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ポルシェもついに、スバルと同様に水平対向4気筒エンジンを採用。その実力は?

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

ポルシェの主力スポーツモデルといえる718ボクスターと718ケイマンは、これまでの水平対向6気筒エンジンから今回、水平対向4気筒ターボ・エンジンへとスイッチした。

その理由はやはり、年々厳しくなる燃費に対応するため。ターボ・エンジンを採用することで、小さな排気量かつ気筒数が少なくても、かつての6気筒エンジンと同等以上のパワー&トルクを実現できる。また、ターボによって低回転から最大トルクが発生する特性を得ることで、燃費の向上も達成できる。特にアメリカでの企業平均燃費規制等を考えれば、今後は燃費向上はマスト…そうした事情も含めてポルシェはボクスターとケイマンでは、水平対向4気筒ターボ・エンジンの搭載を決めたわけだ。

もっともその上位にある名車911は、変わらず水平対向6気筒エンジンを採用する。しかしこちらも排気量を3.0Lと従来よりも小さくすると同時に、ツインターボ化された。そしてこれによってボクスターやケイマンと同様に、排気量を小さくしながらも以前よりもハイパワーかつ優れた燃費を実現している。ポルシェはこれらをして「ライトサイジング・ターボ」と呼んでいる。

ところで水平対向4気筒エンジンといえば、日本では昔からスバルが採用している形式のエンジンでもある。では、昔から水平対向4気筒を手がけるスバルのエンジンと比べて、ポルシェの水平対向4気筒エンジンはどうか?

端的にいって、スペックも含めてスバルと比べても全く遜色ないものになっているのだが、その味わいい関しては、実はポルシェのこの新エンジン、本家スバルのエンジンよりもスバルっぽかったりする。

どういうことかというと、かつてのスバルのエンジンを彷彿とさせるサウンドを聴かせてくれるのだ。

スバルのクルマはかつて、水平対向4気筒エンジンを搭載するモデルでは独特のサウンドが個性となっていた。低い音でドロドロという脈動を響かせるそれは、「ボクサーサウンド」と呼ばれたものだ。しかしスバルは近年、エンジンから排気ガスを出す管(=エグゾーストマニホールド)を全て同じ長さにすること(等長)で排気効率を向上させ、これと同時にサウンドも以前よりも大人しいものとなった。これをして昔からのスバルファンが悲しんだこともあったのだった。

しかしポルシェが今回採用した水平対向4気筒ターボは、エグゾーストマニホールドが不等長であるがゆえに、ドロドロという脈動を響かせるのだ。それをして昔からのポルシェファンは、水平対向6気筒の時の滑らかで気持ちよく響くサウンドがなくなったことを嘆く人もいる。が、同時に以前よりも確実にパンチのある、やんちゃで元気の良いフィーリングを実現しており、これはこれで新しい魅力になっている。

もちろんスペック的には十分以上を実現しており、さすがこの辺りはポルシェだなと思える部分である。上位モデルのSに搭載される2.5Lは最高出力350ps、最大トルク420Nmを発生している。また2.0Lは最高出力300ps、最大トルク380Nmを発生する。

これに対してスバルのスポーツ・モデルであるWRXSTIは、2.0Lの水平対向4気筒ターボで最高出力308ps、最大トルク422Nmとポルシェの4気筒を上回る性能が与えられている。

このようにして両社ともにハイスペックだが、それらを搭載したクルマのキャラクターは当然全く異なる。WRXSTIはスバルの中では尖ったスポーツモデルであり、かつてはラリーカーのベースになっていた。対するボクスターやケイマンはそもそもがスポーツカーであるが、2.0Lエンジンを搭載するモデルは、スポーツカーではあるもののWRXSTIほど尖っているわけではなく穏やかな部分も垣間見せてくれる。

だから誤解を恐れずに言い切ってしまえば、WRXSTIの2.0L水平対向4気筒ターボはあくまでスポーツ性能を主に考えている上に、駆動方式もAWDとなるため、燃費に関してはリッター9.6kmとあまり良いものではない。一方ポルシェの2.0L水平対向4気筒ターボはどちらかといえば日常性をも考慮している上に、後2輪を駆動する方式でもあることも相まって、欧州での燃費値はリッター14kmとなっている。4ドアスポーツセダンのWRXSTIと2ドアスポーツクーペ/オープンのケイマン/ボクスターだけに、そもそも車種が違うのだが、エンジンおよびクルマのキャラは意外にもスポーツカーであるポルシェ718ボクスター&ケイマンの方が穏やかなのだ。

もっとも、スバルには他にも新世代の2.0L水平対向4気筒エンジンが用意されており、例えばWRXSTIよりも一般性を考えたWRX・S4というスポーツセダン(トランスミッションはCVT)に搭載される新世代のターボは最高出力300ps、最大トルク400Nmと、ポルシェの2.0Lを最大トルク値でわずかに上回る性能を実現すると同時に、AWDでありながら燃費性能もリッター13.2kmと、その性能や駆動方式からすれば優れた数字を実現している。そしてもちろんスバルにはこの他にも1.6~2.5Lまでの自然吸気式の水平対向エンジンなど、多数が揃っている。

これまで長らく水平対向6気筒を用いてきて、今回水平対向4気筒を使っても、すぐに高いレベルへと到達させるあたりは「さすがポルシェ」といえる高い実力を感じる。

もっとも、単にすごい! と思えるだけでなく、その味わいがスバルよりもスバルっぽい感じがするのは純粋に面白いなと思えたのだった。そしてポルシェも水平対向4気筒を使うと、こういう音になるんだと思うと、いちクルマ好きとしてなんだか嬉しくなるのだった。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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