3年目のいわきFC(3)復興から始まった物語の行方――。

パークに掲げられている写真。過去と未来が写し出されている。(著者撮影・本文中も)

22戦22勝199得点

 3年目のシーズンも大勝が続いている。

 開幕戦(9対0)の翌週に行われた東北リーグ2部の2戦目は4対0、並行して行われている天皇杯福島大会の準決勝も7対1(本当は、その前に準々決勝も予定されていたのだが、相手チームの棄権で不戦勝)。

 1年目、2年目がそうであったように、今シーズンも大量得点による大勝が続いていくことになりそうだ。

 ちなみに所属リーグでの通算戦績は(今年の2試合も加えて)22勝0敗。試しに電卓を叩いてみたら、奪った得点はなんと199点だった。失点はわずかに2点。

 本来、切磋琢磨する舞台であるはずの公式戦が、圧勝の連続であることはチームの強化を考えればいい環境とは言えない。田村監督は「相手に5本以上パスをつながせない」といった(勝敗とは別の)タスクを設定してゲームに臨んでいるようだが、それでもレベル差のあるゲームで選手の成長を促すのは容易ではないだろう。

 その意味では、3年目の今シーズンも、Jクラブをはじめとした上位カテゴリーとのトレーニングマッチがいわきFCの“主戦場”といえるのかもしれない。

 もちろんカテゴリーを上げていけば自然に解消する問題だが、そのためには一段ずつ階段を昇っていかなければならない。しかも、この階段は一年に一段ずつしか上がれないから……。

昇格への道

 いわきFCの昇格について整理しておこう。

 創設年(2016年)に「福島県リーグ2部」からスタートしたチームは、昨年「福島県リーグ1部」、そして今年「東北リーグ2部」を戦っている。

 東北2部は地域により北(青森、岩手、秋田)と南(宮城、山形、福島)に分かれてリーグが行われているが、それぞれの優勝チームが自動的に1部へ昇格できるから、いわきFCは今季の優勝で、来年(2019年)は「東北リーグ1部」入りすることになる。

 そこから先は少しややこしいので、シンプルに説明すると、その東北1部で優勝すれば、全国地域チャンピオンズリーグに出場でき、そこで上位(原則2位以内)になれば、全国リーグである「JFL」へ昇格。

 さらに、そのJFLで4位以内の成績を残し、なおかつライセンスを取得していれば、「J3」への昇格が叶う。ただし、J3ライセンスを申請するためには、その前年に百年構想クラブに認定されていなければならず……。

「シンプルに」と言っておきながら、「原則」とか「なおかつ」とか「ただし」とか、随分面倒な言い回しになってしまったが、これは僕のせいではない。「Jリーグ」が近づくにつれて、そんなややこしい世界になっていくのである。

 しかも、面倒でややこしいだけでなく、矛盾も少なからずある。

 たとえば、J3ライセンスには「平均観客数2000人以上」という要件があるが、昨年のJ3でこれを超えているのは9クラブのみ。残り5クラブ(U23による参戦チームを除く)は2000人に達していない。前々回、いわきFCのデビュー戦との比較で記したのは決して特別な数字ではないのである。

 それどころか平均観客数が3ケタ(951人)のクラブさえある。つまり新たに参入するクラブには、既存のクラブより高いハードルが課せられる、そんな世界が待っているのである。

オールいわき

 もっとも、そんなJ3入りを目指す多くのクラブの前に聳(そび)える障壁も、いわきFCにとってはさほど高いものではない。

 自前のグランド(いわきFCパーク)で戦う現時点では「平均観客数」をクリアできるはずもないが、いわきグリーンフィールドでの旗揚げ初戦(2668人)をみれば「2000人以上」は難しい数字ではない。

 ましてこの2年の間に、いわきFCは市民に浸透してきた。ファンクラブ会員数が1000人に達していることからも、それはわかる。

 加えて行政、地元財界の支援体制も急速に進んでいる。昨年設立された「スポーツによる人・まちづくり推進協議会」には、行政をはじめ、商工会、地域団体が参集。いわきFCを「支援」するというより、いわきFCを中心に据えた「新たな町作り」の機運さえ高まっている。

 つまり、“オールいわき”の象徴として、いわきFCは位置付けられようとしているのだ。

 これは設立時に打ち出した「スポーツを通じていわき市を東北一の都市にする」というヴィジョンが実現へ向けて動き出したことを意味する。前回述べた「日本のフィジカルスタンダードを変える」と同様、当初“新参者の大言壮語”に聞こえた夢物語が現実の取り組みに変わったのだ。

 それも一私企業のヴィジョンではなく、行政が進めるいわき市の未来構想として。

(このあたりの「スポーツ都市構想」に関してはまた別の機会に書きます)

新スタジアム

 そして、そんな取り組みが、最初に目に見える形となるのが「新スタジアム」である。

 昨年末、いわき市は「スタジアムを中心としたまちづくり基本計画」をまとめ、国の同意を得た。今年度中に調査を行い、その後、スタジアム建設に進むというスケジュールだ。

 もう少し具体的に言えば、調査(建設地の選定やスタジアムの規模など)を今年中に終え、来年にはいわきFCを事業者とする(と思われる)スタジアム建設が始まるということである(事業にあたっては経産省の地域経済支援策「地域未来投資促進法」が活用され、不動産取得税や固定資産税の減免が行われる)。

 いずれにしても、いわきにおいて新スタジアムは、もはや夢や願望ではなく、現実に動き始めているということである。

 改めてチームの昇格と並べてみれば……

2018年 東北2部 スタジアム調査

2019年 東北1部 スタジアム着工

2020年 JFL   スタジアム完成

2021年 J3   こけら落とし

 そんなふうにカレンダーに書き込める状況なのである(こけら落としのハーフタイムショーで加藤ミリヤがチームソングを歌う光景まで想像できる現実感である。もしかしたらブルーインパルスが上空にシティサインを描くかもしれない)。

 もちろん、すべてがスムーズに最速で進行した場合の話。しかし、少なくとも「平均観客数2000人」に立ちすくむ心配は、いわきFCにはないのである。

 付け加えれば、J3ライセンスのもう一つの要件、「年間事業収入1億5000万円以上」もすでにクリアしている。

 協賛企業は地元を中心に40社。まだ地域リーグで入場料収入がないにもかかわらず、スポンサー収入だけで2億円をいわきFCは(親会社からではなく)自ら稼いでいる。

 これはJ3の平均とほぼ同じ。経営的にもリーグ加盟への懸念はない。

画像

(むしろ気になるのは摩擦や衝突である。前述した通り、これから進んでいくのは面倒でややこしい世界。そんな世界で、いわきFCの発する“新しい正論”は煙たがれる心配が……についても別の機会に書きます)

大いなる実験

 チーム設立から2年半が経った。この間の象徴的なシーンをつまみながら、3回にわたって綴ってきたが、その全体像にはまったく及ばなかった。いわきFCの可能性が、サッカーのみならずスポーツに、スポーツのみならず社会に、社会のみならず時代にまで広がっているものだからだ。

 あえて言うなら、いわきFCは“大いなる実験”である。

 スポーツに関していえば、S&Cトレーニングをはじめとした(国内ではなく)世界のスタンダードを取り入れることで、日本人のアスリート能力をどこまで高めることができるか。そればかりか世界的にも先端的なアプローチを施すことで、人間の運動能力はどう変えられるのか、という実験。

 社会に関しては、少子化と高齢化、そして人口減少社会に入り、消滅危険性さえ危惧しなければならなくなった地方都市を、スポーツというこれまでこの国では手つかずだった産業で活性化することができるか、という実験。

 たぶんその実験はかつての経済大国へのアラート(警鐘)という意味合いも含む。もしかしたら再興のヒントを提示するショーケースという役割も果たせるかもしれない。

 そして、移ろう時代の先で、いわきは、東北は、日本は、新たな夜明けを迎えることができるのか、という実験である。

 とにかく、その存在は多面体で、その挑戦は広くて遠い。大いなる実験の帰結をこれからも見つめていきたいと思う。

福島ダービー

 最後に改めて、3年目のいわきFCについて。

 所属リーグが強化の場になりにくい中、チームがターゲットとするのが天皇杯だ。今週末(5月13日)行われる福島大会決勝(代表決定戦)は、今季を実りあるものにできるかどうかの重要な一戦になる。

 勝利して福島県代表となれば、昨年と同じように全国大会でJクラブと対戦、再びビッグニュースを発信するチャンスが得られる。

 相手はもちろん福島ユナイテッド。前回記したように一昨年までは9年連続してユナイテッドが大勝で代表権を獲得してきた。しかし、昨年いわきFCが勝利したことで、無風だった福島県サッカー界にようやくライバル関係が生まれた。いまや両チームのサポーターのみならず、県内のファンが注目する一戦。「福島ダービー」と呼んでも違和感はない。いわきFCの誕生がもたらした効果である。

 3年連続となるカード。今年はどちらが勝つだろうか。キックオフは5月13日、14時。とうほうスタジアムである。

 本拠地である「いわきFCパーク」には今年、選手食堂、いや“キッチン”が新設される予定だ。

 チームからはグランドをもう一面作りたいという話も聞こえるが、そのためには山を切り崩しての造成が必要。「栄養」へのアプローチをまず始めるのだ。

 フィジカルトレーニングと並行して、食事への意識を高めることで、アスリートとしての能力をさらに高めようという取り組み。日本のスポーツ界に一石を投じる試みになるかもしれない。

未来への物語

 そのいわきFCパークでは2月にグルージャ盛岡がキャンプを行った。最先端のスポーツファシリティを備えていることから、今後も(サッカーに限らず)全国のアスリートが訪れる可能性がある。

 いわき市が期待するスポーツツーリズムの分野でも、いわきFCの貢献はすでに始まっているのだ。

 もちろん店舗併設の商業型だから、スポーツ以外の来訪者も多い。いわき湯本ICから車で5分。これまでなら右折してハワイアンズへ向かっていた観光客が、せっかくだからちょっと……と立ち寄れるような立地でもある。

 そんなわけで昨年6月の開業から来場者はすでに25万人を超えている。いわきFCパークの誕生は、地域に「新たな賑わい」を生んでいるのである。

 ちなみにいわき市全体の昨年の観光客は814万人。前年より若干増えたとはいえ、2010年の1073万人と比較すればまだ25%も少ない。そう、2011年3月11日をはさんで、いわき市も大きく変わったのだ。

 そして、いわきFCの物語も、あの日をきっかけに――。

 いわきFCパークを訪れるたびに見つめる写真がある。

 アンダーアーマーのショップの一角。モノクロとカラーの2枚を壁一面、左右に配した写真。写し出されているのは過去と現在だ。

モノクロ写真に写っているのは旧いわき電子(FDKいわき工場)
モノクロ写真に写っているのは旧いわき電子(FDKいわき工場)

 かつて、ここには電子部品工場があった。そしていま、いわきFCがある。

 震災と復興から始まった物語である。

 未来を始める物語である。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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