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アギーレ・ジャパンの申し子?初選出の皆川佑介は日本の新たな大砲になれるか。

河治良幸スポーツジャーナリスト

ハビエル・アギーレ監督が就任して最初の日本代表メンバーが発表された。「ゼロからのスタート」を強調する指揮官。初選出の選手が5人もいることはフレッシュな雰囲気を印象付けるが、特に驚きの選出となったのがサンフレッチェ広島の皆川佑介だ。

アギーレ監督は皆川の選出に関して、同じく初招集の武藤嘉紀と共に「他の選手のケガによって招集されることになったが、非常に若く攻撃的でハングリーな選手なので、代表に合っている」と語った。状況としては、海外組のリストにありながら外れた香川真司か原口元気の代わりに追加されたことになるが、短い期間の視察やチェックを通して目に付いた1人であることは間違いない。

大卒1年目のストライカーは今シーズンの第15節に初出場。8月23日のセレッソ大阪戦が初の先発だ。アギーレ監督が皆川のプレーを直接観たのは8月16日の浦和戦で、後半14分から出場したがゴールは無かった。試合後に「素晴らしい選手がいる」と語ったアギーレ監督は映像で過去に決めた得点などもチェックしたはずだが、現場の30分ほどのプレーで得たインスピレーションが大きかったのだろう。

皆川の基本的な特徴を説明すると、186cm・84kgという日本人ではかなり恵まれた体格を誇るが、優れたテクニックの持ち主であり、特に正確なタッチと懐の深さを活かしたボールキープは素晴らしいものがある。右利きだが要所で左足を使え、両足と頭で鋭いシュートを放つことができる。

ドリブル能力は高いが縦のスピードはそれほど無いため、力強くも柔軟なポストプレーで周りのフォローを引き出し、最後はペナルティエリアの中で勝負するタイプの選手だ。それらの特徴からサンフレッチェ広島のOBで、”アジアの大砲”と呼ばれたV・ファーレン長崎の高木拓也監督を連想する人も多いと思うが、筆者は元セルビア代表のサボ・ミロシェビッチが浮かんだ。

やはり大柄な体躯と柔軟なテクニックを兼ね備えたミロシェビッチは効き足こそ左だが、しなやかな動きでマークするDFを少しいなしながら、吸いつく様なトラップでボールを体におさめると、巨体を自在に操りながらボールをキープし、周囲を動く味方に好パスを通した。そこから最短距離でペナルティエリア内に侵入し、ドンピシャのダイレクトシュートでゴールネットを揺らしたのだ。

そのミロシェビッチは2004~2007年までスペインのオサスナに在籍。アギーレ監督が同クラブを率いたのは2002~2006年で、04-05、05-06の2シーズンに渡りエースとして起用。ミロシェビッチも指揮官の信頼に応え、チャンスメークとフィニッシュの両面でチームの躍進をけん引した。

アギーレ監督はここまで指揮したチームで、基本的に体格が良く技術の優れたFWを重用する傾向が強いが、もう1つの条件はチームのために献身できることだ。2002年W杯でメキシコ代表のエースを担ったボルヘッティや2010年メキシコ代表のギジェルモ・フランコもそうで、しっかりハードワークする中にも質を伴い、幅広いポストワークで効果的な攻撃を引き出せる選手たちだった。

過去2シーズン率いたエスパニョールでは、セルヒオ・ガルシアという170前半のFWがエースとして君臨しており、サイズは絶対的な条件ではないが、アギーレ監督が求める資質に大きなプラスアルファを加えるものではあるだろう。

9月1日から札幌で最初のキャンプがスタートし、5日のウルグアイ戦(札幌)、9日のベネズエラ戦(横浜)を通してアギーレ監督の基本コンセプトはかなり見えてくるはずだが、その中で皆川を含めたFWをどの様にテストするのか。“3トップ”中央の有力候補には大迫勇也がおり、タイプは違うが柿谷曜一朗や岡崎慎司もいる。明確なトップ下のポジションが無ければ、本田圭佑もここで起用されるケースがあるかもしれない。

4年前に比べてもFWの競争力は確実に上がっているが、皆川が早期に監督の要求を理解し、さらに自分の持ち味を発揮することができればメンバー定着も不可能ではない。まさに“アギーレ監督の申し子”になりうる存在だが、日本代表の厳しい競争に打ち勝てるメンタリティがどこまであるかは広島の担当記者ではない筆者にとっても未知数であり、これから注目していきたいところだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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