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就活生は、“社畜”? ー就活制度の不毛ー

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者:luca.sartoni

「俺、就活やって、超くだらないって、がっかりした。先生、どう思う? 就活っておかしいよね?」

物議をかもした、“学歴フィルター”で選別されるトップ校の学生が、先日、こんなことを言ってきた。

「調子よくて要領がいいヤツは内定とれる。しかも散々、『自分のやりたいことをやりましょう!』『好きなことを仕事にしましょう!』って教育され、自己分析だの他者分析だのやらされてきたのに、結局、会社に自分を必死で合わせている。社畜になりたくねえなぁって思ってたけど、就活そのものが、社畜じゃないかって。先生、どう思う? 先生の意見聞かせてよ」

彼は学歴もさることながら、面接官が、『求めている人物像』に合わせ自分のストーリーを上手く組み立てる能力に長け、名だたる企業に内定をもらっていた。にもかかわず、こう詰め寄ってきたのである。

「こういうヤツに限って、会社入ってから使い物にならないんだよ!」

「だったら就職なんかしないで、自分で起業しろ!」

そう怒っている人もいることだろう。

だが、報道では、就活に苦悩する学生ばかりが取り沙汰されがちだが、今の就活は彼のような“就活エリート”も生み出していることを忘れてはならない。

確かに彼のような部下がいたら、ちょとイヤかもしれないけれども(苦笑)、私も若いときには、「人生は舐めてないけど、世の中は舐めてま~ス」なんて大口をたたいていたので、彼の言い分もなんとなくわかる気がする。

いずれにしても、彼のいうとおり、会社選びに踊らされている就活は、ある意味「社畜」だし、「好きなことを仕事にしよう!」、「自分のやりたい仕事を見つけましょう!」、「就社でなく、就職の時代です!」なんて、キャリア教育を散々しておきながら、結局は、会社に身を委ねる一括採用、すなわち「就社」を強いるのは、明らかに矛盾している。

学生たちの純粋な目は、社会の“矛盾”を的確に捉えているのである。

就社とは何か? と考えるうえで、 経済学者の奥村宏氏の定義が参考になる。氏は、就社を、「会社本位主義の日本型就職システム」とし、その特色として以下の4点を挙げた。

1.全国一斉の4月1日採用

2.人事部による一括採用

3.就職における大学間格差

4.ゼネラリストを養成する社内経歴

つまり、「就社」とは、若者が高校や大学という「組織」から、企業という「組織」に、切れ目なく所属し、そこで勤め上げるシステムに他ならない。

死語となった「会社人間」も、いわば労働者と企業の間で成立していた「そこでキャリア人生を全うできる」という、ギブアンドテイクの関係が創り出した産物である。「会社人間」は否定的に捉えられることが多いが、実際には、働く人たちが望んだ働き方でもあったのである。

そういえば、私の友人が学生のときに、「自己実現するために、○○商事に入りたい!」と親に言ったら、隣でその話を聞いていた婆ちゃんにこっ酷く叱られたことがあった。

「バカなこと言ってんじゃないよ。会社はアンタの自己実現のためにあるんじゃないよ。雇ってもらって、お給料いただくんだから、会社さんのためにアンタは働くんだよ」と。

思い返すと、婆ちゃんのいうことは至極まっとうな意見だ。だが、当時の私たちは、「会社の歯車になるなんてまっぴら」と思っていたし、「自己実現」は呪文のようなものだった。歯車にすらなれないクセに、呪文を唱えさえすれば、“未来は明るくなる”と勘違いしていたのだ。

が、時代は変わり、会社は人員削減のリストラを行うようになり、非正規社員も増えた。「会社さんのために働いても、使い捨てにされるだけ」になってしまった。

要するに、「就社」という形が労働者にもたらしていた、プラス部分が既に崩壊し、風化しているにもかかわらず、「会社本位主義の日本型就職システム」の4つの特徴だけ生きのこり、「好きなことを仕事にしましょう!」なんて呪文を学生たちに教えるキャリア教育が横行し、内定をもらうことにだけに、学生たちは大学で過ごす半分以上の時間を費やしている。

なんという不条理。いったい何のための大学なのか? 

「就活って、超くだらない」――。そう嘆く就活エリートと、内定が取れなくて生きる力まで失う学生を量産しているのが、今の就活なのだ。

婚活、妊活、就活、終活……。

今の世の中、先を見据えた“活”ばかり。必死に、“いい会社”に内定もらうためにがんばるより、大学生にしかできないことに、4年もの時間の“今”に、もっと集中し、もっともっとエネルギーを注いだほうがいい。

「目の前の今を大切に精一杯やらない限り、納得できる“先”は訪れない」―-。これは私が社会人になっていちばん学んだこと。目の前のことを大切出来ない人が、先のことなどできるわけがない。そんな当たり前のことを、社会人になって痛感した。

「それはわかるけど、そんなことしてたら就職浪人になるよ」

確かに。

なんて罪深い制度をオトナたちは強いているのだろう。もっと大切なことを、就活生を食い物にするんじゃなくて、ホントに大切なことを教えていくキャリア教育をしないと、彼らを成長させ土壌はどんどん痩せていってしまうのに…。なんてオトナは勝手なんだ。

それでもせめて一括大量エントリーみたいな不毛なことはさっさと止め、面倒で大変かもしれないけれども、直に向き合う機会をもっともっと大切にしてほしいと思う。

どんな社員教育が社内で行われるのか?

どんなキャリア形成を目指しているのか?

直に会い、直に話し、同じ空間の空気を共有する。企業が学生の“質”を見極めるだけじゃなく、学生も企業の“質”を知る手がかりを積極的に得て欲しい。

「でも、そんなことしてたら、2、3社、多くても5社くらいしか回れないじゃないか」

そう不満を漏らす学生もいることだろう。

なかなか受からないと、「あれもこれも」となる気持ちも分からなくもないが、「とりあえずエントリー」は疲弊するだけ。とりあえずエントリーしただけでも、ダメ出しされれば誰だって落ち込むし、疲弊する。たまたま“当たった会社”に、上手く適応できるとも思えない。

結婚だって、たくさんお見合いしたからいい人に出会えるとも限らない。就職だって同じだ。どうか周りに翻弄されずに、自分の目を耳と直感を信じて、就職活動をしてほしい。

そして、できることなら大学生活に集中してください。遠回りになるかもしれないけれど、それが人生では大きなプラスに絶対になるはずですから……。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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