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トヨタGRスープラのドイツ「ゴールデンステアリングホイール賞」受賞に見る、トヨタ近年の取り組みの成果

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全て筆者撮影

 トヨタが今年復活させたスポーツカー「トヨタGRスープラ」が、ドイツで最も権威のある自動車賞のひとつである「ゴールデン・ステアリングホイール賞」を受賞した。

 このゴールデンステアリングホイール賞は、ドイツの「Bild am Sonntag(ビルド日曜版)」と自動車専門誌「Auto Bild(オートビルド)」が主催する、40年以上の歴史を持つ自動車賞として知られている。読者による投票や、自動車ジャーナリストおよび関係者から構成されている審査員の評価によって、各カテゴリーにおいて、その年に最も優れた新型車が決定されるものである。

 今回GRスープラはこの名誉ある賞を受賞したわけだが、そこには単なる受賞した以上に胸を熱くするストーリーが含まれていたのだった。

 実際に世に送り出された自動車として、この賞を受賞するだけでも快挙であり、このクルマを世に送り出した関係者にとっても非常に光栄なことは間違いない。しかしながら今回GRスープラの受賞は、さらに素晴らしいものになったといえる。

 まず今回、GRスープラはスポーツカー部門で受賞したが、このこと自体に大きな価値がある。なぜならば自動車の本場である欧州の、自動車王国といえるドイツで、走りが重視されるスポーツカー部門での受賞である。それはGRスープラが今回、スポーツカーとしていかに優れた存在であるかの証ともいえる。これは当然スポーツカーとしては堂々と胸を張れる結果である。

 しかも今回のスポーツカー部門での受賞は3位にBMW850i xDrive、2位にポルシェ新型911となっており、ドイツが世界に誇る名ブランド2社のスポーツカーと真っ向から勝負してそれらをおさえたことも快挙といえるもの。さらにスポーツカーの代名詞である名車ポルシェ911の最新モデルをおさえての受賞は、快挙という言葉だけでは表現しきれない価値あるものだといえるだろうし、このクルマを手掛けた人々にとっては勲章ともいえる誇らしいものだろう。

 さらに今回のゴールデンステアリングホイール賞受賞は、トヨタ・ブランドとしては2回目となる上に久々の受賞でもある。そしてここにも運命的な要素があった。というのもトヨタ車が今回のGRスープラ以前にゴールデンステアリングホイール賞を受賞したのは1982年のことで、実に今から37年前の話。2006年にはレクサスISが受賞しているが、これはトヨタ・ブランドではなくレクサス・ブランドとしての受賞だ。かくして今回のGRスープラはトヨタとして37年ぶりの受賞となるのだが、実に興味深いのはこれまでのゴールデンステアリングホイール賞の歴史において過去1982年に唯一受賞していたトヨタ車というのが、何を隠そう当時のスープラ(通称60スープラ)だったという事実である。そう、37年ぶりの受賞もまた、同じスープラだった。

 振り返れば1980年代初頭の欧州における日本車といえば、その実力は認められる黎明よりもさらに前の段階だったであろう。しかしながらこの権威ある賞を当時受賞したということは、自動車の本場欧州で60スープラにはゴールデンステアリングホイール賞に認められる理由があったということでもある。そしてこの後、日本車は世界に認められるようになり、現在に至る歴史を辿っている。

 そうした日本のモータリゼーションの中にあって、37年前の60スープラのゴールデンステアリングホイール賞受賞は現在以上の名誉だったともいえるだろう。しかしながら、それ以降でみても日本車がこの賞を受賞する例は少ない上に、スポーツカーで受賞するということもなかった。そうした歴史を今回のGRスープラは見事に塗り替えた上に、スープラとしても2度目の受賞という、この車種にとっての名誉をも復活させたといえる。

 トヨタGRスープラの開発責任者である多田哲哉氏の、その喜びの大きさは計り知れないものだろうことも容易に想像がつく。自動車王国ドイツで、スポーツカーとして、そしてトヨタとして37年ぶり2度目の、同じスープラとしての受賞というのは多田氏のみならず、このクルマに関わった人々はもちろん、日本の自動車メーカーとして、日本人としても誇らしく思えるものだ。

GRスープラ開発責任者の多田哲哉氏(筆者撮影)
GRスープラ開発責任者の多田哲哉氏(筆者撮影)

 トヨタは現在豊田章男社長を筆頭に、特にプロダクトに関しては「もっといいクルマ」を作り生み出すことに注力している。そして豊田章男氏自らがマスタードライバーとして、同社が送り出す「もっといいクルマ」を試してゴーを出す体制も敷かれている。そんな風にここ数年で目覚しく改革しているトヨタにあって、今年日本市場にも送り出したトヨタGRスープラはまさに「もっといいクルマ」の筆頭といえる1台だ。

 また今回GRスープラの開発責任者を務めた多田氏は、それ以前にもトヨタとスバルの共同開発によるスポーツカーであるトヨタ86(スバルBRZ)でも開発責任者を務めており、今回はBMWとの共同開発によってGRスープラを生み出すなど、トヨタと他社との協業によるクルマ作りに取り組んできた人物であり、こうした背景を見ても「もっといいクルマ」を生み出すために積極的に取り組んできたともいえる。

 そうした結果が今回の受賞につながっているのだから、近年のトヨタのプロダクトに対する様々な取り組みは、良い方向に進んでいると感じるのだ。

 そして国内では先日、世界戦略コンパクトモデルであるヤリスが発表されて大きな話題を呼んだ。このモデルを筆者も先日ひと足先に試乗したが、欧州車にも負けない走行性能が実現されていたことに驚いた。このヤリスは来年2月に販売が始まる。そして来年には、トヨタの人気車種であるコンパクト・ハイブリッド「アクア」やミドルクラスSUV「ハリアー」のフルモデルチェンジが噂されており、これらでも近年の取り組みが現れているだろうと予測できるのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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