Yahoo!ニュース

ホンダらしさとは、”優れた生活の道具”である?

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

ここ最近のホンダのプロダクトから感じることは、やはり生活の道具としてのクルマ作りが改めて上手だなと思うこと。

特に最近試乗会が開催された新型ステップワゴンには、とても感心させられた。その使い勝手の良さは、まさにホンダのお家芸といったところだろう。

新型ステップワゴンは、「ワクワク・ゲート」と呼ぶリア・ゲートを採用している。これは1つのゲートで開閉が2通りあるもので、通常のハッチゲートのように下から開けて上へとゲートが跳ね上がる方式のほかに、左半分のドアが通常の扉のように横開きになる。

例えば大きな荷物を積載するときはゲートを跳ね上げて使うが、車両後方のスペースがない場合や、小さなものの出し入れ、あるいは自転車の出し入れや人の出入りにまで使えてしまう(詳細は動画を参照のこと)。

【良品】ホンダ新型ステップワゴンに乗った!

加えてシートアレンジが絶妙だ。3列目シートは車内・車外のどちらからでも、ワンタッチで床面に収納できる。さらに2列目のシートも座面を跳ね上げて、前方へ押し出し簡単に固定できる。そこには、荷物を積むことを様々な視点から考えたからこその簡単操作が実現されている。このユーザーインターフェイスの優秀性はまさにホンダならではのものだと思える。

もちろん走りに関しても好印象。ステップワゴンのような大きな箱物ミニバンの場合、室内空間が大きいがゆえに騒音や振動を低減するのが不利で、優れた乗り心地を確保するのも厳しい。しかし新型はその辺りを完全に払拭している。

乗り心地は滑らかで静粛性も高い。まるで1クラス上のクルマになった印象さえ感じるほどだ。

さらに先日試乗会が開催された新型シャトルも、フィット・ベースとしながらそれよりは少しだけ上級のモデルとして魅力的な内容だった。

上級車に採用される振幅感応ダンパーを採用したことで優れた乗り心地を実現するほか、フロントガラスはガラスとガラスの間に樹脂フィルムを挟み込むことで静粛性を高めるなどしており、フィットより上質な感覚を生み出している。

もっとも上質とはいえ基本は実用命。走りが楽しい気持ち良いといった類ではないが、その分後席はワンタッチで背もたれを倒すことができ、一瞬で広大かつフラットな荷室を作り上げることができる。

売れ筋は装備が揃ったハイブリッドXというグレードで219万円。諸費用込みで250万円以下に収まりそうなリーズナブルな価格も実現しており、生活の道具として売れる要素が満載だ。

【超実用】ホンダ新型シャトルを試しました。

こうして最近のホンダの2台は、なるほど生活の道具として考え抜かれたクルマだと感じるが、一方で「?」と思えるのが、新型ジェイド。こちらは背の低い3列シートのミニバンとして登場したが、まずハイブリッドのみで展開された。実際に試乗会で試してみると、ステップワゴンやシャトルと同じメーカーのものとは思えないほど、シートのアレンジがし難かった。ワンタッチで簡単収納、という感じではない辺りに疑問が生まれた。

また最近になってジェイドにはRSと呼ばれるグレードが追加された。これはハイブリッドではなく、ステップワゴンと同じ1.5Lのターボエンジンを搭載したモデル。だが、ステップワゴンが228万8000円からという価格設定、シャトルのハイブリッドが199万円からという価格設定なのに対して、ジェイドRSは253万円から。ジェイド・ハイブリッドは272万円からと割高感が否めない。

車格や装備の違い、といった部分もあるし、スタイリッシュなデザイン等の魅力がジェイドの価値、といえばそうなのだが、やはり実用面での使い勝手の良さと、スペック、価格等を見ていくとより多くが選ぶのはステップワゴンでありシャトルだろうと感じる。

というよりもジェイドには、生活の道具としての使い勝手を考えなくとも余りある魅力がある…とは言い難いのが実際だ。

こうしたラインナップのチグハグさに、未だ混乱を極めているホンダの事情を感じずにはいられないところ。とはいえ、ステップワゴンやシャトルを見ていると、“売れるホンダ”の生きる道はやはりこちらなのだろうな、と思えるのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

河口まなぶの最近の記事