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新生”なでしこジャパン”に足りないゴール前の迫力。熊谷紗希「みんなチャレンジすればいいのに」の意味

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

”なでしこジャパン”日本女子代表はデン・ハーグでオランダと対戦。池田太監督の初陣となったアイスランド戦(0−2で敗戦)とは打って変わり、守備の組織が機能して、チームの狙い通り中盤のボール奪取からチャンスを作り出しました。

特にスウェーデンのAIKフットボール ダームに所属する林穂之香と長野風花(マイナビ仙台レディース)のコンビが短い準備期間の中で高い機能性を発揮したことは収穫でしたが、チーム事情で多くの主力を欠くオランダからゴールをこじ開けることができず。逆にプレスが効きにくくなった後半はサイド突破から危ないシーンを招くなど、アイスランド戦よりはチームが改善されたからこそ見えてくる課題もありました。

オランダ側はエースのミーデマなど多くの主力を欠くと言っても、やはり普段からオランダリーグなどでプレーしている選手たちで、日本がある程度のところまでは行っても、ゴール前ではあまり強さを出せていなかったのが実際のところでしょう。

「コンビネーションのところでは一人の関係じゃなくて、空けたスペースに入ってくるとか、ボールを持ってる選手の状態を見てアクションを起こせるかという意味ではもう一工夫、もうひと精度が必要」

池田太監督はそう見解を語りつつも個人のところについては「一人一人を伸の個を伸ばして、その集合体でのなでしこと思っています」と認めます。

「ステップアップというか、選手一人一人が向上できることを常に考えてプレーし、どう行動していくかということにもかかってくると思います」

その点で現在の日本女子サッカーが抱えているのは国内のWEリーグをどう成長させていくかということと並行して、選手たちがどれだけハイレベルで、厳しい環境で成長できるか、経験を積めるかというテーマも関係してきます。

オランダ戦のスタメン(写真提供/JFA)
オランダ戦のスタメン(写真提供/JFA)

今回は岩渕真奈(アーセナル)や長谷川唯(ウェストハム )など、5人の海外組が池田体制で初めて招集されましたが、東京五輪で日本が完敗したスウェーデン、金メダルを獲得したカナダなど、強豪国の多くの選手が現在は欧州、特に女子チャンピオンズリーグに出ているような強豪クラブに所属して、日頃から切磋琢磨している現実があります。

高倉麻子前監督に引き続き、池田太監督からもキャプテンに指名された熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)はアイスランド戦後、チームメートの選手(センターバックのグロディス・ペルラ・ビッゴスドッティル)にゴール前での強さがあまり無かったと指摘されたと言います。

そしてオランダ戦でも相手の初招集を含む、代表での経験が浅いディフェンスの選手たちにまで1対1で止められたり、破りきれなかった現実をどう受け止めればいいのか。熊谷は「やっぱり長さだったり、この足の伸びだったりスピード感というのは正直、慣れというか・・・」と語ります。

「私なんか毎日戦う場所がそうで、その中で慣れていったというのはあるんですけど、やっぱりここで知ったことというか、相手が少しボールを運んだだけで離されるとかは守備でもあったと思うので」

熊谷紗希(著者オンライン会見スクリーンショット)
熊谷紗希(著者オンライン会見スクリーンショット)

「そう言ったところを日本でやる選手たちはいかに意識して日本でできるかというのと、こういう状況でそんなに対外試合がそんなに多く取れるところでもない中、成長していくには普段から意識することが大切なので。今日のこの感覚は絶対に忘れちゃいけないことだと思うので。そういうところを意識してトレーニングしていくしかないのかなと思います」

そう厳しく指摘する熊谷キャプテンに答えにくことは承知で「そこはWEリーグがより発展、成長していくかにも関わりますが」という前提で、質問をぶつけました。

ーー今の環境って女子CLとか欧州が最高峰で、アメリカと比べても高い。その環境の尊さというか、もっとなでしこの主力を張るような選手たちはヨーロッパでやる選手が増えてほしいという個人的な願いはあったりしますか?

「個人的な願いは・・・いやあ本当に、WEリーグに盛り上がってほしい気持ちはすごくあります。ありますけど、個人的な願いとしてはやっぱり、みんなチャレンジすればいいのにと思っています。自分自身が10 年ヨーロッパでやっていて、日本じゃ感じられない出来事、もちろんプレー面でも多くですけど、本当にいろんな部分で感じてきたので」

そして「もう行けるだったら。みんな行けばいいのになとは思っています」と繰り返した熊谷。ここで熊谷が言う”みんな”はもちろん全てのWEリーガーという意味ではなく、主には”なでしこジャパン”で一緒にプレーしている仲間たちのことでしょう。

イングランドのチェルシーで練習参加した経験を持つ長野風花は「常に世界を意識してトレーニングしている」と前置きしながら、熊谷キャプテンの言葉を伝え聞くと「いざ海外の選手と対戦すると一人で打開する力は日本人と比べるとどうしても違う。環境を変えるのもそうですけど、とりあえず今いる環境で意識してやる。言葉で言うのは簡単ですけど」と語ります。

長野風花(著者オンライン会見スクリーンショット)
長野風花(著者オンライン会見スクリーンショット)

日本に女子サッカーの文化を根付かせるためにはWEリーグの発展、成長は欠かせないことは間違いないです。しかし、強い”なでしこジャパン”があってこその日本女子サッカーということを考えると、もしかしたら男子サッカーに増して、熊谷紗希のように海外、特に欧州トップリーグの環境でもまれていくこと、そして現在の最高峰と見られる女子チャンピオンズリーグで活躍する選手が一人でも多く出てこないと、世界一の奪還を現実的な目標にしていくことも難しいかもしれません。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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