Yahoo!ニュース

「エンジン車のみの車種はゼロとなる」って、どういう意味?【トヨタの電動化ニュース解説】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真提供:トヨタ自動車株式会社

 2017年12月18日、トヨタは今後の電動化に関する発表を行った。その中でリリースの一部に「エンジン車のみの車種はゼロとなる」と付け加えた。まず、トヨタの「エンジン車のみの車種はゼロとなる」という表現自体分かりづらいのだが、これを受けたその後の報道の見出しはさらに誤解を招くものとなった。

 例えば日経新聞のウェブサイトの記事は、

トヨタ、全モデルに電動車 電池生産へ1兆5000億円

出典:日経新聞

 であるが、まず「全モデルに電動車」という表現自体はかなり誤解を招くといえる。これだと、全モデル=トヨタが売る全てのクルマと誤認されやすく、さらに電動車=EVと誤認する人も多い。そしてその後に「電池生産へ1兆5000億円」と続くため、先の電動車=EVの誤認をさらに後押ししてしまう心配もある。だから人によっては、「全モデルに電動車」=トヨタが売る全てのクルマに電気自動車が用意される、と思ってしまう人がいても不思議ではない。

 また産経ニュースでは、

トヨタ、「エンジンのみ」の車種ゼロへ 2025年までに電動化加速

出典:産経ニュース

 というように、トヨタのリリースにほぼ忠実に『「エンジンのみ」の車種ゼロへ』と言っているが、そもそもトヨタのこの表現自体が一般的には分かりづらく、これも人によっては、エンジンだけしか搭載していないクルマは消滅する、と捉えられてしまう可能性がある。またその他の大手新聞系のウェブにおける同じニュースについての見出しをチェックしてみたが、どれも間違いとまではいかないものの、なんとなく腑に落ちない感が漂ってしまっている。

 実際、こうした表現も含めた先日のニュースによって「2025年頃にはトヨタのラインナップから純粋なエンジン車が消える」と思った人は相当数いるはずだ。

 そこでまず解説しておきたいのは「エンジン車のみの車種はゼロとなる」という表現。これは一体どういうことなのか?リリースを正確に転載するとこう記されている。

2025年頃までに、HV・PHV・EV・FCVといった電動専用車およびHV・PHV・EVなどの電動グレード設定車の拡大により、グローバルで販売する全車種を、電動専用車もしくは電動グレード設定車とする。これにより、エンジン車のみの車種はゼロとなる。

 つまり、多くのメディアはこの一文の最後に注目したわけだ。確かに最後の「エンジン車のみの車種はゼロとなる」はセンセーショナルである。しかし、重要なのは”2025年頃までに〜全車種を、電動専用車もしくは電動グレード設定車とする”というところ。

 

 で、1つの車種単位で見たときに、それが電動専用車になるか、または電動のグレードが設定されることで、エンジン車のみの車種ではない、と見なすわけだ。つまり1つの車種の中に、エンジンだけを搭載するグレードが存在しても、その車種の中にハイブリッドやプラグインハイブリッドを搭載するグレードがあれば、”エンジン車のみの車種”には該当しない、ということになる。

 もっと分かりやすくするために実際のクルマで見てみよう。例えばトヨタにはヴィッツというコンパクトカーがあり、このモデルは1.0Lガソリン・エンジン/1.3Lガソリン・エンジン/1.5Lガソリン・エンジン/1.5Lガソリン・エンジン+モーターのハイブリッドと、実に4種類のパワーユニットが用意される。そしてハイブリッドが用意されているため、ヴィッツは既に現時点で、エンジン車のみの車種ではない、ということになるわけだ。

 ということで、「2025年頃になるとトヨタの全車種では最低でも1グレードは電動グレードが設定される」というのが正しい見方だろう。言い方を変えれば、「2025年になってもトヨタの車種の中には純粋にエンジンだけを搭載したグレードも存在する」ということになる。もっともそれ自体も少なくなってはいくだろうが、ゼロになることはないだろう。

 では参考までに現在のトヨタのラインナップにおいて、どれだけ「エンジン車のみの車種」があるのかを見てみよう。トヨタのウェブサイトのラインナップのページ(https://toyota.jp/carlineup/)に進むと、乗用車の該当車種は53あると表示されており、ここからスポーツブランドのGRの車種を抜くと全43車種となる。そして各車種が並んでいるわけだが、クルマの写真の下に「ガソリン」「ガソリン/ハイブリッド」「ハイブリッド」などと記されている(ハイラックスのみディーゼルと記される)。つまりその車種にどんなパワーユニットが用意されているかが記されているわけだ。そこで43車種中で、「ガソリン」(とハイラックスのディーゼル)とのみ記されている車種をカウントしてみる。つまり、これが「エンジン車のみの車種」ということだ。

 実際に見ていくと、スペイド/タンク/パッソ/ポルテ/ルーミー/エスティマ/ハイエースワゴン/アリオン/プレミオ/マークX/アヴェンシス/FJクルーザー/ハイラックス/ランドクルーザー/86の15車種。15/43車種で、現時点で「エンジン車のみの車種」は全体の約35%ということになる。逆の見方をすれば、電動専用車もしくは電動グレード設定車に対応している車種は全体の約65%を占めている、ということである。

 ということは、今後約10年くらいの間に、残り約35%の車種に1つでも電動グレードが設定されれば良いということになる。もちろんこれと並行して、トヨタは今後ラインナップを整理もしていくだろうから、早い段階で「エンジン車のみの車種はゼロとなる」ということだろう。

 ニュースの見出しを見て、おそらく多くの人が、2025年頃にはエンジンだけしか搭載していないトヨタのクルマは消滅する、と勘違いしただろうが、それは間違い。むしろエンジン搭載車は残るし、トヨタ自体もエンジンが消滅するともいっていない。もちろん電動化対応は今後を見据えた時には必要なことであるが、まだまだ時間はかかる。つまりこの発表を違う方向から見れば、2025年頃にも我々にはいわゆる内燃機関から燃料電池車、さらに先進的な電池車まで、様々な選択肢が用意されている、ということでもある。

 どうかニュースの見出しを見て、ついにトヨタも電動化に踏み切った、とだけは勘違いしないでほしい。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

河口まなぶの最近の記事