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敵味方として中村憲剛の凄みを感じてきたジェフ千葉の安田理大が語る。役割意識とチームを強くすること

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:アフロ)

11月1日に今シーズン限りでの現役引退を表明した中村憲剛。これまで川崎フロンターレのチームメートとして関わってきた選手、OBから決断を惜しみつつ、これまで彼が築き上げてきたキャリア、パフォーマンス、振る舞いに尊敬を表すメッセージが相次いでいる。

”川崎のバンディエラ”にそうした声が出るのは当然だが、彼の影響力が川崎に止まらないことは外部からの多くの声からも明らかだ。

中村憲剛の凄さを語り出したらキリがないが、1つあげるなら鋭く正確なパスが代名詞であることは間違いない。そのパスはジュニーニョ、チョン・テセ、大久保嘉人、小林悠など、川崎フロンターレに在籍してきた多くのストライカーのゴールをアシストしてきた。

しかし、その凄さを知るのは川崎の選手だけではない。対戦相手のライバルとして、時には日本代表のチームメートとして受け手になることで肌身に感じた選手も少なくないだろう。

左サイドバックのスペシャリストとして豊富な経験を持つジェフユナイテッド市原・千葉の安田理大もその一人。ガンバ大阪のアカデミー出身、”調子乗り世代”の中心的な選手として2007年のUー20W杯に出場し、同年にナビスコ杯(現・ルヴァン杯)のニューヒーロー賞に輝いた安田はオランダのフィテッセと韓国の釜山アイパークを含む9クラブを渡り歩いてきたが、Jリーグで何度も川崎の中村憲剛と対戦し、その凄さを体感してきた。

「もう憲剛さんは日本サッカー界のレジェンドやと思うし、尊敬する部分しかないというか、川崎フロンターレ=あの人ってくらいの選手」

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(筆者撮影)

そうリスペクトを語る安田が特に凄さを肌で感じたのが、日本代表で一緒にプレーした時だという。

「代表でも一緒にやってましたけど、ホント今までサッカーしてきて、走ったらこんなに簡単にパス出てくるんやって思った一番の選手」

クラブチームのように毎日一緒に活動して、コンビネーションを高められる環境ではない日本代表にあっても、最高のタイミングで正確に届けられるパスはJリーグや海外から集まってくる代表クラスの選手にも衝撃的だったのだろう。

引退表明の前日に40歳の誕生日を迎えた中村憲剛より7学年下であり、12月に33歳となる安田は「憲剛さんとかハッキリ言って俺とかとレベルが違う」という認識を強調しながらも「やっぱり35になって中心選手としてJ1優勝して、MVP取ったりとか、大きい怪我をしても復帰してゴール決めて、多摩川クラシコで決勝ゴール決めてっていう。なんか30越えて確かに終わりが見えてきてるっていうのは現実的にあるけど、その中でああいう人の存在がある」と語る。

「ジェフで言えば佐藤寿人さんもそう。怪我せず1年間、毎日一所懸命に練習して、ここ最近は試合に絡むようになって、試合に出たら得点が取れそうな空気を出してくれる。ああいう存在があるおかげで俺も今年33ですけど、まだ未来に向けて希望が見えるというか、希望を見させてくれる存在なので。キャリアは違いますけど、俺も若い選手に対してそう思わせるプレーをしていかないといかんと思う。そういうのを考えさせてくれる選手がいるってすごい幸せやなと思うし、そういう選手と一緒にできてきた自分はすごい幸せやなと思いながら、憲剛さんのニュースを見てました」

中村憲剛がやってきたのは川崎を強くするということ。それはプレーだけでなく、チームを強くしたい、成長させたいからこその苦言も含めた言葉の発信力だ。それはライバルとして、代表のチームメートとして戦い、内外から振る舞いを見てきた選手なりに感じ取っていた部分は多々あるだろう。

安田理大と言えばコミュニケーション能力の高さ。そこはキャリアやチーム内での立場などは全く違っても、発信していく意識は中村憲剛に通じるところはある。

「キャリアは全然違いますけど、俺は俺なりに欧州に出てサッカーしたり、韓国でサッカーしたり、いろんなチームに行ったりっていう他の人にはできへん経験はしてると思う。そういう部分はそういう経験をした人にしか発信できない部分やと思うので、どんどん発信していきたい。レフリーに対してもそうやし、クラブに対してもそうやし、そういうのはしっかり発信していきたいなと俺は思っている。それで間違えてれば正せばいいと思うし、発信することは大事やと思う。いろんな意見があるので、それでどんどん、もっと厳しい意見は意見で出して成長していける部分もあると思うから、俺みたいな選手が発信していくべきやなと感じながら、これからもやっていきたいなと思います」

安田が所属するジェフ千葉は古河電工サッカー部を母体とし、Jリーグの”オリジナル10 ”として歴史を刻んできた日本サッカー屈指の名門だが、2009年にJ2降格となってから、現在までJ2にあまんじている。素晴らしい駅近のスタジアムと練習施設、温かいファンサポーター、J1の上位クラブにも引けを取らない環境にありながら、なかなか勝てないチーム状況にあるものの、外でタイトルを獲得してきた選手が人目を憚らずに何が足りないのかを発信する土壌はある。

「やっぱりグランドでは個人個人が判断していかないといけないので、そういう時に大事なのは判断力だと思う。いかに早く気づいてポジション取るとか、相手に動きに対してポジション取るかだと思うので、基本的なことは周りの選手には僕も言ったりしますけど、何よりも一番はやっぱり失点してる時ってどうしても緩くなるというか、ちょっとフワッとしたりする部分があるから、今までもそうやって何回も失点してきてるわけやし。だからこそ、俺が一番思うのはグランドの中で全員がリーダーになったつもりで、もっと声を出してやっていかなあかんとはずっと感じている。そういうぬるさがこういう失点につながったり、ジェフがずっとこういう状況にあるってことにつながってるのかなというのは去年からもずっと感じてて、それがなかなか変わらない。そういう部分の厳しさっていうのは俺も出してるつもりだけど、もっと出さなあかんと思うし、(川崎から新井)章太が来て変わった部分もありますけど、もっと変わっていかなあかんと思う」

ーージェフは記者の自分から見ても本当に、スタジアムもサポーターも素晴らしい。あとはチームが強くなるだけだと思います。

「そうですね、環境は素晴らしいと思うし、J1に行って、もう1回J1に定着して、ジェフがJ1のクラブというのを当たり前にしたい」

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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