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「もうあそこしかない」コースを見事に捉えたスーパーゴール。久保裕也の研ぎ澄まされたシュート感覚。

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

「とにかく点取りたいという思いで、どうにか自分のいい形に持ってこうと思って。シュートはうまくいった」

シャルルロワに2点をリードされた67分、ディフェンスからのロングボールをサイモンがヘッドに当て、さらに途中出場のシラが当てて手前に落とすと、久保裕也が右センターバックのジャビ・マルトスと交錯しながら胸で左ワイドに持ち出す。そこに右サイドバックのマリノスが寄せてくると、左足ヒール寄りのタッチで内側に切り返した。

ちょうど筆者が観ていた場所から久保とゴールが直線上にあったのだが、GKのペネトーに加え、左センターバックのデソレイルがコースを切っており、ファーのサイドネットしかコースが空いていなかった。だが久保のシュートは見事にそのファーのサイドネットを捉え、鮮やかな軌道を描いて吸い込まれたのだ。

「もうあそこしかないというのは思ってましたけど、でもそこにすんなり蹴れたので良かった」

試合後に話を聞くと、久保はそう答えた。ただ、そのシュートを思い描いていたわけではなく「いやもうとっさですけど、もうこぼれ球拾ったところからもう自分で行こうと思った。そこからあとは感覚というか、シュートも感覚で」というストライカーらしいものだった。

前半は自分がボールを受けに行ったところで付いて来たボランチに奪われ、そこからカウンターで先制点を奪われた。またペナルティエリアで引っ掛けられ、PKの判定でもおかしくないシーンはあったが取ってもらえなかった。

「前半ちょっと失点に絡んで、それを取り返せた部分はよかったですけど、もうちょっと何かいいプレーができたんじゃないかと思いますし、勝ちたかったです。2本くらいPKかなと思うのはありましたけど、PK以外でも点が取れたらすんなり勝てた」

ヘントは監督が交代し、代表ウィーク明けは2勝1分だったが、ここで痛い黒星となった。ここまで久保は[4−2−3−1]のトップ下とサイドでマルチな起用をされており、この日もトップ下でスタートし、終盤は右サイドにポジションを移した。それでも前の4枚は常に積極的に仕掛けてゴールを狙うことを求められており、周りの選手の特徴もはっきりしていてやりやすい様だ。

「ゴール前とかでもどんどん、もう無理にでもしかけていくようなシーンがないと、自分たちで2点取るようなことはできないんだろうなと思いました。やっぱ僕ももっとああいう得点したシーンみたいにゴリゴリ行けばチャンスがあるんで、それを増やしていけば、結果、たぶんチームが勝つことになる」

積極的な姿勢の中にいかにゴールのイマジネーションをうまく入れていけるか。本人は「感覚」と表現するが、そこには言葉で説明しにくい刹那のイメージがあるはず。シビアな環境の中で日本を代表するストライカーの感覚は研ぎ澄まされていっている様だ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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