Yahoo!ニュース

”ハリル節”が炸裂したタイ戦の前日会見。プレッシャーを味方にする指揮官があらためて示した世界への道標

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「個人的にはプレッシャーが大好きです。”日本を去るんですか?”という質問も受けましたけど、私はそういうのが大好きです。どんどんプレッシャーをかけてください。それが私にとってはもっと勝つためのモチベーションになりますので」

タイ戦の前日会見でハリルホジッチ監督はハインテンシティーで語り続けた。1つの質問にかなり短めのコメントしかしなかったUAE戦の前日とは打って変わり、会見場は”大演説”の場と化した。

それだけアウェイのUAE戦は百戦錬磨の指揮官にとっても大一番であり、かなりの緊張感を持って臨んでいたのだろう。その試合に勝利した後、ロッカールームで選手に「この価値は次の試合を勝つことによって生まれる」と語り、すぐに選手の気を引き締めたという。気の緩みが全てを失わせることをこれまでの経験で熟知しているのだろう。

しかしながら、タイ戦に勝利することを条件にようやくロシアへの道が見えてきたことも事実だ。最終予選の初戦でUAEに敗れた後、多くのメディアは統計的なデータで”初戦で敗れたチームは本大会に行けない”と書き立て、ある会見ではハリルホジッチ監督の辞意を問う様な質問も出た。そうしたプレッシャーに指揮官は向き合ってきたが、振り返ればホームのイラク戦で終了間際の山口蛍のゴールに救われるなど、薄氷を踏む様な状況もあった。

先日のUAE戦の勝利によってまだ何も約束されていないが、大きく視界が開けたのは事実。「最終予選突破の候補まできた。あとは確実にしないといけない」とハリルホジッチ監督。そのためにはまずタイ戦でしっかりと勝利する必要がある。

「W杯は4年かけて準備するもので、私の場合は3年ですけど、しっかりやらないといけない。1つ間違えると3年の努力が無駄になる」

日本の特徴を”コレクティブ(集団的な=組織プレーの意味)だというハリルホジッチ監督は「1人で局面を打開して勝たせる選手はいない。21試合やりましたけどコレクティブな組織的なプレーで勝ってきた。個人が5人を抜いて、違いを見せ付けて勝ったことはない」と主張する。

「このチームはもっと伸びるが、ベースはコレクティブです。もちろんコレクティブなところに個人の長所は必要だが、このやり方で日本はいい結果を生む」

そう語るハリルホジッチ監督は予選突破が決まっていない現時点で明言していないが、最終目標はロシアに行くことではなく、そこで躍進することであることは間違いない。

「数年前に良くない結果をして、去年から徐々に成功がはじまった。日本サッカーのショーウィンドウは日本代表のAチーム。Aチームが結果を生めばショーウィンドウはより美しくなる。私が率いた3チーム目としてW杯に進みたい。そのために今まで以上にハードワークして臨みたい」

UAE戦に勝利した後で酒井宏樹は「W杯を見据えてますからね。世界で勝てるチームを作る」と語っていた。彼もブラジルで悔しい思いをした1人だ。あの大会を経験した選手たちの目標もそこにあるはずだが、まずアジアを勝ち抜かなければ道は開かれない。タイ戦の勝利はそのための大きな一歩になる。

「フットボールに関してはなかなかすぐには発展しないということです。多くの人はなかなか待てない。特にサポーターとメディアは早く結果がほしいと。何日かで色んなことがすぐに変わると思ってしまう人もいます。全世界の代表監督というものはいつも批判されています。僕らの国の首相も同じですね。ただ、私はするべきことを分かっていますし、おそらく1年後、2年後、3年後にはまた別の話になっているのではと思います」(ヴァイッド・ハリルホジッチ監督 2015年9月7日 アフガニスタン戦・前日会見より)

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

河治良幸の最近の記事