、現段階では良い方向へ流れていると思うのです。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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