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世界一美しいルーフ開閉機構を持つオープンカー、マツダ・ロードスターRF【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

先日発表されたマツダ・ロードスターRF。世界的な名車であり、世界で最も売れたオープンカーとしてギネスブックにも認められているこのモデルに、新たに加わった「RF」は世界一美しいルーフ開閉機構が話題だ。

マツダ・ロードスターはもともと、幌=ソフトトップを採用したオープンカーとして、2代に渡って生産されてきた。しかし、そんなロードスターに、幌ではなくハードな樹脂素材のトップを備えるモデルが追加されたのが3代目に当たる先代モデルだった。このモデルはRHT(リトラクタブル・ハード・トップ)と名付けられたことからもわかるように、世界的なトレンドとなったハードな開閉式トップを備えたモデルとして加えられ、ソフトトップが本分だったロードスターでも、販売の多数を占める存在になった。特に日本ではその傾向が顕著で、理由は耐候性や防犯性の高さにあった(ソフトトップはイタズラで切られたりする)。

そんな3代目のあとをうけて、昨年登場した4代目のマツダ・ロードスターは、原点回帰をしたことで、自動車の歴史の中でみても稀有な、モデルチェンジしたのに歴代で最も小さなモデル(正確には最も全長が短いモデル)となったのだった。

ただ、それだけに今回追加されたハードな素材のルーフを備えるRFの開発は困難を極めた。なぜなら先代のRHTで畳んだルーフを収納する場所は、今回の新型では確実にその容積が減っていたからだ。

ハード素材のルーフを分割して限られた場所に収納する…というのは極めて困難なオーダーだが、そこをクリアするのが日本の自動車産業であり、カラクリを生んだ国の技でもある。

かくしてマツダ・ロードスターRFは、先代よりも全長が短くなったにもかかわらず、きちんと旅行用トロリーを2つ積載可能なトランクを確保した上で、オープン機構を実現した1台となったのだった。

では、どんなソリューションを用いたのか? 実車を見ていただければわかる通り、ロードスターRFは「その手があったか!」といえるルーフ後半のピラー(柱)を残したオープンをデザインしたのだ。これについては、エンジニアが直接解説している動画をご覧になっていただければと思う。

こうした構造は歴史的に他車にも多く採用されている。そうした中で最も有名なのは、ポルシェがその方式を固有名詞としている「タルガ」である。これはドライバーの頭上だけをオープンとして、後半部分の柱やリアガラスを残したボディ形状を差す。国産では、日産フェアレディZやトヨタMR2が採用したTバールーフというのも似て非なるものとして存在している。初代ホンダNSXには、こうしたトップを備えたタイプTというモデルもあった。

ただしロードスターRFがオリジナルなのは、それをフル電動で実現(これは現行のポルシェ911タルガも同じ)したのに加えて、オープン時にリアのウインドーを収納して開放していることである。

これによって、ピラーが残る形状ながらも開放感の高いオープンモデルが出来上がった。そんなモデルを実際に走らせた印象を語っているのが、この動画だ。

しかし何よりも重要なのは、ロードスターというオープンモデルの派生としてのハードトップオープンながらも、確実に見た人の印象に残るような、新たな姿をバリエーションとして加えたことだろう。

マツダ・ロードスターは、その存在そのものが既にレジェンドといえる車である。そうしたクルマながらも、4代目にして新たな価値観を生み出すようなこのモデルを送り出したことは、奇跡的なことだともいえる。

ロードスターRFは、後ろ姿をみるとなぜかどこか懐かしい。新しいオープンの形として送り出されたのに、40代、50代のクルマ好きにもの思わせる“何か”を確実に有したデザインとなっている。

しかしマツダ・ロードスターは、既に世界的な名声を得てきたオープンカー。そうしたモデルながら今回、こうしたモデルを追加できたのはなぜか?

今回の4代目ロードスターを送り出した時にはデザイナーをつとめ、その後ロードスターの主査を務めることとなった中山雅主査はこんな風に明かしてくれた。

「当然ながら、これまでの開発で実に様々な案があって、いろいろと検討をしてきました。旅行用のトロリーが2つ入る実用的なトランクスペースをしっかりと確保しつつ、キレイに収納する方法を工夫して、先代のようなフルオープンになるタイプも考え、いくつかの方式は1/5の可動モデルを作って検討も行ないました。しかしそうした中で、今回採用されたピラーを残した案が誕生したのです」

しかしこれを会議でプレゼンしても絶対に企画は通らないと中山氏をはじめとしたスタッフたちは分かっていたため、ある技を使った。その技とは、実際にものを作って見せてしまうという強引なものだった。

「例えばこのスタイリングを絵で見せても、開放感はあるのか? と言われて不採用になりますし、説得力に欠けるわけです。そこで、スタイリングの美しさ、意外な開放感の高さ、そしてメカの作動の美しさを3拍子で用意して、一気に全ての疑問に答えるようなプレゼンを行って企画を通したのです」

そうして今、我々の目の前にロードスターRFはたたずんでいる。

今回は様々な動画とともに、このロードスターRFをお伝えしているので動画をみつつ、このレポートを読んでいただければ幸いだ。

2016年も終わりを告げようとしている現在、自動車の話題はかなりハイテクとなり、自動運転やコネクティビティ、そして新たなエネルギーやパワートレーンに注目が集まっている。

しかし、そうした中で、いわゆる自動車らしい自動車の魅力を伝えようとするマツダ・ロードスターRFもまた、とても愛おしい存在だと思えるのも本音である。

こうしてロードスターには、また新たな流れが生まれたのである。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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