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【Eクラス危うし!?】BMW5シリーズ  92/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

【成り立ち】7年ぶりのフルモデルチェンジを果たした第7世代目のモデル

BMWが送り出した5シリーズは、同社の基幹車種となるアッパーミドルクラスに属すモデルである。全世界で今までに約800万台が販売された実績を持つこのモデルは、約7年ぶりのフルモデル・チェンジを行ない第7世代目となった。今回のモデルチェンジでは、部分自動運転を可能とした運転支援システムを採用した他、先代モデルと比べて約80kgの軽量化を実現したことで、さらに走りを進化させている。

5シリーズのパワーソースは全部で5種類。2.0Lの直列4気筒ターボ・エンジンを搭載する523iに始まって、同じエンジンながら出力を高めたチューンを施した530i、3.0Lの直列6気筒ターボを搭載した540i、さらに2.0Lの直列4気筒ディーゼルを搭載した523d、そして2.0L直列4気筒エンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドである530eというラインナップとなる。

そしてそれぞれのモデルに標準車、Luxury、Msportのグレードが存在し、さらに540iにはxDriveと呼ばれるトルク可変配分を可能とするインテリジェント4WDモデルが用意されている。

また部分自動運転を可能とした運転支援システムの分野では、メルセデス・ベンツに水をあけられていたが、今回採用された「ドライビング・アシスト・プラス」はメルセデス・ベンツEクラスのそれとほぼ同等となったといえる。

【デザイン:90/100点】先代からの変化幅が少ない?

デザイナー、クリス・バングルによって自動車デザインの一時代を築いたBMWだが、ドイツ・ブランドの例に漏れず、その後のデザインの変化幅は少ない印象を受けるのが実際のところで、今回の新型5シリーズに関してもデザインの新鮮味には欠ける。さらに現段階では同じようにアウディがキープコンセプトを貫いており、メルセデス・ベンツが逆にこれまでの路線から大幅な変更を行なったばかりとあって、余計にキープコンセプト感が漂う。

とはいえ、デザインの統一性を感じさせる力はとても大きく、先に登場した新型7シリーズで展開した要素を確実に盛り込んできており、ミニ7シリーズさながらの存在感を発揮している。エクステリアはそれが顕著で、ヘッドライトをはじめとするフロントマスクや、フロントフェンダーに与えたメッキのパーツ等、7シリーズにかなり寄せてきている印象だ。

一方でインテリアに関しても新型7シリーズはもちろん、これまでのBMWのインテリア・デザインテイストを確実に受け継いでいる感覚で、この点に関してはエクステリア以上に新鮮味に欠けるかもしれない。もちろん、内外装ともに少しずつは新たなデザインに変わっているし、ディテールも異なっているのだが、イメージとしては先代から不変に感じてしまうのだ。

しかしながら、内外装の品質感や、それらを含めたデザインのクオリティは極めて高いといえる。この辺りはやはり実力の高さを物語るところだろう。端的に言って”良いもの感”が存分に漂っているのは間違いない。

【走り:95/100点】さすが、の走り。加えて今まで以上にラグジュアリーな面も

走りの印象はセダン/ツーリングともに試乗動画を参照していただきたいが、新型5シリーズで特筆すべきは乗り心地の良さだろう。これまでの5シリーズももちろん乗り心地は良かったが、ドイツ・ブランド、そしてスポーティな走りを標榜するブランドだけに、基本的にサスペンションをしっかりと踏ん張らせてフラットな姿勢を維持し、操作に対して気持ち良く反応するハンドリングを実現していた。それだけに乗り心地が良いとはいっても、乗った時のフィーリングとしてはカチッとした硬質な感覚があり、容易なことでは破綻しないような剛性を感じるものだった。それだけに、ライバルであるメルセデス・ベンツの方がソフトな感覚の乗り心地であり、しなやかさはあちらが得意とするところ…という違いがあった。

しかし今回の5シリーズはセダンに乗った時もそうだったし、今回のツーリングでも感じたのだが、これまでにないしなやかさを手にいれて「たおやか」と言えるような懐の深さを手にいれた。基本的にはこれまでのBMWらしい硬質で剛性を感じる乗り味ながらも、操作に対してサスペンションが動き出すと、メルセデス・ベンツEクラスをも凌ぐしなやかな感覚が生まれる。

また一方で、ひと足先に新型となったメルセデス・ベンツEクラスは、逆に以前よりもスポーティな感覚が増した乗り味を手にいれている。それだけに乗り比べると、Eクラスの方がスポーティな感覚…と感じる人もいるかもしれない。ただこの辺りは賛否が別れるところでもある。例えば523dのセダンやツーリングに乗ると、これまでにない「たおやか」な感覚を受けるわけだが、これをして「まったりしている」ともいえるし、「おやじっぽい」と感じる人もいるかもしれない。ちなみに今回試乗した523dツーリングでは、フロントがメカニカル、リアがエアサスペンションというワゴンならではの組み合わせ(ワゴンモデルはリアに荷物を積んだ時に車高を確保するセルフレベリング機構を備えるためエアサスになることがある。Eワゴンも同様)となるため、フロント/リアともにメカニカルサスのセダンから比べると、よりしなやかな傾向となる。

一方で上級モデルに装着される可変ダンパーを採用したモデルでは、ここまでで表現した「たおやかさ」と同時にスポーティがさらに高次元で両立された感覚を持っている。可変ダンパーを備えたサスペンションは、ノーマル以上に動きがしなやかで、路面からの衝撃や入力をスッと受け止めて何事もなかったかのような印象を与えてくれる。同時に、インチが大きくなったタイヤながらも路面へ吸い付くような感じを生み出すほど、しっかりと路面を捉えて離さない感覚もある。そしてこれによって実に気持ちよいハンドリングを生み出している。カーブに向かってハンドルを切ると、サスペンションがしなやかに動きつつもスッと路面へとタイヤを押し付けて、クルマ全体が路面へ吸い付くような安心感を生みながら曲がっていくのだ。その様はまさにクラスを超えたラグジュアリーさとスポーツ性を両立したといえるものである。

そしてここに花を添えてくれるのがBMWならではのエンジンの気持ち良さだ。今回523dと540iを試乗したが、まず523dに搭載される2.0Lの直列4気筒ディーゼルは、ディーゼルながらも回転が滑らかで吹け上がりもキレイで気持ちよい。この辺りはライバルのメルセデス・ベンツEクラスの2.0Lディーゼルとは異なる部分。街中ではわずかなアクセル開度で十分以上にパワフルさを実感できるため、とても扱いやすいのも特徴だ。セダンの場合、最も燃費の良い523dはJC08モードで21.5km/Lと、メルセデス・ベンツE220dの21.0km/Lを上回る。ただし、ワゴンモデルのツーリングではJC08モード燃費値は19.6km/Lと、Eクラスの20.0km/Lにわずかに劣る。とはいえ、ディーゼルとは思えない気持ち良さは、それをしてあまりある魅力といえるだろう。

そして「まさにBMW」といえるのが、540iに搭載される3.0Lの直列6気筒ターボエンジンだろう。BMW伝統のストレート6(=直列6気筒)も時代とともにターボが組み合わせられるようになったが、それでも回転系が”完全バランス”といわれる直列6気筒らしい、エンジンの気持ちよさを存分に堪能できるのが特徴だ。その回転の滑らかさと精緻さは、まさにギュっと身が詰まった感じのイメージで、どこを取っても気持ち良さ満載、という感覚に溢れている。乗りやすさはもちろん素晴らしく、ひと踏みすれば快感が溢れる…といった感じだ。動画でも、そのサウンドの美しさが感じられるはずだ。

こんな具合でセダン、ワゴン、ディーゼル、ガソリンともに、走りはとても気持ちよいフィーリングが味わえる辺り、まさにBMWならではといえる。この手のアッパーミドルクラスのクルマの場合は、ともすればラグジュアリーで便利で…という点のみが強調されがちだが、そうした中にあってもしっかりとドライバーズカーであることを感じさせる辺りは個性が光っているといえるだろう。

そしてその走りのレベルに関しては、ワゴンモデルであるツーリングの動画の中でもいっているが、「メルセデス・ベンツEクラスとともに、世界頂上決戦ともいうべき」レベルにあるもので、自動車の走りにおいて世界中の自動車メーカーが参考にするほどのもの。その意味でも非常にレベルの高い仕上がりになっていることは間違いない。

【装備:95/100点】現在考えられうるベストな運転支援が盛り込まれている

今回の5シリーズで注目すべきは、部分自動運転といえるレベルで介入する運転支援システムである「ドライビング・アシスト・プラス」を手に入れた点だろう。ルーム・ミラー内に備わる2つのステレオ・カメラと、前方に3基、後方に2基備わるミリ波レーダーによって、全車速域追従可能なアダプティブクルーズコントロールに加えて、ステアリング操作もアシストすることで車線の中央を維持し、先行車を追従する機能を備えた。他にも側面衝突が迫った際にはハンドルを切って回避する機能や、駐車場で動く時に前や後ろを交差するクルマがきた時に自動停止する機能を備えるなど、現在考えられうるベストな運転支援が盛り込まれた。ただしライバルであるメルセデス・ベンツEクラスに備わる、高速走行時にウインカー操作をすると後続車の有無を確認し、後続車がなければ自動的に車線変更をする機能は採用されていない。とはいえ、普段使ってみると、非常に楽で安心できる装備になっている。そして一度この運転支援システムを使ってしまうと、もはやこうした装備がないクルマを運転することが不安と思えるくらい、自然に、かつ滑らかな制御で違和感のない支援を行なってくれる。また液晶画面を備えたスマートキーでは、様々な操作を可能としている点も特徴のひとつ。このキーによって駐車中の車両のエアコン操作を行なってベンチレーションしたり、駐車場内では車外から前後に動かすリモート操作も可能としている。

【使い勝手:95/100点】ツーリングのリアハッチが秀逸

セダン/ツーリングともに決して小さくないモデルありながらも、使い勝手は抜群といえるだろう。特にワゴンモデルのツーリングの場合は、リアのガラス部分が独立して開くのが便利。これに合わせてトノカバーも上に自動で跳ね上がるので、ちょっとした荷物を荷室に入れる際に、わざわざハッチを開かなくて良いところは秀逸だ。

その他、先に記した液晶パネルを備えたスマートキーによって、車外からも様々な操作が可能となっている他、コネクティビティに関してもBMWコネクテッドドライブと呼ばれるサービスで、しっかりとウェブとつながっている。また車内のナビゲーション表示する画面はタッチパネル式を採用した点もライバルに差をつける部分。また7シリーズから受け継ぐオーディオ等を指先の動きでコントロール可能なジェスチャーコントロールなど、直感的に操作できる点もポイントだろう。

また車両周辺を3D化して画面に表示する3Dビュー機能や、カラー化されたヘッドアップディスプレイなど、あると嬉しい装備がふんだんに採用されており、様々に使うことができる。

【価格:85/100点】

価格は最も安いセダンの523i(ガソリンモデル)が617万円からで、ディーゼルの523dは713万円から。そして540iは991万円からとなる。なおツーリングの場合、540iはxDriveモデルのみのラインナップとなっている。それぞれにLuxuryとMsportが用意されており装備が異なってくる。購入する場合は多くの人が、LuxuryかMsportを選ぶ傾向にあるようだ。その場合、もっとも安価な523iのLuxuryが763万円から。一方の523iのMsportは761万円からとなる。

ライバルであるメルセデス・ベンツは最も安価なセダンのE200(ガソリンモデル)が675万円からとなり、ディーゼルのE220dは698万円からとなるため、ガソリンでは523iがリーズナブルだが、ディーゼルではE220dがリーズナブルとなる。

中心は700万円台のモデルだけに、当然安くはないのだが、その性能と内容を考えるとむしろ価格以上のものは実現されていると判断できる。

【まとめ:92/100点】文句ナシの1台。強いて言うなら新鮮味か。

セダン/ツーリングともに試乗してみて、まさに文句ナシの1台と記して良いモデルだと感じた。必要なものは当然のように全て揃っている上に、クルマとしての走る・曲がる・止まるは世界の頂点に位置するレベルをメルセデス・ベンツEクラスと分け合っている。またパワーソースの豊富さによる多様性にも対応している他、コネクティビティや車内のアメニティ、そして安全装備など、まさに隙のない仕上がりを持った1台といえる。

それだけに、まさに文句ナシなのだが、強いて言うならデザイン面で記した新鮮味が薄いところだろう。特にこの手のモデルの場合、いわゆるドイツ勢のベーシックなセダン/ワゴンとは一味違った、イギリスやイタリア、その他のスポーティなモデルやクーペフォルムを備えた同格モデル等も出てきているので、地味といえば地味な部類に属すともいえる。とはいえ、それと引き換えに使い勝手の良さや匿名性、そして奇を衒わないからこその落ち着きがあるともいえるのだが。

派手さや面白みという意味では他に譲るが、やはり王道の中の王道モデル、といった感じである。そしてこの点で、メルセデス・ベンツEクラスと人気を二分しているのである。 

※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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