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浦和レッズ大槻毅監督インタビュー。積み上げと選手起用、結果に向き合った2020シーズン

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

浦和レッズは12月19日に2020シーズンの最終節を迎えた。この試合は大槻毅監督にとっての浦和ラストゲームでもある。”組長”の異名でも知られる大槻監督だが、確かな戦術眼を持ちながらも常に選手の特徴やコンディション、その後の影響なども見極めてスタメンはもちろんベンチ入りメンバーも考えるタイプの指揮官だ。

2012年から浦和の強化スタッフや育成年代の指導を担ってきた大槻監督は昨シーズンの5月に二度目のトップチームでの指揮を任され、リーグ戦こそ14位に終わったものの、ACLでは上海上港、広州恒大といったアジアの強豪を打ち破り、ファイナル進出を果たした。

JリーグとACL両方のタイトルを求められる中で、現実に向き合いながら特にACLのタイトルを目指してクラブとして3度目のアジア制覇まであと一歩に迫るも、サウジアラビアのアル・ヒラルにホーム&アウェイの合計スコア0-3と完敗した。

「ACLで言うと、アウェイゴールも含めて失点が先にくると難しい戦いになるので、移動などもあった中で、やっぱり守備に重きを置かざるを得ないところは当然あって、だからあそこまで勝ち残れたと思います」

大槻監督は振り返るが、ある意味リアクションを繰り返していく戦い方では先に積み上がるものを見出せない。2020年も指揮をとることになった大槻監督はクラブが掲げる”3年計画”の1年目としてチームのベースを組み上げながら結果にも向き合うという作業にチャレンジしていくことになった。

「メンバーは大きく変わらない中で、キャンプ中はちょっと”さら地”じゃないけれど、今まで身に付いていた戦術やプレーモデルに帰っていっちゃうところを1回さらにしようと。システムも従来の3バックでやっちゃうと戻るところに戻りやすい、それで4バックにトライしたと言うのもあります。シーズン中に何回かは3枚にしたけれど、4枚でやった方が積み上がっていく可能性があるなと」

”3年計画”としては選手が入れ替わって新陳代謝があっても基準を持って、そう言うやり方をしようとしたという。その1つはプレー全体の強度を上げること。昨年リーグ優勝した横浜F・マリノスの継続的なパフォーマンスやACLの決勝を戦ったアル・ヒラルを指標にしても、そのままでは上回っていくのは難しい。そこを浦和レッズ、大槻監督なりのやり方でどう組み上げていくかというシーズンになった。

「その中で、4−4−2でやると前に2枚をかけやすいし、守備のところでゾーンディフェンスがやりやすい部分はあるので、そこの基準で積み上げて、あとは選手の個性で、うちはファーストトップの選手が多い。セカンドトップの選手は武藤雄樹だったり、武富孝介もいますが、そのような選手の構成も含めてどう言う組み合わせと考えた時にそう言う選択をしました」

4ー4ー2という1つのシステムを軸に狙いをもってボールを奪い、素早くゴール方向に運んでいくという基本コンセプトだが、これまで3バックでハマりどころを見出してきた選手たちを4ー4ー2にどう当てはめて戦術的な機能を高めていくのか。うまく高い位置でボールを取り続けることができればいいが、そこが定まらないこともあれば、意図的に相手に引かれてボールを持つ側になることもある。そうした状況を想定しながら、ベースの構築とオプションを組み上げて、結果にも向き合って行く。

「強度を出す出さないだけじゃなくて、ボールを動かさないといけないんだけれど、やり方を変えようとした時に、1個ずつ小さく変えると元に戻っちゃうので、ドラスティックにボコっとやってしまおうと言う流れで、速い攻撃という提示はしたかな」

大槻毅監督(筆者撮影)
大槻毅監督(筆者撮影)

ーー去年もカウンターがハマる事はあるし、ただ、やっぱりリアクションというか1試合1試合の対策で帳尻を合わせる感じは見ていてもありました。それでも、あそこまでACLで結果が出たところから、今シーズンにガラッと変える決断に踏み切る難しさはありましたか?

ACLは特別なところがあるけれど、戻るところの厚みがすごく薄かったと思ってるんです。今年に関して言うと最初から作ってきて、自分たちで主体的にどう突いて行くかをやりました。再開した時期の季節柄もあって、暑くなるとガーっと守備からプレッシャーをかけたりは難しい。それでボールを持たされるような試合が多くなってきた。そこでやっぱり振り切っただけでは難しいと言うのがあった。

そこからボールを持ち出して、どこに運び出すのかみたいなところはやらなきゃいけない。10月になると涼しくなって回復が間に合ってくるのと、選手の成熟度が増していく時期に入ったので、選手を少し固定しましたが、最初にやろうとしたことが、シーズンが進むにつれて肉付けされてきて、厚みも持たせられた。ただ節目、節目の試合でこぼして、大きな負けもあった。そこで自信を失って、そこは少しもったいなかったなと思っています。

ーー「速く攻める」というとなんでもかんでもカウンターみたいな誤解が生じやすいですけれど、うまくフィニッシュに持っていけている時は狙いがしっかりしているように見えます。たまたまスペースが空いたところに蹴りました、走りましたじゃなくて。例えば湘南ベルマーレ戦の立ち上がりに左後方から山中亮輔が裏に抜ける興梠慎三に通しましたと。オフサイドになりましたが、あの前に右側での布石があって、ボランチの一人がワイドに引っ張り出されたりして、形の崩れを作ってからサイドを変えて、あの縦パスが入っている。そうやってメカニズムを見ると狙いは見えます。

例えば湘南だったら5ー3ー2で、河治さんが”湘南はオールタイムプレス”という話をしていたけれど、最初の20分、25分まではそういう形で前から出てきてくれたので、ああ行けるなっていうのがあった。そこから2トップが前に出なくなったじゃないですか。それまでは、うちがセンターバックとボランチでいなして、3枚の横のところに出して、そこからサイドを変えてみたいなのが良くなっていて。

”発射台”という言い方もされますが、ボールの出し手はだいたい決まっている。うちだったら左サイドバックの山中亮輔やセンターバック の岩波拓也、中盤に青木拓矢がいれば青木、柏木陽介がいれば陽介ですね。例えば山中のところでどう出させるかという前振りをトレーニングでするんですよね。発射台をどこに作るか、そのためのボールの動かしはずっとやっている。

”両局面”というのはよく言いますが、それを作るためにボールを動かすトレーニングをしている。もっと手っ取り早くボールの取り所でそれを作っちゃった方が出し手が楽でしょと言う発想も当然あるので、そのための守備構築をしているわけですが、主体的なディフェンスがハマらない時に何もないと大きな痛手を負う。そこがうまく行かないとゲーム全体もうまく行かない。そこでうまく帳尻合わせながらじわじわっという形でできるようなメンタリティだとか、雰囲気があるともう少しいいのかもしれない。そこまで構築できなかったのが事実だと思います。

ーー相手システムとの噛み合わせから山中選手が空いている状況が作りやすいですよね。”サリーダ”と呼ばれますが、ボランチがセンターバック の位置に1枚引くと、2トップに対して3枚が自ずとできる。それで、もう一人のボランチはけっこう高い位置を取れるのがあって。それが立ち上がりからハマっていいチャンスが続くと、相手が変えてくる。変な話、立ち上がりでうまくいき過ぎたところから、ある時間帯から相手が変えてきて、うまく行かなくなった時に、そこから立て直すと言うか、じゃあ次はここに穴を見つけて有利に持っていくと言うのが、今シーズンのレッズはなかなかできていないのかなと思ったりもします。

僕らもベンチで、25分過ぎに優作(上野優作ヘッドコーチ)とヒラ(平川忠亮コーチ)と話して、そこで高い位置を取っていいと横から選手に言うのは簡単だったけれど、ハーフタイムで整理しようと。それでハーフタイムで整理して、リスクを承知で真ん中のここには入れようと言う話はして。逆にカウンターも受け始めたけれど、そこに入れる事でこっちも得るものはあるでしょという話をしました。

ただ、スタメンの2トップが(杉本)健勇と(興梠)慎三という組み合わせで、そういうやり方なら武藤雄樹を入れた方がより戦術的な効果は出る。武藤が入ればああ言う形になる中で、湘南戦は0−0で残念だったけれど、ゲームのストーリーとしては焦れずに行って、最後の穴を開けるところでパワーをかけることはできた。でも、そこで取りきれなかったのが残念です。

ーー4ー4ー2の2ボランチに関して言うと、相手に引かれた場合は、ブロックの間で受けられるボランチがいて、多少狭くてもセンターバックから縦パスを受けられたら、どんどん周囲にスペースが生まれてくるところがあります。エヴェルトン選手も長澤選手も引いてディフェンスラインの間に入れば捌けるし、一人がそこで捌いて、もう一人がワイドに動いてパスを受けてというぐらいはできるけれども、本当はいきなり中盤で縦パスをぐっと引き寄せて、そこに相手のプレッシャーを集めて、周りにスペースと時間を作ってくれる人間が必要というところはすごく感じます。

その通りで、だからハードなキャンプを送った後に、シーズンのスタートで(柏木)陽介が入ったのはそういうことです。あの時のセットは柴戸海でしたが、柴戸も途中で怪我をして、陽介もコンディションの問題があった。陽介は今も素晴らしい選手で、プレーの強度や走る量はまだ出る。ただ、そういう組み合わせは重要だなと思います。

ーーこれもエヴェルトン選手と長澤選手が悪いとかではなくて、相手の前からのプレッシングが前半いっぱい続くとか、そういう試合展開ならむしろ彼らがハマる。そこら辺は本当に全てがスーパーマンというフランス代表のカンテみたいな選手はなかなかいないので(笑)。でも4ー4ー2を採用してくれたことで、戦術的なコンセプトはあるけれど、ディテールの配置とか、選手の組み合わせで見えて面白かった部分もありました。

7月から9月の暑い時期に関しては人を替えないと難しかったのは正直ありました。その組み合わせは発見もあったし、トレーニングをみんな集中してやって、けが人もあまり出なかったので。ボランチは基本的に(柴戸)海とエヴェ(エヴェルトン)と青木で回しながら、サイドの組み合わせも怪我するまでは関根(貴大)、汰木(康也)、そこにマルちゃんが入ってきてくれて。マルちゃんは途中から双子の弟に入れ替わったんじゃないかというぐらいやってくれたから(笑)。組み合わせをやりくりしていた時期と固めた時期である程度はっきり分かれているとは思います。

ーー基本的にはコンディションの問題がなければレギュラーを固定というとアレですけど、スタートで始める選手、試合を終える選手を整理してやれていた方が継続性は出ますよね。

それで後から成熟度は上がったと思いますが、おそらくそれを最初からやってるとたぶん、人がいなくなってしまう可能性もあったなと。最初の設計図では東京オリンピックまでの19試合プラス、ルヴァン杯を挟む連戦があるので、そこまでにある程度の勝ち点と、ある程度のところにいるのは大事だよね、目標を達成するにはというのがあって。スタートのところで準備をしてダッシュをかけようという意図はありました。

(新型コロナウイルスによる中断まで)スタート2試合やれて、あの後の第2節に広島戦が入ってたのかな。その広島戦が1つの試金石になると思ってたんです。埼スタだったのもあって。そこでどれぐらいできるかなというのも1つあったけれど、それがかなわなかった。そこから再開後の戦い方に臨機応変さが求められたのはどこのチームも一緒だけれど、設計図としてはどうやってボールを奪って早く攻めるかというところがありながら、両局面として、ボールを持たされるところでの質をどうしていくかという順番で行ったので、成熟度の部分も、シーズンのそういう流れにはなったと思っています。

ーー武藤選手が2トップの一角に入った時は相手に引かれても、サイドハーフとサイドバック、プラス武藤選手でサイドの三角形を作って、彼らをセンターバックが後ろからサポートして、スクエアで数的優位を作るみたいなのがうまくできる。そこから武藤選手がまたゴール前に入っていくのがスムーズに行かないと興梠選手しかいないということになりますが、そういう形がうまくできていると湘南戦の途中からみたいにはなりにくいですよね。

そういうことです。だから結局、同じような仕組みは提示している中で、その仕組みに合わせて選手構成をするじゃないですか。今その仕組みに合う選手という意味では武藤は合っていると思う。でも武藤のコンディションがいつも良いのかという問題もあるので。あの形のやり方を違う選手でできるかというと。(柏木)陽介は1回そこで試しましたが、あとはヒデ(武田)もこの前そこで使って、そういう形で組み合わせを作るのは可能だとは思っています。

ヒデもここ1ヶ月、2ヶ月でグッと来たので、使って良かったなと思う。最後に入ってもらえてよかったと思います。まあ武藤の存在は今のやり方を作って来た中では大きいかなと。ユニットという言い方はしてますけれど、武藤はボールを動かしながらユニット感をできたり、コントロール1つでそこを突けたりするのはいい選手だと思ってます。

ーー武田英寿がサイドハーフで手応えがあるけれど、試合で使ってもらえなくて難しいと語っていました。

トレーニングの中でしっかり見てきたし、U-19代表のキャンプも練習試合の映像をもらって、現地まで行って観られないので、映像で観てます。ボランチで使われていて、水戸のゲームは水戸さんが前から来るとあそこでボールをいなせなくて足元で潰されてしまうシーンが多かったのですが、大学生と練習試合をしてもできるところとできないところがボランチなんかで使ってみるとあったので。

成功体験を持てるところで湘南戦は使ってあげたかった。8月のカップ戦はセレッソ相手に15分使ったけれども、サイドで使って良さを出してあげられなかった。そこを経験しているのがあるし、ボランチとの距離感を埋められるような形でいくと彼は十分できると思います。

ーー今後、右サイドにいればボランチの補佐ができて、左足のシュート、強度が高くなればボランチでも行ける。仕掛けの特性を発揮するなら4-2-3-1というのがあるならトップ下で輝ける。

青森山田の時みたいなトライアングルを作る形ならそれで生きるだろうし、それは彼がやってきたポジションだと思います。外にいるより中にいた方が、外のポジションでも中に入ってきた方が生きると思うし、そういうところでポジションにとらわれない選手なので、経験を積んでいけばいいタレントになるとは思いますね。

ーースペシャリストになって行くのもいいですけれど、これぐらい3ポジションで、強度が上がってくればボランチもできたらどんな監督になってもどこかしら居場所がある。

そうだと思います。いい選手はどんな監督でも結局使われるから、ただ左足のキックがいいというだけの選手ではない。ちゃんとポジションを取ったり、守備のところもクレバーなところで考えられるし、体の強さが追いついてくれば、間違いないと思うので。今年、試合に出してあげられて良かったし、残りの試合の中でもまた出て、いい繋がりを持ってくれたら。

ーー見ている側はなんで武田をもっと使わないんだと思うかもしれないですけれど、宇賀神選手、武藤選手、阿部勇樹選手などのサポートがあって初めて輝ける?

ウガとセットで入れてあげたいなと入れるときに1つ頭の中にあって、彼みたいな選手が一緒に入ることで助けてあげられることが多いとは思いますよ。うまく間も空いている状態で、入りやすかったかなと思ってます。もちろん彼の力がなかったらできないし。

ーー武藤選手に話を戻すと、自分は”戦術的なスーパータレント”っていると思っていて、例えばセレッソ大阪の奥埜選手とか。あんまり代表に呼ばれにくいですけれど、つなぎ目とか、戦術対応力を考えるとすごく重要な存在だと思っています。浦和だと武藤選手。逆にそれだけできる選手がスタンダードになりすぎると、いなくなる時の難しさが出ますよね。

そもそも今年は武藤がスタートでいなかったので。だから中断期間に戻ってきてくれて、9月にクッと出てきたのは必然だと思うんですが、時間があってよかったなと。その中で、彼がいない時で言うと、仕組みはみんなやってくれているけれど選手によって色が違うので、そうなったときに違う良さ。理解してやらないといけないところ、一番は同じ選手で成熟度を高めて行くところがあって、何枚かの選手だけが変わるぐらいの方がいいと思っています。

例えばヤマ(山中)とウガ(宇賀神)ではタイプが違うけれど、ポジションの取り方も最初違ったんですよ。ヤマは内側を取るし、ウガは外側を取るみたいな。ウガも試合を重ねる中で内側を取れるようになったし、もう少し成熟度が上がって距離感がコンパクトになって、ここを取ればリスクマネージメントできるよねとか理解も上がっている。宇賀神は30歳をすぎても意欲的に学んでくれて、最初は全くできなかったけれどできるようになった。そういう喜ばしい状況を見せてくれたと思います。

ーー誰が出ても同じサッカーと言いますけれど、宇賀神選手と山中選手ではタイプが違う。宇賀神選手がインサイドを取れるようになるのは宇賀神選手の特徴がどうだろうと大事なことです。ただ、その中で個性とかできるできないはある。例えばレオナルド選手は自分も中断期間にインタビューさせてもらって、得点王を期待していました。ただ、再開後のレッズの戦いを見ているとレオナルドをスタメンから使おうと思ったら、ボランチでセンターバックから縦パスを引き出せる柏木選手みたいなタイプがいないと、武藤選手のようにビルドアップからワイドに関わるような意識と機動力が必要になるのかなと。レオ&興梠の2トップもファン心理としてはもっと見たかったです。

「4ー4ー2の仕組みを作った中で、そういう組み合わせの2トップありきで後ろから攻撃を作るには、ボランチの特徴もあるけれど、サイドMFのところで内側に入った時のクオリオティを出せる選手でなければいけない。じゃあ、そこでパスの出し手になれる選手は誰かということで(柏木)陽介を右で使ったりもしましたが、そうすると今度は守備の最初の狙いがズレてきちゃうようなところも見られた。”3年計画”のなかで今シーズンはそういうアジャストの部分が大きかったけれど、そういう編成も含めた作業をしていくといいのかなと思います」

ーーあとはゲームコントロールのところで、ピッチ内で変化があったときに選手たちが解決するために槙野智章選手が重要な存在で、うまく行かない時にどうするかというところが違ってくる。もちろんハーフタームとかで監督が指示できますが、流れの中で選手がいかに解決するかで言うと、本当は橋岡大樹選手や岩波拓也選手がもっとできたらいいかなと。個人的に岩波選手はU-17W杯の頃から見ていたので、ポテンシャルを考えても、もっともっとリーダーシップを期待したいところはあります。

岩波には去年の時点から選手の軸になって欲しい、プレーヤーとしての技術とかだけではなく、グループのリーダーとしての振る舞い、ゲームを観察して、発信して影響力を出すところにもうちょっとパワーを持っていって欲しいというのは話をしていました。右足一本で観客を沸かせられるのは分かっているけれども、守備の能力向上はもちろん、グループ内での強さは必要だという話はしてきて。開幕から起用してきて彼もトライしているけれど、もっとやらないといけない。その中でどこかの切れ目、飲水タイムやハーフタイムにこれをやってくれと言ったらやってくれるんですよ。ただ試合の中で解決するところはまだまだやって欲しいところはあります。

ーーディフェンスで言うとトーマス・デンもキャンプの終盤に入ってきましたよね。個人的にタイでU−23選手権を取材していたので、オーストラリア代表で、その時はサイドバックをやってましたけれど、すごい覇気のある選手だったので、獲得すると聞いて目の付け所がすごいなと。でも異国のチームでリーダーシップを発揮するには時間が必要で、戦術設計もそうでけれど、後ろからのリーダーシップという部分でも難しい1年だったのかなと。

「当然、戦術設計もあるけれども、チームのグループとしての構成だったり、戦術をやる前の組み合わせも含めて、それは重要だと思います。今年に関しては途中でファブリシオとマウリシオがポルティモネンセにレンタルで出ましたが、センターバックの構成としては当初たくさんいたんですよ。この間は(橋岡)大樹が出ましたけれど、大樹もキャンプから当然やっていて、練習試合でも素晴らしいパフォーマンスをしていたので。でも彼をそこで使うとサイドバックが難しくなる」

「もちろん岩武克弥がいるけれども怪我で外れたり、逆に岩武が左をやったこともある。そういう生き物の部分をコントロールしたりとか、そこで成長につなげるところも必要だったとは思います。マキ(槙野)はいいパーソナリティでパワーを与えてくれるし、シーズンの入りで使ってあげられなかったけれど、出てきたところはすごく良かったと思う。もう少し落ち着いて軸が決まったところからのスタートができるとさらに良かったのかなとは思います」

ーー橋岡選手のポジションに関連して細かい話になっちゃいますけれど、橋岡選手がウィングバックとかサイドバックで高い位置に張っていると西川選手のキックをそこで受けられる。どんな厳しい流れでも、あそこから攻撃の起点を作れる、言わばリスタートのようなメリットがあると思うんです。

「それも1つあるし、去年のACLでも間違いなく1つ勝っちゃうポイントなんですよね。あそこで使っておくと海外の戦いでも1つ上回るところがあるのは事実としてあります。海外だとあそこでも相手にサイズが出てくるところでも橋岡は勝てるので、そこは1つ大きかったと思うのが1点。あとは先ほどの話の通り、センターバックの人材が豊富だったのと、逆にサイドバックのところで不安があった。右は人数が少なくなる不安があったので、キャンプ中は柴戸にもやらせたし、キャラクターは違うけれど、けが人が出た時は(長澤)和輝にやってもらったこともあった」

「それでも(橋岡)大樹がセンターバックでもやれるところを湘南戦で見せてくれたのは良かったです。もともとビルドアップが上手な選手ではなかったので、そこからサイドバックをやって、ボールを受け直したり、周りに付けられたり、逆側のボランチに斜めのパスをスポーンと入れられたりというのはサイドバックをやらせたことで良くなったとは思っています。

ーーその視点で言うと西川周作選手が安定しているのは頼もしいし、逆にここは若手の鈴木彩艶を使ってみようとか簡単には選択しにくい状況だったのかなと。僕もキャンプで練習試合を観ていた時に西川選手のコーチングの凄さを感じていました。U-19代表で彩艶選手を観ているので期待はすごいありつつも、チームが勝つところから考えると難しいのかなと外からも考えたりもします。

「彩艶は開幕から中断する前に第二キーパーとしてベンチに入れましたが、再開の試合には福島春樹が入ってました。中断期間にずっと観察していて、彩艶が周作にチャレンジして行く、本当にポジションを取るんだと言うところ、年齢も離れていて、そう言う対象として少し見られていなかったのではないかと。僕も小学生から彼を見てますから、人間性も素晴らしい。でも本当に西川周作からポジション取るところにトライしないと日々の成長も難しいと」

「期待値だけで試合に使うことはないよと言ってるし、カップ戦で期待値というよりは第二キーパーで出ないといけない準備として経験をさせることはあるかもしれないけれども、期待しているから毎試合で使うと言うことではないから。もし使いたいと思わせてくれたら、同等かそれ以上のものがあるとか、成長や可能性と言う言葉ではなく見せなきゃいけないよねと言う話をしたことはあります。そこにトライはしてくれているし、いい方向には行けていると思います」

ーー川島永嗣選手が大宮アルディージャから、名古屋グランパスの守護神だった楢崎正剛選手にチャレンジしていったのが20、21歳ぐらいですか、実際にリーグ戦で何試合かポジション奪ったんですよね。あの全盛期の楢崎正剛から。その時の川島選手のバチバチした感じ。それを考えると彩艶選手は西川周作に挑めるなんて、Jリーグの中でも素晴らしい環境だと思います。どこかにレンタルで行って出場機会を得ると言う選択肢もあるけれど、これだけ伸びるいい環境を与えられて、もどかしさも感じてます。

「永嗣がちょうど19歳の時に僕は大宮にいて、名古屋に行く前の1シーズン一緒に仕事させてもらいましたけれど、本当にすごい成長意欲を見せてもらっていて、僕自身も若い選手が行くんだと。それを見てきた中で、彩艶は本当に可能性があると思っているし、試合に出してあげたい部分も当然あるけれども、そこは正当な競争があるべきだと僕は思っている」

「来年はキャンプからしっかりと挑んで欲しい。逆に周作も自分を律して、パフォーマンスを保ってくれている。石井僚もものすごく伸びていて、この間はサブに入れた。直前の練習試合では彼が一番良かったから。練習からいい選手は入れるというのはやらないといけない。これまでもメンバーを固定したことはあっても、彼らが良かったから使う形ではあったので」

ーー大槻さんはアカデミーも見て、トップのコーチもやっていたので、今は監督として線引きする必要はあっても、やっぱり選手の一人一人に目が行き届くのはずっと監督畑の指導者に無いスぺシャリティなのかなと思っています。ただ、そこで選手一人一人に気付く部分と、チームのオーガナイズの難しさはありますよね。

「オーガナイズのところで言うと、このクラブはタレントがいるし、経験の多い選手も多いので、そこに対してのしっかりとしたコントロールが必要で、ピッチだけじゃなくてクラブとしてと言うのもあるし、僕の場合は途中から引き受けてというのはあったけれど、編成面も監督が替わるところでまたサイクルに変化が生まれるんじゃないかなあとは思ってますけれども、それがいい方向に行ってくれたらいいと思います」

ーーチームの完成度で言うと、湘南戦でも先ほどの山中選手から興梠選手に出る前のところで、サイドチェンジがもっとスムーズに行っていたら、興梠選手はオフサイドにかからずに行けていたのかなと。そこは一発で低くて速いサイドチェンジを出せるとか選手の特徴もありますが、成熟度の部分でも、あの設計の中での実行力はまだ成長の見込みがあるのかなと見ています。

「そう言うところで落とし込み、そのイメージの共有をもっともっと進めて行くことが大事だと思うし、そこは僕がまだ深めることができていないのかなと言うのを感じるところは試合でもあります。そこはもっと深める必要があると思います」

「ただ設計面はきちんとした守備構築からやらないといけないと思っているし、どうやってボールを奪ってというのは上げていかないと、サッカーの構成上は難しいと思います。もちろん、そればっかりやっていても難しいのでバランスが必要なんじゃないかなと思います」

ーー基本的に4ー4ー2で、守備はゾーンでやって、前からの守備でハーフポジションを取れているところもある。ただ、ソーンの穴というか間を突かれた時に、後手の状態でディフェンスがゴール前で体を張って、最後は西川選手がビッグセーブで救ってくれますが、ボールの奪いどころがハマらないと、そこから立て直しに時間がかかるなと見ています。そこを4ー4ー2のままでポジションの整備を進めていって、自分たちからボールを奪って次というアクションを起こせる時間や回数が増えると、もっと大槻監督がやりたいサッカーに近づくのかなとは感じていました。達成度としては中断期間や再開後の過密日程もあり、思い描いていたものはこの期間でやり切るってなかなか難しかったと思います。

「1つのやり方だけができることがいいことがではないとはいつも思ってますし、どちらかというと臨機応変にやれた方がいいと思ってるんです、ただ、1つの型がないとそこまで行かないと思ってるからそこを作ろうと今年はやってきたし、ある程度の積み上がりは感じているところもあるけれども、やれるパターンは決まっているので、そこはもっと整理して表現させてあげたいとは思いますね」

ーーある程度のベースができて、戻りどころが確立されれば、状況によって3バックにしたり5バックにしても、また4ー4ー2に戻ってとか、臨機応変にできると。いきなり臨機応変を入れちゃうと、やっぱり戻りどころがなくなる。そこと結果と向き合い方はすごい大変だったんだろうなと。

「ただ、結果の目標が無くて、やることをやってればいいんですよというのは浦和レッズではありえないし、きちんと目標設定をしてやるべきだとは思います。それが新型コロナの状況で何があったとしても、だから結果は度外視でいいなんてことはないので、きちんと向かい合ってやってきたし、それが達成できなかったことは僕も残念に思っています。でも、そういう姿勢があるからこそ全員で高めていけるんだと思います」

ーー今回、”組長”ではない大槻監督をちゃんと書いて伝えたくてインタビューしましたが、ファン・サポーターからそういうイメージで見られることは自分の中で、どういう心境でやっていますか?

「あの時はスイッチ入れるためにやって、自分自身も奮い立たせたし、あれで盛り上がるならそれでいいと思っていたけれど、正式にしっかり浦和レッズの監督になったらしっかりとしたものを出さないといけない。ただ、僕と付き合いのある人間はどういう人間だか分かっている中で、あそこのスタジアムに入った時にああいうパフォーマンスはしているけれども、どちらかといえば朝一番に来てクラブハウスの門を開けているのが僕ですから(笑)」

「朝からしっかりと仕事してみたいなところをやってきたからこそ、自信を持って今仕事をしていると思っているし、大事だと今も思ってます。ああいう表面的なものは表面的なものだと思ってる。ただ、結果に関しては自分自身も残念だと思っているし、周りからの期待も浦和レッズですから。すごく申し訳ない気持ちが強い」

「経験のある選手たち、代表歴のある選手たちは浦和レッズで勝ちに来ている、浦和レッズでタイトルが獲りたいと思って来ている。今年はそこから離れている中で活動していることが本当に申しわけない。サポーターにもそうだし、そういう気持ちが強いです。そこはすごく感じてますね」

ーー大槻監督が関わるチームでクラブファースト、プレーヤーファーストでやっている思いは間違いなくある前提の中で、今後どういう指導者像を描いていきたいですか?

「自分はチームが苦しい状況だったり、よくない状況のところから始まる。そこをしっかり立て直したり、立て直した後にもう1つ繋げたりを繰り返してここまで来たと思っているので、これからもたぶんそういう状況だと思う。いい状況でバトンタッチを受けることはないと思っているし、でもそこでチャレンジして、困難に向かって越えていくところをしたい。そのためにはいろんなことを判断したり、新しいところに導けるような基準とか物差しを持って、やって行くことを続けていきたいと思います」

浦和レッズの指揮は徳島ヴォルティスを就任4年目にしてJ1昇格に導いたリカルド・ロドリゲス新監督へと引き継がれる。まさしく”困ったときの大槻毅”と呼ばれるような指導者キャリアかもしれない。しかしながら、そこで関わるチーム、そして選手たちを大事にする人からこそ、また充実した働き場所で指導者生活を送って欲しい。

そんな大槻毅監督のために一人の選手からメッセージを受けとった。J1のシーズン終了後、27日までU−19日本代表の候補合宿に参加していた武田英寿だ。彼の感謝の言葉で結びとしたい。

武田英寿(浦和レッズ / U-19日本代表)

武田英寿(筆者撮影)
武田英寿(筆者撮影)

「大槻監督には本当に感謝しています。1年目の自分を、プロの世界というものを厳しく知らせてもらって、自分に足りないものを指摘してもらいました。大槻さんは常にチームのためにという風に動いていたと思います。その中で自分たちが結果を出せなかったのは申し訳ないと思いますけど、それは終わってしまったことなので。大槻さんがこれから先も応援してくれると思いますし、自分たちもチームとして、大槻さんの今後のこともみんなで応援しようと話していたので、観てくれている人や大槻さんのためにも、自分が成長した姿を見せていければと思います」(U-19日本代表候補合宿より)

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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