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E-1初戦で香港に苦しみながら勝利した韓国代表の”継続する意志”。横浜F・マリノスとの共通点

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

韓国の釜山で行われているEAFF E-1選手権の男子は初戦が終わり、日本が中国に2−1、韓国が香港に2ー0で勝利した。

23人のメンバー中、14人が東京五輪の候補でもあるU-22の選手という日本とは対象的に、韓国はソン・フンミンなど欧州組の主力こそいないものの、ガンバ大阪のキム・ヨングォンなどA代表の経験が豊富な選手がずらりと揃い、母国での優勝を狙いに行く”ガチメン”だ。

しかしながら香港戦では結果だけではない、もう1つの狙いが見て取れた。ポルトガル人のパウロ・ベント監督が率いる韓国は4ー3ー3のシステムを採用しており、左右のウィングがワイドに開いて、そこからコンビネーションを駆使して攻め崩すスタイルをとっている。

それに対し、香港は4ー1ー4ー1のブロックを組んで選手間の距離を縮め、いわゆる”中締め”を徹底していた。その香港に対しても韓国は左右のウィングが最初からインサイドに流れることはほとんど無く、辛抱強くサイドを起点にして、そこにサイドバックなども絡んで行く形を取り続けた。

強引に中央に人数をかけてこじ開ける方法もあるが、左サイドバックでキャプテンマークを巻いたパク・チュホは「みんな中にポジションを取っていたら、相手がもっといい感じで守備できるので、サイドで組み立てながら中にスペースを作って、その後に動きをかけて中に入る」ことを心がけていたことを明かした。

結局ゴールは前半の終了間際にMLSバンクーバー・ホワイトキャップスに在籍するファン・インボムが直接FKを決め、後半の追加点もセットプレーからだった。そうした結果だけ見れば”苦戦”と評価するのが妥当だが、韓国としてはロシアW杯後に就任したパウロ・ベント監督のもとで辛抱強く新しいスタイルを構築している最中だ。

攻撃面では課題も出た一方で、守備では香港にほとんどカウンターのチャンスを与えず、ロングボールを蹴られても最終ラインが回収してことなきを得ていたのは攻めている時も全体のバランスを崩さずにリスクをコントロールしていたことが大きい。どういう状況でどういうポジションを取るのか。その”再現性”の高さは現在の日本代表にあまりない韓国の強みとなりつつある。

アジアカップで準々決勝敗退を強いられ、国内で多くの批判に晒されながらもポルトガル人指揮官を解任しなかったのも、そうした構築のビジョンが共有されているためだろう。

Jリーグでは横浜F・マリノスが見事なアタッキグサードフットボールを披露してJリーグ制覇を成し遂げたが、シティ・フットボール・グループの理念に基づくビジョンをベースに、エリク・モンバエルツ前監督が3年間で地盤をならし、昨年から率いるアンジェ・ポステコグルー監督が周囲の批判に屈することなくスタイルを植えつけて、現在の姿がある。

中盤の構成やサイドバックの攻撃への関わり方など、具体的な戦術は韓国と横浜F・マリノスでも異なるが、サッカーの専門用語では”ポジショナルプレー”とも呼ばれる概念をベースに、全体のバランスを崩すことなく攻守のポジション関係を組み上げて行く、”再現性”の高いスタイルを硬直する方向性に共通点が見られる。

ただし、それも1つの方法論であり正解とは限らない。大事なのはチームが進化するために、継続して困難に取り組む姿勢だ。今回のE-1選手権でどういう結果になるかは分からない。もしU-22が中心の日本に負けて優勝を逃すようなことがあれば批判が強まるだろう。しかし、粘り強くチームを作り上げて行けば、これまでの韓国のイメージとは一線を画する世界基準のチームが出来上がるかもしれない。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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