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<PS4>出荷数1億台突破の価値 PS3の反省生かし

河村鳴紘サブカル専門ライター
家庭用ゲーム機「プレイステーション4 Pro」=SIE提供

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)4」の世界累計出荷数が1億台を突破しました。発売から5年8カ月での達成です。さすがにピーク時(2016年度の2000万台)には届きませんが、昨年度(18年度)でも1780万台を売っており、今後も有力ソフトが発売されることから、さらに数字を積み上げるでしょう。

 これまでの同社の据え置き型ゲーム機の世界出荷数は、初代PSが約1億240万台、PS2が約1億5500万台、PS3が約8740万台でした。任天堂からゲーム業界の王座を奪った初代PS、DVD再生機としても人気だったPS2に比べて、PS3は前世代機と比べると出荷数は半分強に留まりました。ゲーマー目線で見れば、非常に革新的だったし、数字的にも「健闘した」といえるPS3ですが、経営視点では“失敗”といえます。SIEはそれを糧に、PS4で巻き返したといえます。しかもPS2を上回るペースで売れているのも特徴です。それだけにPS4の大台突破は、PSのブランド力を高め、今後発売される次世代機(PS5)にも弾みをつける上でも非常に価値があったといえるでしょう。

 2013年のPS4の発表時のインパクトは、メディア目線からすると、やや地味でした。PS3は性能はもちろん、東芝などと共同開発したCPU「CELL」を搭載しており、久多良木健さんというスターがプレゼンをする華々しいものでした。対してPS4は、美しい映像処理能力があることをあえて強く打ち出さず、代わりにゲームクリエーターへ向けてゲーム開発が容易になったことを強調しました。当時に取材をしたとき、PS3とPS4の性能比較も避けて(PS3発表時は比較をしていたのに)、同社の歯切れが悪かったのが印象的でした。そのためか、当時のニュースもPS4の位置付けと、その意義を解説するのに苦労していました。

 なぜPS4がクリエーター重視路線にしたのかといえば、PS3の苦戦の理由がソフト開発にあったからです。当時、ソフトメーカーからは「PS3は高性能だが開発しづらい。PS2よりもコストがかかりすぎる」とかなり不評でした。さらに言えば、PS3でソフトを作ると、他のゲーム機に展開するのが大変なため、その点も嫌われていました。SIEはその不満を受け止め、PS4はソフトの開発のしやすさを最優先に掲げたのです。そして今回の結果から分かる通り、その戦略は見事に的中したわけですね。

 また日本(14年2月発売)ではなく、北米(13年11月)を最初の発売地域に選ぶなど、巨大市場の北米を重視したのも正解でした。結果として、日本人好みのタイトルがなかなかそろわなかったこともあり、日本市場での普及は苦戦しましたが(それでも現段階で約823万台を販売=ファミ通調べ)、北米・欧州地域のゲーマーが好きなタイトルはしっかりそろい、発売当初から品薄になるほど売れていきました。また上位機種の「PS4 Pro」を展開し、世界のコアユーザーの要望にも応えたことも大きくプラスに働きました。

 PS4の次のポイントは、PS2の出荷数(1億5500万台)にどれだけ迫れるか、そして超えられるかでしょう。SIEは、PS4の後継機(PS5)の開発を発表済みですし、あと5000万台を積み上げるのは、かなり大変です。ただし、数字を伸ばす手があるのも事実です。ゲーム機を爆発的に普及させる「値下げ」という“切り札”を使うかも含めて、地域に合った販促を駆使しながら、どこまで新規ユーザーを増やせるかでしょう。

 元々PS4は、テレビの前に座ってゲームをじっくり遊ぶゲーマーをターゲットにしたゲーム機ですが、ここまで普及すれば、任天堂のように「ゲーム人口の拡大」と同じような戦略も必要になるでしょうね。同社のお手並み拝見です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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