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【パンに味はついたか?】トヨタ・カムリ 76/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

【成り立ち】

 トヨタ・カムリはアメリカ市場で年間約70万台を販売する大ヒットモデル。現地では「ホワイトブレッド(=食パン)」や「バニラアイス」と表現されるような存在で、つまりは生活にかかせないもの、的な意味合いを持っているという。ただ、それもあって「消去法で選ばれるクルマ」でもあり、その点を新型では意識して「積極的に選ばれるクルマ」とすることを狙ったのが今回だという。

 メカニズムに関しては、プリウスやC-HRで用いた新たな新世代プラットフォームを軸とする新たなクルマ作りの取り組みであるTNGA

(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)を使った第3弾ということになる。2.5Lの直列4気筒エンジンにモーターを組み合わせたトヨタのハイブリッドシステムであるTHS-IIを搭載している。 

【デザイン:75/100点】好き嫌いがハッキリ別れるのが最近のトヨタ流

 TNGAの第1弾モデルであるプリウス、第2弾モデルであるC-HR、そして第3弾モデルである今回の新型カムリとデザインを見てくると、TNGAのシリーズは間違いなく「好き嫌いがハッキリと別れるデザイン」を実践していることは間違いない。加えてカムリの場合は、最大の市場であるアメリカを強く意識していることも間違いなく、実際に写真や動画を見ると極めてダイナミックな顔つきを与えることで存在感を出しているとわかる。一方インテリアは、エクステリアほどアグレッシブではなく、ある程度の落ち着きと高いクオリティがバランスしている印象…むしろ保守的な感覚で、プリウスで見せたような未来感は薄い。

【走り:75/100点】平均点が高いだけに、細かな部分が気になる

 TNGA第3弾のカムリはパワーユニットとして2.5Lの直列4気筒エンジンにモーターを組み合わせたトヨタのハイブリッドシステムTHS-IIを搭載。実際に走らせた印象としては、ハイブリッド特有のアクセルを踏むと回転だけが上昇して加速が後から付いてくるような違和感=ゴムバンドフィールがこれまで以上に解消されたことが分かる。とはいえ通常のATやDCTに比べると、まだゴムバドフィールは残っているわけだが。走り出しはEVモードで静かに滑らかに力強く、巡行でもアクセルを踏むとすぐに大きな力を手に入れることができるため扱いやすい。もちろんパワーユニットそのものに快感はないが、思い通りに動かせる感覚をしっかりと持ちながらも、優れた燃費を実現するのが本質。最も燃費の良いモデルでは、ミドルクラスサイズのサルーンながらリッター33.4kmを実現。今回試乗したGおよびGレザーパッケージでも、28.4kmを実現するのだからこれ以上に強い説得力はない。

 走り出すと静粛性の高さが印象的。上品な静けさが漂う室内空間が構築されている。さらに乗り心地に関しては、17インチタイヤ装着車と18インチ装着車では17インチが良好。18インチは全般的にややタイヤとホイルの重さからくるような振動を感じる。もっとも低速では17インチ/18インチともにそれぞれレベルは異なるものの振動が気になるが、速度が高くなってくると心地よさが顔を出してくるといえる。

 また走りに関してはやはり楽しさ気持ち良さのようなものは感じないが、移動のための道具としては高い快適性を提供してくれる点で高評価できる。ステアリング・フィールは走り出しでやや重めに感じる。この重さをシブいと感じるかしっかりしていると感じるかは意見の別れるところ。筆者はシブいと感じた。

【装備:80/100点】安全運転支援システム、トヨタセーフティセンスPを採用

 今回試乗したGおよびGレザーパッケージは、現代のクルマが備えるべきものを全て備えている。安全運転支援システムに関しても、トヨタセーフティセンスPを採用しており、自動ブレーキを始め全車速域対応のACC(アダプティブクルーズコントロール)、駐車場等で後退時に自車後ろを横切るクルマ等に対してブレーキをかけてくれるリヤクロストラフィックオートブレーキ機能なども備わっている。

 

【使い勝手:80/100点】使い勝手は○

 ボディサイズは全長4885mm、全幅は1840mmと大柄だが、試乗した際に扱いづらい感覚は全くなかった。むしろこのサイズながらも取り回しやすい印象だったが、試乗時には4m道路等は走っていないので断定はできないが、路地での右左折等ではやや大きさが気になるかもしれない。またトランクはハイブリッドながらも広大なスペースが確保されており、ゴルフバックは4つを積み込むことができる容量の大きさを誇っている。

【価格:70/100点】Gで400万円以内、Gレザーパッケージは420万円以上

 今回試乗したGは349万9200円で、このままなら諸費用込みで400万円以下となるが、TコネクトSDナビや、リアクロストラフィックアラートを装着すると車両価格が398万円前後となって、諸費用込みで400万円を超える。そう考えるとさらに装備が充実しているGレザーパッケージが視野に入ってくる。こちらは419万5800円だが、TコネクトSDナビ等は標準装備となるため、諸費用込みで430万円台と450万円内に収まる。とはいえ、どちらにしても現実的に400万円を超えるので、決して安いとはいえない。さらにイマドキはセダンの復権よりも他のボディタイプに魅力的な選択肢があると考えると…上級とはいえシンプルなセダンでこの価格は高く感じてしまうだろう。

 

【まとめ:76/100点】

 動画でも述べているように、実際に乗ってみると嫌味の少ないスッキリとした印象の1台。パワートレーンは力強く滑らかで、なおかつ燃費が良く、室内の静粛性も高く、ハンドリングも以前よりスポーティな運動性能を実現し、言うことなしの仕上がりを見せてくれる。が、それはやはり平均点の高い1台という感じであり、「この部分に心突き動かされた!」と感じるものは残念ながら少なかった。ゆえに筆者としては、さすがアメリカで70万台も売れるだけの実力を備えた1台と評価できるものの、積極的に選べるポイントがもっと欲しいなと思えたのも本音。毎日食べる食パンから脱却するために、デザインに力を入れたり走りの良さを磨いて魅力を増したものの、やはり様々な具を挟んで食べるサンドイッチにまではさすがに昇華しなかった。とはいえ、単なる食パンではなく、匠の技や素材の良さで勝負できるプレミアムで芳醇な食パンへと進化していることは間違いない。 

※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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