熱中症トラブルで見えたコミケの“恐ろしさ”

日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット」(写真はコミケ95)(写真:西村尚己/アフロ)

 「コミケ」の愛称で知られる、日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット」が今年も東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されました。ところが8月11日(3日目)、参加者が熱中症になり、5人が救急搬送されました。そのトラブルで感じたコミケの“恐ろしさ”について、約20年間コミケを訪れ、取材した視点から触れてみようと思います。

 今回のコミケは、東京五輪開催の影響で会場のメインの東展示場が使用できず、利用可能な面積が減少し、イベントの運用が大きく変わっていました。主催となる準備会によると、オペレーションのミス、長時間の待機場として想定しなかった場所に人が滞留して強い日差しに長時間さらされたことが原因……と説明しています。

【参考】<コミックマーケット準備会>3日目の一般参加者入場についてのお詫びと4日目の対応方針

 今回、大きなニュースになりましたが、熱中症対策は、毎夏のコミケの課題でした。だからこそ、準備会も現地で呼びかけるのはもちろん、コミケの公式サイトでも対策のハウツーを公開しています。過去のコミケでは、猛暑で人が続々と倒れて医務室がパンクし、その反省を踏まえて次から医務室を拡張したこともあるなど、問題が起きるたびに即座に対策が練られてきました。大塚製薬に要請して、「ポカリスエット」を現地で販売しているのも熱中症対策の一環ですね。

 その熱中症はもちろん恐ろしいのですが、私がコミケを“恐ろしい”と思ったのは、準備会の素早い対応でした。トラブルの経緯が分かりやすいのはもちろん、列誘導の見直しや飲料販売ブース・場外救護テントの設置を対策として掲げました。それを翌日の12日に実行しており、まずまず好評のようです。危機管理の手本といえそうで「見習いたい」という企業も多いのではないでしょうか。そして、コミケのスタッフはどんな人たち?と気になる人もいるかと思います。

 コミケのスタッフと身の上話になったこともあるのですが、職種や経歴のバリエーションに驚かされることが多いのです。自身もコミケスタッフの経験がある大手会社社員は、スタッフについて「弁護士や医者、大手企業のやり手サラリーマン、外資系コンサルタントなど、多彩なスキルを持つ人たちがたくさんいますからね。普通の人と思ったら素封家だったり、投資家だったりすることもありますよ」と明かしてくれました。スタッフの皆さんは貴重な休日を、わざわざ労働に費やすのですから、本当に好きでないとできないことですし、好きなことをやるからこそ能力を発揮できるのでしょう。

 そしてもう一つの“恐ろしさ”は、自らを律してイベントを優先にして行動するコミケの参加者です。ある新人コミケの参加者が「スタッフの接客が悪い」などとネットで書き込むと、別の参加者たちがこぞって「勘違いしていませんか? コミケの参加者は客ではありません。イベントの当事者です」と注意するのです。そして古参のコミケ参加者らが「最近の参加者は意識のクオリティーが低い」などと愚痴を書き込むということはあるのですが、逆に言えば「コミケの参加者は高い意識を持つべき」と思っているということですね。コミケの来場者数が増えれば、いろいろな人も増えるのでトラブルの元になるのは仕方のないところですが、この高い意識がコミケの秩序維持に一定の役割を果たしているといえるでしょう。

 そもそもイベントの参加者が自らを「客」と認識しないのは、普通のイベントでは考えられないことではないでしょうか。今回の熱中症が発生したときにも、近くにいた参加者が熱心に救護に当たったのは、多くのツイッターの書き込みや準備会からの感謝のコメントでも分かってもらえると思います。

 コミケは1日だけで20万人が参加する催しだけに様々な課題はあります。しかし、ここまで存続して巨大なイベントに成長したのは、スタッフと参加者の両輪にあることは、間違いのないところです。

 むしろ今後の最重要課題は、多くの参加者が対策を練っている熱中症よりも、体調が悪いのに無理をして参加する人をどうやって止めさせるか……にあると思っています。酷暑の中で無理をして参加し、会場で万が一のことが起きたらと考えると……。ただ、好きで参加しているだけに、参加を自重させるのは難しいと思っています。