PS5 異例続きの発表方法なぜ

ソニー本社(写真:アフロ)

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、次世代ゲーム機の正式名称を「プレイステーション5(PS5)」に決定、2020年の年末商戦期に発売すると発表しました。ですがPS5のこれまでの発表の流れが、異例なのはご存知でしょうか。

 ◇初報はSIEから公式リリースなし

 10月8日の午後9時ごろ、SIEからPS5の発表がされたわけですが、実は公式リリースはこれが第一報なのです。

 「違う」と反応した方は、半年前の4月16日、SIEのキーマンが次世代ゲーム機(PS5)を開発していることを正式に認める記事をもって第一報としていると思います。その記事を受けて、多くのメディアが追いかけて話題になったので、いかにもSIEが公式に発言したように思えるわけです。ところが、これは米国のメディア「WIRED」の取材に答えた形で、肝心のSIEからは公式のリリースが出ていません。SIEに事実確認をしましたが、確かに4月16日は自社のリリース&発信はしてないと認めました。

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 そして他メディアはWIREDの同日の記事の事実確認に追われたわけですが、さぞ混乱したでしょう。SIEが公式のリリースを出さないこと、独占記事を許したことの2点について、強く抗議したことは容易に想像できます。

 この流れについて、SIEの口は重くなるのですが、リリースを出さなかった事実は残ります。そして10月にSIEは、PS5の正式名称と発売時期を発表し、今度は公式リリースを出し、多くのメディアが記事にしました。ですがWIREDが、またもやPS5についての独占インタビュー記事を掲載しました。

 普通は、新型ゲーム機のような広く知らせたい大きな発表は、多くのメディアを呼ぶための会見をしかるべき場所で開きます。最低でも、自社から正式発表、リリースもするのが普通です。そう考えるとPS5の発表方法は、明らかに従来と異なります。そもそも新型ゲームを初めて明かす段階で公式リリースが存在せず、その発売元が特定メディアの取材に答えて、独占記事が新型ゲーム機のリリースの役割を果たす……というのは、私の記憶にはありません。

 ◇費用対効果抜群のプロモ戦略

 話は変わりますが、今年のSIEの動きを見ると、妙なことに気付きます。SIEは今年、米国のゲーム見本市「E3」の出展を初めて見送りました。また9月の東京ゲームショウ前の恒例だった発表会も見送っています。ゲーム専門の記者にPS5のことを触れられたくない……と言わんばかりのスルー2連発です。

 そして最初の取材を受けたときにSIEは「次世代機の名前はPS5」と言っても良いのに、取材では言葉を濁す一方で、WIREDを含めて多くのメディアが「PS5」と推測して記事に書くのは全く止めませんでした。そうなると「PS5の正式名称は、以前は決まってなかった」と言われても、信じるのは難しいですよね? つまり、これも含めて練られたプロモーション戦略の一環と考えるのが妥当でしょう。

 言うまでもなく、今後のPS5のネタも盛り上がること必至です。ゲームメディアは逐一記事にしてくれるでしょうし、ツイッターやフェイスブックでも話題になるはずです。つまり、SIEはホテルをわざわざ借り切って発表会をせずとも、費用対効果の高いプロモーション戦略を着実に展開しているわけです。釈迦の手のひらで踊る孫悟空……という言葉がぴったりでしょう。

 ◇異例の方法は日本メディアへの“問いかけ”

 ゲームファンが盛り上がる一方で、一連の独占記事掲載は、他のメディアからすると笑えません。SIEは語るべき特定メディアを選んでいるのですから、選ばれなかったメディア(特にゲーム系)は相当不満でしょう。今回のSIEのプロモーション戦略を見ていろいろ思い当たることがありますが、その中で強く思った三つについて挙げます。

 一つ目は、発表会の費用対効果を考えての戦略です。通常の大手企業であれば会見を開いて商品をアピールするため、芸能人を起用するなど相応の費用を投じても記事にしようとします。ところが新型ゲーム機の情報であれば、発表会に頼らずとも、ネットに小出しに情報を出すだけでかなりの注目を集められます。

 二つ目は、PS5の主戦場は、PS4と同じく欧米であるため、英語での発信が重視されることです。PS2は日本だけで2000万台以上を売りました。ところが携帯ゲーム機と無料のスマホゲームの影響もあり、PS4の販売数は現状半減しています。そもそもPS4では日本の発売も後回しにされましたから、日本のゲーム市場の優先順位は低くなっているわけです。

 三つ目は、日本の話になりますが、各ゲーム会社の関係者は、ゲーム系メディアの報道方法に少なからず不満を持っていることです。一部のメディアは、メーカーのプレスリリースの大部分をそのままコピー&ペーストして記事扱いにして配信しています。そして関係者も表向きは理解を示しつつ、本音では決して歓迎していません。さらに現在のネットニュースは速報が最重視されています。その究極が来たプレスリリースをそのままコピーして流す、もしくは少しだけ手を入れるだけで出すという考えですね。

 こうした背景を鑑み、PS5の記事のインパクトをより高めるため、従来とは違う手を考えて動いたのでしょう。特定のメディアに取材を持ちかけること自体は珍しい話ではなく、昔からあるのです。そして選ぶ以上は、普段からしっかり取材をして、記事の精度で信頼できる媒体(記者)を選ぶのは言うまでもありません。ただ公式リリースを出さない決断は、かなり思い切ったことではあります。

 SIEからすると、メディアを敵にしない安全な方法は、各メディアをそれぞれ公平に扱うことです。今回のような従来のプロモーションとは違うやり方、新しい手法を探っている点は、SIEが現状に危機感を持っている証です。慣習に捕らわれず、より良い方法を探るやり方は、第三者視点で見れば妥当なことです。

 ですが北米のメディアからPS5の独占インタビュー記事が2回連続で出たことは、日本メディアの弱さが結果として示されたと言えます。それはSIEからの“問いかけ”のように取れるのです。