3年目のいわきFC(1)それは衝撃のデビュー戦から始まった。

3年目の開幕戦はいわきFCパークで行われた。(著者撮影・本文中もすべて)

3年目の開幕戦

 歓声が響いたのはキックオフから15分経ったときだった。吉田のクロスを小野瀬がヘディングで決めてゴール。ようやくこの試合の最初の得点が決まったのだ。

「ようやく」と感じたのは立ち上がりから一方的な展開だったから。青いユニホームのアウェイチームがセンターラインを越えることは稀で、試合開始直後からハーフコートゲームの様相。クリアを拾った赤いユニホームのホームチームが、余裕をもってサイドに展開し、そこからゴール前に決定的なパスを入れるシーンが続いていたのだ。

 先制点の3分後、やはり同じような形から2点目のゴールが決まる。ピッチサイドの観客席から再び歓声。400人収容の屋根付きスタンドは、試合の始まる随分前からレプリカユニホームを着た観客でほぼ埋まっていた。

 彼らの視線の右側、ほとんどプレー機会のないGKの向こうには、近未来的なシルバーの建物が横たわっている。よく見ると、その中段のテラスにもゲームを観戦する家族連れの姿……。

 生憎(あいにく)の曇天。それでも3年前には想像さえできなかった景色がそこには広がっていた。

 それどころか、もしかしたら彼らの人生で初めての経験がここで始まろうと――。

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 2018年4月14日、いわきFCの3年目のシーズンが始まった。

 チーム立ち上げから2年半。その成長は驚くほど速く、激しく、刺激的だ。そんな「いわきFC」の<これまで>を辿りつつ、<これから>を考える。

衝撃のデビュー戦

 最初のゴールが決まったのは14分だった。左サイドをドリブル突破した片山のクロスを新井がボレーで蹴り込んでネットを揺らした。

 いまから2年前、2016年4月10日、いわきFCにとって最初のシーズンの、最初のゴールが決まった瞬間だった。

 そのデビュー戦は衝撃だった。

 先制点の後、前半に2点、後半に5点を追加して8対0での大勝というスコアもさることながら、相手選手を振り回すスピード、時に弾き飛ばしてしまうフィジカル……。そのプレーぶりは見ているこちらが心配になるほどだったのだ。相手チームのケガを、である。サッカーだからまだいいようなものの、ラグビーやアメリカンフットボールでは成立しないほどのミスマッチであった。

 とにかく、そのパフォーマンスは福島県リーグ2部のレベルではなかった。相手のグローリーズ福島の選手たちは相当面食らったに違いない。

 衝撃はゲームだけではなかった。キックオフのずっと前から驚きの連続だった。

 まずキックオフの2時間前、試合が行われる「いわきグリーンフィールド」の入場ゲートには列ができていた。もちろん県リーグの試合である。入場料はタダ。並ぶ必要などない。しかし、そこには開門を待つ人の列がすでにあった。それどころか周辺道路には「渋滞注意」の看板まで設置されていたのだ。

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 それだけではない。スタジアムを取り囲むように選手の顔をプリントした「のぼり旗」がずらりと並んでいた。「キッチンカー」が出て、フードが提供されていた。その隣では(まだアイテム数は少なかったが)チームの「オフィシャルグッズ」まで売られていた。

 そこにあったのは、そう、Jリーグの試合会場で見るのと変わらぬ風景だったのである。

観客数はJ3を凌いだ

 さらに驚いたのは移動式のビジョンが設置されていたことだ。それもスタジアムの中と外に2台。おかげで早めに訪れた観客も退屈することなく、映像を眺めながら開門を待っていた(もちろん試合が始まれば、ゴールシーンのリプレーを見ることもできた)。開門が近づくと、そのビジョンの前でフラガールが踊り、イベントの雰囲気を盛り上げた。

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 感じられたのは来場者を満足させようという姿勢だ。エンターテイメントの創出。そんなキーワードが浮かぶアイテムがスタジアムの周辺に(あるいは試合の前後に)ちりばめられていたのである。

 少なくとも「県リーグなんだから」という“手抜き感”はまったく感じられなかった。

 だからキックオフ1時間前の開門で、入場ゲートに現れたチアガールが賑やかに観客を迎えても、もう驚かなかった。キックオフの直前にはいわき市長が挨拶し、加藤ミリヤが君が代を歌った。そして、いざキックオフされれば、選手たちが縦横無尽に駆け回り、ゴールネットを揺らし続け、ハーフタイムにはスタンドに向かってTシャツバズーカが撃ち込まれ……。

 この試合の観客数は2668人だった。

 ちなみに同日同時刻に開催されていたJ3・福島ユナイテッド対栃木SC(とうほうスタジアム)は2122人だから……。県2部リーグがJ3を上回ってしまったことになる。

 いや、福島ユナイテッドだけではない。同日のJ3(8試合)の中で、いわきFC以上の観客を集められたのは3試合だけ。それどころか東京・駒澤でのJ2・東京ヴェルディ対V・ファーレン長崎でさえ、2752人とほぼ同じだったのである。

 そのデビューはまさに規格外だった。

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大勝の連続

 デビュー戦以降も大量得点差での大勝は続いた。

 県2部リーグで8対0、12対0、15対0……と勝ち続けたのはもちろん、並行して戦った全国クラブ選手権もあっさり優勝。全国社会人選手権の東北予選では東北リーグ所属の富士クラブ2003、ブランデュー弘前、コバルトーレ女川(今季からJFL)を下し、練習試合では水戸や山形、群馬といったJ2勢からも白星を挙げた。

 結局、初年度のいわきFCは、公式戦に限っていえば、40戦38勝。県大会・東北大会も含めた獲得タイトル(優勝)は「6冠」という華々しいデビューイヤーとなった。

 ちなみに喫した2敗は、天皇杯の福島大会決勝(代表決定戦)と全国社会人選手権3回戦でのもので、相手は福島ユナイテッドとヴィアティン三重(この大会を勝ち上がりJFL昇格)だった。天皇杯に関して言えば、延長までもつれ込む大接戦で、どちらが勝ってもおかしくないゲームだった(1対2)。

 つまり、まだチーム立ち上げ直後とはいえ、(戦績と対戦相手からみて)このときすでにいわきFCは「東北リーグ1部」、あるいは「JFL」レベルの実力を備えていたのである。

 そして、そんなチームと歩を合わせるように、選手を取り巻く環境も急速に整備されていく。

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楽しいーっ!

 長い笛が鳴ってフィールドの空気が緩んだ。ハーフタイム。小野瀬のゴールで先制し、3分後に追加点も奪ったいわきFCだったが、その後は得点なし。2対0のまま前半を終えた。キックオフから圧倒的にボールを支配して攻め続けていたことを思えば、満足できるスコアではない。

 もしかしたら観客にとっては肩透かし……?

 そう思ってピッチサイドのスタンドを歩きながら聞き耳を立ててみたが、まったくそんな気配はなかった。聞こえてきたのは、今季新たに加わった長身FWのプレーについて話す楽しそうな声だった。

 ちなみにチーム立ち上げからまだ3年目だが、選手の顔ぶれは随分変わっている。初年度から所属する選手は4分の1ほどだろうか。今季も8人が新加入。サポーターたちの注目を集めている。

 そういえば、フィールドを取り囲むように張られた横断幕には、そんな新しい選手たちのものもすでにあった。

 ピッチの周囲では子供たちが駆け回っていた。ロゴ入りの揃いのウエアを着ているから、アカデミーに通う小学生なのだろう。ここに来るのは……と尋ねてみたら、「楽しいーっ!」と元気な声が返ってきた。

 何が楽しい?「走ったりぃ、跳んだりぃ……遊んだりっ!」

 一言発するたびにジャンプしながらポーズをつけてくれる。その明るさと可愛らしさにこちらの顔もほころぶ。

 いわきFCが未就学児も含めた子供たち向けに無料のスクールを開設したのは昨年夏のことだ。遊びを通じて体力や運動能力の向上に取り組んでいる。「走ったり、跳んだり、遊んだり」とはそこで行われているコーディネーショントレーニングのことを言っているのだろう。

 この「アスレチックアカデミー」よりも前に、U-15、U-18、女子(ガールズ)のチームも発足済み。その活動は、トップチームだけでなく、すでに下部組織にも及び始めている。

商業型クラブハウス

 飛び跳ねていた少女の一人が人懐こい笑顔を向けて言った。

「おかあさんはあそこにいるんだよ」

 小さな手が指差した先はグランドを望む銀色の建物だった。選手のロッカーやトレーニングルーム、チームのオフィスがあるいわきFCの活動拠点である。

 ただし、ただのクラブハウスではない。ショップや飲食店、英会話教室などがテナントとして入店する商業型のクラブハウス。少女の母親は、その2階にあるカフェのテラス席からゲームを観戦し、子供を見守っているのだ。

「いわきFCパーク」という。昨年6月、竣工した。(つづく

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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