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【動画アリ】アウディ初の電気自動車、e-tronに驚愕する。

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影/その他の写真はアウディ・オフィシャルフォト

間違いなく今年1番の衝撃的な走り

 アクセルを踏んで動き出した瞬間、いま世の中の全てのクルマが過去になった…と確信した。

 アウディe-tron。アウディ初の量産EVは、それほどまでにインパクトのある、驚愕の走りを実現していたのだ。果たしてe-tronの驚愕の走りとは、一体どんなところだったのか? それは動画を参照いただくとして、ここではその成り立ちを中心に記しておこう。

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 e-tronはアウディの新世代プラットフォームMLB Evoを用いる。とはいえピュアEVなので他とは異なる部分が多く、ほぼ専用のプラットフォームを起こしたと言って良いだろう。シャシーも当然ユニークなもので、床板は95kWhの容量を持つ高電圧バッテリーが敷きつめられる。バッテリーは1枚のパウチセルを12枚で1組としたものを36個搭載する構成で、総重量は700kg。このバッテリーは強固なアルミ押し出し材のフレームで頑丈に囲われ、衝突等での変形を防ぐ構造とされる。

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電動4WDによって5.7秒で100km/hへ

 モーターは前後に1つずつの計2つ。フロントアクスル同軸上に最高出力約170ps/最大トルク247Nmを発生する非同期モーターを搭載。さらにリアアクスルの同軸上に、最高出力約190ps/最大トルク314Nmを発生するモーターを搭載する。そして1速ギアを備えた2ステージプラネタリーギアボックスが、ディファレンシャルを経由してアクスルに駆動力を伝える仕組みだフロントよりリアのモーターの方が出力/トルクともに大きいのは、アウディの他モデルのクワトロと同様。後輪駆動的な感覚を実現するためでもある。前後の非同期モーターは8秒間だけ出力の引き上げが可能。Sモードを選びアクセルペダルを床まで踏み込むとブーストモードとなる。このモードではシステム最高出力408ps/最大トルク664Nmを発生し、0−100km/h加速で5.7秒を実現する。

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 しかも、これほどのパフォーマンスを持ちながら、航続距離はWLTPドライビングサイクルで400km以上を実現する。この性能と航続距離なら、もはや日常使いで何の不満もないEVといえる。

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 アウディe-tornは、ご覧の通り未来的なデザインが印象的な1台でもあるが、実は外装のデザインもまた性能の一部である。外装ではEVらしく吸気口が小さなライトグレーのシングルフレームグリル(もちろんその奥にシャッターグリルを内蔵)に始まり、試乗車はオプションでバーチャルエクステリアミラーを採用していた。そしてテイストが未来的なだけではなく、電費効率向上や静粛性向上のため、空力を徹底的に磨き上げた。結果CD値が0.28、バーチャルエクステリアミラー装着車では0.27と、世のSUVとして最も優れた数値を実現した。インテリアのデザイン・テイストは、今年登場したA7やA8に近い。メーター/ナビゲーション/エアコン操作等と3つのモニターを備えた新しいMMIを採用する点もA8と同じで、ハプティック・フィードバックを備えたものとなる。

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注目はバーチャルエクステリアミラー

 しかし今回のデザインでの注目はやはりバーチャルエクステリアミラーだろう。ボディにはデザインされたカメラユニットが備わり、室内では左右ドアトリムのオープナーの前に、自動輝度調整機能と近接センサーも備えた有機ELの液晶パネルを融合し、ここに表示する。

 このミラーは高精細で、指でタッチすると操作のための表示がなされ、ドラッグしてカメラの角度を調整し見え方を変える仕組みだ。走行中は後側方からのクルマに対し液晶画面の縁が黄色となり注意を促す。また後側方からのクルマに対し車線変更可能ならば画面の縁が緑色となり、さらに縦にガイドラインを表示して、後続車との距離感の目安になる。また高速走行、旋回時、駐車時と状況に応じて自動的に調整される。

 実際に使ってみたが、高精細で画像は綺麗だ。が、液晶の場所がウェストラインより下に来るため視線移動は横方向にも縦方向にも多くなる印象。夜間はレクサスESでは後側方のクルマとの距離感がつかみづらかったが、こちらはそれより幾分ましな印象だった。

 e-tronの走りの良さは動画の通りだが、やはり強烈なのは静粛性の高さだ。これがあるからこそ、e-tronは並のEVと一線を画す立ち位置を得たと言える。これによりむしろ力強さや滑らかさも数割増しで感じられるようになったわけだ。e-tronは、筆者がこれまで試乗してきたEVとは段違いの次元にある、まさに新世代の乗り物に感じられた。間違いなく今年の一番だ。

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圧倒的完成度。しかし唯一のエクスキューズ

 ただし、現段階ではエクスキューズがある。なぜなら95kWhという容量も、WLTPで400km以上の航続距離も申し分ない性能である。しかしEVの評価は、プロダクトだけでなく充電インフラによって評価が大きく変わる。

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 実際に欧州では専用の150kWhの急速充電が可能で、この場合はe-tronの使用にストレスはない。しかしながら来夏導入が予定される日本では、当面チャデモを使う。これは最大50kWhで充電可能だが、現実的には30kWh程度になることが多く、大容量EVへのチャージは時間がかかる。これはテスラ等でも試した結果として、僕自身も肌で感じている。となると家庭用の普通充電では当然大出力は望めず、さらに長い時間が必要だ。

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 今回試乗したアウディe-tronはプロダクトとして間違いなく今年1番だ。が、高性能EVゆえの充電インフラとの関連は悩ましい。しかしながら、これほど完成度の高いEVの登場で、世界中の自動車メーカーの今後のEV開発に、さらに拍車がかかるだろう。価格は欧州で79900ユーロ。ならば日本でも4桁万円を切るモデルの可能性もある。いずれにしても来夏の導入が非常に楽しみだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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