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J2ブレイクイレブン2020!”魔境”に強烈なインパクトをもたらした男たち

河治良幸スポーツジャーナリスト
遠野大弥はJ1王者となった川崎から期限付き移籍の福岡で大ブレイク(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

JリーグはJ1、J2、J3のリーグ戦が終了。天皇杯のファイナル、延期となったルヴァン杯の決勝を残すのみとなった。

今年は新型コロナウイルスの影響で長い中断期間があり、大幅なレギュレーションの変更を強いられたが、例年通り”魔境”と呼ばれるJ2では激しい戦いの中、数多くの選手が飛躍的な成長を見せている。

できるだけ客観的な視点で22クラブの試合を現場、映像で見届けて来た筆者の独断で「J2ブレイクイレブン」を選出した。

GK永井堅梧(ギラヴァンツ北九州)1994.11.6

J3のカターレ富山で3シーズン守護神をつとめた経験はあるが、徳島ヴォルティス でJ2初挑戦となった昨シーズンは1試合にとどまった。”昇格組”のギラヴァンツ北九州に移籍すると、キャンプからの厳しい競争を勝ち抜いて40試合に出場。ハイラインをベースに果敢な攻撃を見せるチームの背後を幅広く支えて、一時は首位に立つなど大躍進したギラヴァンツの守護神として絶大の存在感を見せた。

DF毎熊晟矢(V・ファーレン長崎)1997.10.16

今年はJ1でも数多くの大卒ルーキーが活躍したが、J2でブレイクした大卒ルーキーとして、この選手をあげない訳にはいかない。FW登録の選手ながら手倉森誠監督がチーム事情に加えて、非凡な心肺機能と機動力の高さを生かすべく右サイドバックにコンバートした。守備面を含めて粗削りではあるものの、相手陣内まで攻め上がればもう一人のFWとして決定的なクロスやシュートでフィニッシュに迫力をもたらした。3得点4アシスト。守備も成長したが、監督が代わるため来季の起用法が注目される。

DF上島拓巳(アビスパ福岡)1997.2.5

15試合無敗を記録するなど、シーズン半ばから猛チャージをかけてJ1昇格を果たした福岡において選手では最大の功労者と言っても過言ではない。なかなか勝てない序盤戦もパフォーマンスは高く、新型コロナウイルスの影響で主将の前寛之を欠いた時期にはキャプテンマークを巻いて奮闘した。空中戦にめっぽう強く、地上の1対1も負けない。攻守のセットプレーでも頼りになる存在だった。ファッションモデルにも見紛う端正なマスクでありながらハートが熱く、パーソナリティーに満ち溢れている。東京五輪世代でもあり、滑り込みのメンバー入りも十分に可能なタレントだ。

DF野田裕喜(モンテディオ山形)1997.7.27

開幕時はサブだったが、第8節のジェフ千葉戦で無失点に貢献。対人戦で強さを見せながら、攻撃に転じれば良質なビルドアップでパスワークをベースとするチームを最終ラインから支えた。ガンバ大阪では2017年に右脛骨疲労骨折という重傷を負ってしまい、復帰後はU−23の試合でアピールを続けるも、なかなか芽が出なかった。山形でも移籍1年目の昨シーズンは6試合の出場にとどまっていたが、知る人ぞ知るタレントがようやく開花の時を得た。

DF福森健太(ギラヴァンツ北九州)1994.7.4

FC東京のアカデミーから鹿屋体育大学に進学し、プロ入りしてからギラ一筋。1年目にJ2降格、その後3シーズンはJ3で経験を積んだ。そして迎えた今シーズンは主に左サイドから多くのチャンスを築き、8アシストを記録。右利きだが左足の精度も高く、FWディサロ燦シルヴァーノとのホットラインは対戦相手のディフェンスにとって最大級の脅威だったはずだ。今回選んだイレブンの中では年齢が高めだが、ようやく本格化と言った印象で、まだまだ選手としてのピークは先にありそうだ。

MF渡井理己(徳島ヴォルティス )1999.7.18

プロ1年目だった昨シーズンと同じ6ゴール4アシスト。しかし、内容面は全く異なるだろう。リカルド・ロドリゲス監督の意向をそのままピッチに反映するような司令塔ぶりで、組み立てからチャンスメイク、フィニッシュに至るまで中央から直接的、間接的に絡んだ。3ー4ー2ー1の2シャドー、4ー2ー3ー1のトップ下が基本ポジションながら、ボランチともうまく連携して相手ディフェンスを翻弄し、まさしく鳴門海峡の渦潮のようなスタイルを構築した。リカルド監督が浦和レッズに招聘され、恩師に付き従う形での移籍の報道もあった中で、J1昇格を決めた徳島に残留を発表。今度はダニエル・ボヤトス新監督のもと、どんな渦を描くのか楽しみだ。

MF本間至恩(アルビレックス新潟)2000.8.9

豊かな才能は以前から知られていたが、ほとんど途中出場あった昨シーズンから体力面を飛躍的に向上させて、アルベルト監督のもとで30試合のスタメン出場を果たした。守備面での頑張りは見逃せないが、攻撃となれば主に左サイドを根城にしながらも縦横無尽にピッチを動き回り、ボールを持てば第一にドリブル突破を選択する。特筆するべきはシュート力であり、記録した7つのゴールのほぼ全てが”スーパーゴール”と呼べる類のものだ。アルベルト監督は組織的な戦い方をチームに植え付けながら、攻撃面で本間には規制をかけず、インスピレーションの邪魔をしない。新潟が誇るファンタジスタの活躍はスペイン人監督の理解抜きに語れない。

MF高橋大悟(ギラヴァンツ北九州)1999.4.17

北九州の攻撃スタイルを象徴する左足の超絶技巧とセンスの持ち主であり、ゴールやアシストはもちろんのこと、その1つ前の気の利いたアクセントなど、多くのチャンスは彼を経由してもたらされた。流動的なパスワークを駆使する北九州にあって、彼のところにおさまれば、ほとんどボールを失うことなく効果的なパスが味方に出る。もし潰されてもファウルでFKのチャンスを得ることができる。今回ブレイクイレブンにあげたが、正直言えばこのぐらいの活躍は彼の才能からしたら当然であり、ここから先に訪れるであろう、本当の意味でのブレイクの序章に過ぎないかもしれない。

FWディサロ燦シルヴァーノ(ギラヴァンツ北九州)1996.4.2

今シーズン誰が最もブレイクしたかと問われたら、真っ先にあげたい選手だ。175cmとサイズに恵まれているわけではないが、球際にめっぽう強く、一瞬でマークを外てボールに合わせる機敏性も備える。北九州がJ3だった2019年に加入して、途中出場が多かった中でも貴重なゴールをあげていた。その意味では今シーズンへの期待は高かったが、攻撃的なスタイルを掲げるチームのフィニッシャーとしてパワフルなシュートを立て続けに放ち、18得点を記録した。また豪快なフィニッシュに注目は集まるが、5アシストを記録するなど、周囲の選手に決めさせるサポート能力の高さも見逃せない要素だ。

FW遠野大弥(アビスパ福岡)1999.3.14

昨シーズンまではHonda.FCでプレーしており、2019年のJFLベストイレブンに選ばれる活躍、さらには天皇杯でのインパクトあるプレーなどが評価されて、川崎フロンターレに加入。すぐに福岡へレンタルとなったが、開幕戦でいきなりゴールをあげて勝利に導くと、中断あけからもフアンマとの2トップで鋭いフィニッシュワークを披露した。11得点3アシストという結果から活躍は明らかだが、特に15試合無敗の記録を打ち立てる以前、フアンマになかなかゴールが出ない夏場における遠野の活躍なくして”昇格ストーリー”は語れない。トップスピードでもブレない技術とゴールへの執着心はJ1でも十分に通用する才能だ。

FW垣田裕暉(徳島ヴォルティス )1997.7.14

鹿島アントラーズのアカデミーからトップ昇格して以降、しばらく”武者修行”を続けているが、本格ブレイクのシーズンとなった。前所属のツエーゲン金沢でも前線での存在感はあったが、決定機を惜しくも決めきれないシーンが目立った。しかし、ヴォルティスでは力強いポストプレーで多くのチャンスを引き出しながら、最後もゴール前にしっかりと入って高い身体能力を発揮。左右のクロスからのアクロバティックなシュートは代名詞だが、中央からの縦パスに抜け出す形もバリエーションに加えた。彼も東京五輪世代。オーバーエイジを除けば比較的、層の薄い1トップだけに、半年間で割り込むチャンスはある。

そのほか夏にサンフレッチェ広島から期限付きで加入したアビスパ福岡で大車輪の働きを見せて、J1昇格に大きく貢献したMF松本泰志はもともと東京五輪代表の有力候補としてことで、今回は対象から外した。

また同じ福岡で右サイドから鋭いドリブルと飛び出しを見せて、勝利を決めるゴールを叩き出したMF増山朝陽、ストーミングを掲げる栃木SCで前線を所狭しと駆け回り、多くのカウンターをゴールに結びつけたFW明本考浩などもブレイクイレブンには入れられなかったが、素晴らしい飛躍を果たした選手だ。

そういう意味で、この場であげたらキリがないぐらい、上位下位にかかわらず、それぞれのチームで才能が開花したシーズンだったことを付記しておく。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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