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「分かってて止めれられるようなら」。機を逃さない内田篤人の攻撃ビジョンを示した”PK未遂”シーン。

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:アフロスポーツ)

「やっぱ向こうわかってたね。俺のこと。ベンチのコーチがさんざん左サイドのやつに俺の上りというのを言ってたし、もう2、3人変わってきたし、自分のマークというのが。左の前がね。そこはわかってるなというか、スカウトしてきてるなっていう印象はありましたね」

ACL準決勝の1stレグで水原三星に3−2で逆転勝利した試合後、内田篤人がそう語ったのは後半の立ち上がり。左サイドのつなぎから永木亮太がゴール前にボールを送る。相手ディフェンダーがクリアしたボールを内田が飛び出してカバーに来たヨム・ギフンより前に出ボールキープ、前線の鈴木優磨にワンタッチパス。そこから左サイドバックのイ・キジェの外側から追い越してボールを受けに行った。

「優磨はやっぱりポストプレーうまいから。日本でも1位2位じゃない?ジェイ、ジョー、ゆうま。やってて思うのはそうですかね」

ワンタッチパスから勢いよく入って行ったことを聞くと、独特の表現で答えた内田。反転して止めに来るイ・キジェに倒されたかに見えたが、レフェリーの笛は吹かれなかった。

「俺もPK狙ったけど取ってくれなかった。誰かイエローもらってたので退場させたかったなという意図もあってもらいに行きましたけど」と内田。「(試合を通して)レフェリーがうまかった。とってくれるかなというファウルもとってくれなかったり」と振り返るが、その時点で1−2と負けていた状況で、後半に向けて1つ勢いをつけるプレーであるとともに、研ぎ澄まされた内田のビジョンを表すシーンだった。冒頭のコメント後に内田はこう付け加えた。

「でも、分かってて止めれられるようなら。という感じですね」

このシーンの流れは内田の右からのスローインでスタートしている。ボールをもらいに来た鈴木を使い、遠藤康、三竿健斗、ディフェンスの犬飼智也を経由して、反対サイドの高い位置に上がった山本脩斗、安部裕葵とつないで、中央から流れた永木が受けるという展開。内田は左サイドハーフのヨム・ギフンにマークされていたが、水原のディフェンスが反対に寄る状況を逃さず、相手ディフェンスがファーサイドでクリアする前に動き出して、先にボールに触れるポイントに入っている。

結果的にゴールに結びつかず、またPKも獲得することはできなかったが、相手に警戒されていようと、機を見極めて決定的なシーンを生み出す内田のビジョンを表すシーンだった。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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