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小保方博士に“熱狂”したニッポン人が露呈した、“品格”のなさ?

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著作者: freedesignfile.com

懲りないメディアに、イエローカードが出された。

「研究発表に関する記者会見以降、研究成果に関係のない報道が一人歩きしてしまい、研究活動に支障が出ている状況です。」という小保方さんの言葉が記された、報道規制がかかったのである。

今から2年以上前の、“あの時”とニッポンの報道の品の悪さはちっとも変っていない。

「結婚したいですか?」

「彼氏はいますか?」

「将来、子供は欲しいですか?」

これらはすべて、女子サッカーのワールドカップで初優勝を果たした、なでしこジャパンのメンバーがテレビ出演した時に、テレビ番組のリポーターやキャスターたちは戸惑うことなく口にした言葉だ。

ある朝の情報番組では、

「金メダル取って、もてるようになりましたか?」という質問を、柔道家の塚田真希さんやレスリングの吉田沙保里選手にしたVTRを流し、スタジオでレポーターも、キャスターも、コメンテーターも、笑っていた。

会社で聞いたら、即問題視されそうな質問を、悪びれるそぶりもなく繰り返す人々に、私は実に不愉快になった。そして、今回もあの時と同じことを、メディアはまた、繰り返したのである。

「おしゃれ好き」

「デート中も研究が離れない」

「指輪はどこそこのもので、お値段はホニャララ円!」

「見えないところまで気を使った、髪飾り!」

「早生女、リケ女! に勇気をくれた」

いったいなぜ、こんなにも品のない報道しかされないのだろう? 

「結婚したいですか?」、「彼女はいますか?」なんて質問が、サムライブルーのメンバーに投げかけられただろうか? 山中教授に、「どこそこのシャツ!お値段ホニャララ円!」「見えないところまで気を使った、靴下!(ん?靴下? まっ、いっか)」なんて報道ありましたっけ?

私の記憶が間違っていなければ、そんな質問も報道もされなかった。

確かに、偉業を成し遂げた方達の、人となりを知りたいという欲求は、誰にでもある。

「自分と変わらない」なんて、フツーの部分が報じられると、ちょっとばかり勇気もでる。

人間的な部分が垣間見えた方が視聴者との距離も縮まることもあるだろう。

だが、明らかに前回も、そして今回も、“雑談”のレベルを超えていた。報道のほとんどが、“女であること”だけをクローズアップしていたのだ。

そんな低レベルの報道が繰り返される背景には、「サッカーは男性のスポーツ」、「女性のゴールは結婚」、「女性ばかりは大変」といった価値観、「研究者は男の仕事」、「女性研究者はおしゃれじゃない」「世紀の大発見と恋愛は両立しない」なんて思い込みがあったんじゃないのか?

だが、質問を容赦なく浴びせる人たちも、テレビで取り上げる人たちにも、そんな“思い込み=価値観”の存在に微塵も気がついていない。

社会に長年存在した価値観や、外部から刷り込まれた価値観は、時に自覚なきものとなる。何気ない一言や、何気ない行動には、自分が自覚していない価値観が反映される。そして、その自覚なき価値観が、時に、“刃”となって、他人を傷つける。

厚生労働省が発表した都道府県雇用均等相談室への男女雇用機会均等法に関する相談は20,677件。うち、「セクシュアルハラスメント」が 半数を占め9,981件。紛争解決の援助の申立受理件数は504件。トップは、「婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」が232件で、2位が「セクシュアルハラスメント」(231件)でそれに続いた。

これらの数字にも、無自覚の価値観が反映されている、とは考えられないだろうか?

「世界のリーダーになる人材を育てる! 世界に通用するグローバル人材を排出する!」

と、世界だの、グローバルだの、ニッポンのオッサンたちは声を荒げるけど、だったら性別や、年齢や、人種などの違いへの、刷り込まれた無意識の価値観も世界に通用するようにしたほうがいい。

英公共放送BBCは、再生医療への応用に慎重な見方を紹介しつつ、酸性の溶液に30分浸すだけという簡単な作製方法について「革命的だ」と称賛する研究者らの談話を紹介。

米ウォールストリート・ジャーナルなど主要経済紙も、中心となった理研発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子(おぼかたはるこ)・研究ユニットリーダー(30)の言葉を交えて詳報。韓国の中央日報も「iPS細胞よりさらにすごい発見」と評価する同国専門家のコメントと共に紹介した。

どこにも「女であること」に特化した報道は見受けられない。

なでしこジャパンのときもアメリカではエースストライカーのアビー・ワンバック選手とゴールキーパーのホープ・ソロ選手がCBSテレビの人気バラエティー番組「レイトショー」に出演し、10 分程度の出演時間の大半が試合の話で、前回のワールドカップとの違いや準決勝のブラジル戦に関する話題に7分ほどが費やされた後、残りの時間はなでしこジャパンとの決勝の話で盛り上がった。

おしゃれをして出演している選手たちに、「ピッチの外では、女性だね」なんてことを言うことも、ネイルがどうだとか、アクセサリーがどうだとか、しつこく聞くこともない。

結婚していないソロ選手に、一度たりとも、「結婚したいですか?」「子供は欲しいですか?」なんて質問をすることもなかった。見ていて楽しかったし、あきなかったし、ワールドカップの試合ってすごいんだなぁ~って感動したし、彼女たちの人間性も感じ取れた。とにもかくにも、彼女たちのすごさが分かる番組だったのである。

私も、「結婚されているんですか?」と聞かれることが度々ある。聞かれるのは一向に構わないし、恐らく聞く方も、ただ聞いてみたかったから聞いただけなのだとは、思ってはいる。

だが、「いいえ、してません」と答えると、「忙しくて恋愛とか、結婚とかできませんよね」とか、「男性の方が敬遠しちゃって、結婚なんてできませんよね。ガッハッハ」などと、言われてしまう。

ん? 世の働く男性は、ヒマな人しか結婚していないのだろうか。ヒマな人しか、彼女はいないのだろうか?

もし、私が男だったら、「忙しくて恋愛とか、結婚とかできませんよね」とか、「敬遠しちゃって、結婚なんてできませんよね。ガッハッハ」などと、言われることはないはずだ。

価値観には、自覚されているものと、自覚されていないものがある。自覚されている価値観とは、自らの経験を通じて形成されて、無自覚な価値観は、社会に既存の価値観であることが多い。

親の考え、子供の時によく見たテレビや雑誌に描かれていたこと、周りの人がよく言っていたこと。そういったものが、自分でも気がつかないうちに、あたかも自分の考えのように刻まれる。

男と女は、同じでない。生き方にも、考え方にも違いがあって当然である。

だが、いかなる価値観であっても、自覚さえされていれば、むやみに人を傷つけることはない。無自覚の価値観だから、ためらいのない無責任な言動となり、刃となる。だから余計にややこしい。

この“無自覚な価値観”に、小保方さんが出した「報道自粛のお願い」でどれだけの“オッサン”たちが気付いてくれたのだろうか?

以前、取材させていただいた会社のトップの方は、さんざんダイバーシティーだの何だのと語り、そこにいた部下に、「何でうちの会社には女性の役員がいないのかね。私は、女性を積極的に登用しなさいって、散々言ってきたつもりだけどね~」と語った。ところが、その後に一緒に乗ったエレベーターで信じられない一言を言い放った。

一緒に乗り合わせた女性社員が先に降りた時にこう言ったのだ。「あれはうちの社員か? 女は3歩下がってついてくる、って言葉を知らんのかね」と。

さて、女性役員が一向に増えない理由が分かりましたね。、ウソのようなホントの話。これが今の日本の現実。自覚なき価値観、恐るべし。

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健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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