アニメ業界から見た京アニ放火殺人事件 「復活に20年」の心配も

京都アニメーションのスタジオ ロイター/アフロ(写真:ロイター/アフロ)

 人気アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」「けいおん!」などで知られ、「京アニ」の愛称で親しまれているアニメ制作会社「京都アニメーション」の第1スタジオで、7月18日に放火殺人事件がありました。個人的ではありますが、私も同社の作品を何度か取材させていただいたこともあり、事件を聞いたときは頭の中が真っ白になるほど衝撃を受けました。犠牲者のご冥福と、負傷者の一日も早い回復をお祈りします。

 事件を受けて、アニメに携わる業界のさまざまな人々に話を聞きました。「人ごとではない」と衝撃を受けており、中には「この件に関しては(上から)話していけないと言われている」という反応もありました。それでも京アニの復活を願い、同時に心配している声ばかりでした。基本的に、京アニに近い人ほどその口は重いというのが私の感じたことです。その根底には、衝撃が強すぎて話題にしたくないし、まだ整理もできない……ということが言葉の合間からひしひしと感じました。

 その中でいくつか気になる指摘もありましたが、最も気になったのは、業界関係者の多くが、事業の復活・継続を目指している京アニの復活の道のりについて、相当シビアに見ていることです。復活の予想期間はいろいろあり、「5年はかかる」というものから「元には戻らない」という絶望的な見立てもありました。ですが、説得力があったのが「元通りの復活は5年そこらでは無理で、20年はかかると思う。自前の若いアニメーターがいなくなったのも痛いが、一番まずいと思うのは、彼らを一流にしたであろう指導者を失った可能性が高いこと。そうであれば、その補充はきかない」(アニメ制作会社元関係者)という予測です。この話は事件の直後に聞いたものですが、発表された犠牲者の名前にベテランアニメーターの木上益治さんの名前があり、その懸念が当たっていました。

 また「生き残った人が全員(制作の)現場に戻れるとは限らない。心に傷を負った人もいるでしょうし、復帰できなかったとしても責められるべきではない。ただ、そうなるとさらに京アニの復活は遅れる」(大手アニメ会社社員)と心配の声もありました。事件後には同社に寄付が次々と寄せられており、それは復活への追い風にはなっていると思いますが、人材という資金では埋められないものは想像以上に大きいと感じました。

 人材面以外の先の心配もありました。「今後、京アニが新しいスタジオを作るにしても、借りるにしても、周辺住民の反応が気になる。不動産の貸主はそういうことに敏感。刃物とガソリンを持った男に襲われた事実はあるわけですからね」(大手出版社社員)という意見です。また「他のアニメ制作会社も、周辺の住民から同種の心配はされてしまう。そういう意味で実行犯は、京アニだけでなくアニメーター、クリエーターの地位を棄損していますよね」(同社員)と分析していました。

 業界にダメージを与えたという意味では、セキュリティーの強化の費用もそうです。実際に事件を受けて、セキュリティーを強化した会社もあります。しかし、多くのアニメの制作会社は、元々資金繰りなど経営的な弱さがあります。アニメーターの給料が低いことがたびたび問題として取り上げられるほどで、非正規やフリーが多いという現実もありますから、対応が大変なのは明らかです。

 さらに、かなり先を気にする声もありました。「京アニが復活できたとして、(既に完成済み以外の)次の作品が世に出るとき、事件の影響はどうやっても作品に出ると思う。また、これだけの事件なので、一般のメディアでも事件にからめて報道するだろう。作り手として事件に萎縮してほしくないけれど、したとしても仕方のないこととは思います」(大手出版社編集者)と気遣っていました。

 京アニは、作品のクオリティーはもちろん、そのブランド力を活用して自前でクリエーターを育てる人材育成システムを構築しており、同業他社からも羨望(せんぼう)を集めていた会社でした。同業の関係者から「京アニの人材育成システムはうらやましいの一言」「できるなら(京アニと仕事を)ご一緒したい」という声は何度となく聞きました。そして海外での反響からも分かる通り、世界的なブランド力を持っていた会社です。いずれにしても京アニが既に完成したものを除き、当面は新規作品を制作できないことは明らかなわけで、その点だけでも京アニだけでなく、アニメ文化へ与えたダメージも計り知れないものがあります。

 長い時間はかかるとしても、いつかは被害に遭われた人々の傷が少しでも癒え、京アニが復活し、いつか再び作品について取材をする機会があればと強く願っております。

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