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前橋育英、延長戦制し3年ぶり夢舞台へ @敷島球場

川端康生フリーライター

プレイボールから3時間半後、敷島球場に響いたのは前橋育英の校歌だった。延長12回に及んだ両チームのせめぎ合い。決勝戦にふさわしい熱戦だった。

伊藤投手の好投

まず健大高崎の伊藤投手を讃えたい。

先発の石毛投手からマウンドを引き継いだのは4回途中。1対3と前橋育英に勝ち越され、なおも1死1、2塁の場面だった。

追加点を許せば一気に試合を決められかねないピンチ。だが、エースをリリーフした2年生に動じる様子はまったく見えなかった。130キロ台の速球と100キロ台の変化球で好打者の石川を三振。チームを救った。

その後も伊藤のピッチングは見事だった。横手から投じるボールにはキレがあり、緩急を使い分ける巧みさもあった。特に外角低めにコントロールされたストレートにはバックネット裏の高校野球ファンを唸らせる威力があった。

熱戦を演出した立役者と言っていいナイスピッチングだった。

両チームのエース

先発の石毛投手も決して悪いピッチングではなかった。

初回、2回と三者凡退。左腕から勢いのあるボールをコントロールよく決めていた。背番号「1」にふさわしい安定感を感じさせる投球だった。一球一球を丁寧に投げる姿勢も好感が持てた。

3回に初ヒットを許した後、石川に右中間に弾き返され、失点。4回に死球でランナーを出し、5番丸山にレフト線へ運ばれ2点目。さらに伊藤に適時打を喫したあたりは、もしかしたら前日の準決勝からの連投が影響していたのかもしれない。持ち味であるバッターの手元でのボールの伸びがいまひとつに見えたからだ。そこを前橋育英の打者にコンパクトなスイングでミートされた。

むしろ不安定だったのは前橋育英のエース、佐藤投手の方かもしれない。

長身からスピードボールを投げ込む右の本格派。サイズも十分で、スピードだけでなく、キレも球威もあった。

しかし、上ずっていた。速球は高めに浮くことが多く、初回だけで2四球を与えた。カーブやスライダーも抜け気味で、リズムに乗れない立ち上がりだった。

3回、単打を3本集められて失点した時点では、苦しいピッチングが続くかと思われたが、4回、5回と三者凡退。6回、2本のヒットで1死2、3塁とされたピンチでも、湯浅、大柿をフライで打ち取った。

制球は後半まで不安定なままだったが、それを補えるだけのボールの威力があったのだ。

両チームのエースはともに絶好調ではなかったかもしれない。しかし、石毛も佐藤も全国レベルのポテンシャルを感じさせる魅力的なピッチャーだった。

終盤、試合が動き始める

前橋育英が3対1とリードしたまま進んだ試合は、終盤になって激しく動いた。

まず8回表。前橋育英は2アウトから伊藤が四球で出塁。すかさずスチールで2塁を陥れる。しかし続く佐藤の打球はサードゴロ。チェンジかと思われた瞬間、ファーストミットからボールがこぼれた。

そればかりか、こぼれたボールを拾い上げようとしたファーストミットからも再びボールが後方に転がり出て、その間に伊藤が一気にホームイン。

前橋育英がノーヒットで追加点を得、4対1とリードを広げたのだ。

だが、8回裏、健大高崎も反撃に出る。

やはり死球でランナーを出すと、高橋がセンター前へ弾き返し、1死1、2塁。ここで伊藤が右中間を破り、2者を迎え入れ、4対3と1点差に迫ったのである。

リリーフで好投していた伊藤は、このタイムリーを含め3安打とバッティングでも大活躍だった。

土壇場の攻防

そして試合は1点差で9回を迎える。前橋育英は守り切れば優勝、そして甲子園という最終回。しかし、やはり健大高崎。粘りを見せる。

先頭の石毛は三球三振。ストレートと変化球が狙い通りに決まった佐藤の見事なピッチングだった。前橋育英がさらに一歩、甲子園に近づいた。

しかし、続く高山へのインコースのボールがわずかにユニホームをかすった。デッドボール。ここから佐藤のコントロールがまた乱れる。

2番高山に対しては、ストレートが高めに上ずり、フォアボール。これで1死1、2塁。自ら健大高崎にチャンスを与えてしまった。

このチャンスを3番安里がモノにする。ジャストミートした打球はライト前へ。セカンドから高山が返り、4対4。同点。土壇場でみせた健大高崎の見事な集中力だった。

なおもチャンスは続いていた。1死1、2塁。モメンタムは完全に健大高崎。9回裏での逆転サヨナラ劇か。敷島球場にそんなムードが漂い始めていた。

だが、佐藤が踏ん張った。代打の川村、三振。5番高橋、三振。

エースの意地だろう。連続三振で逆転を阻止。健大高崎のムードをシャットアウトし、チームに再び力を蘇らせた。

甲子園まで2アウトに迫った前橋育英。逆転サヨナラの好機を迎えた健大高崎。どちらに転んでもおかしくなかった勝負の行方は、そして延長戦に持ち越していった。

決着の延長12回

決着がついたのは延長12回だった。

だが、その前に前橋育英の吉沢投手に触れなければいけない。10回、先頭打者にまたも四球を与えた佐藤がついに降板。健大高崎の伊藤投手同様、エースに代わってマウンドに立ったのが吉沢だった。

そして、やはり伊藤投手同様、見事なピッチングを披露した。最初の打者をサードゴロでゲッツーに打ち取り、この回を切り抜けると、11回も0封。チームに勝利を呼び込む好リリーフをみせたのである。

吉沢投手の持ち味は速球。144キロがスコアボードに掲示されたときには、スタンドがどよめいた。マウンド度胸も抜群。決勝戦の延長戦のマウンドで、まったく動じることなく胸を張ってスピードボールを投げ込んだ。

そんな吉沢投手と伊藤投手、両リリーフの好投で続いた延長戦。決着がついた12回の攻防もまた、どちらに転んでもおかしくない場面の連続だった。

12回表。前橋育英は先頭の浅見がセンター前ヒットで出塁。しかし、続く島崎の送りバントはキャッチャー大柿がダイビングで好捕。チャンスは潰えたかに思えた。

だが、ここで健大高崎に痛いミスが出た。小川がデッドボールで歩き、1、2塁となった後の丸山のファーストへの打球。キャッチしたファーストの2塁への送球がそれてしまったのだ。

この間に浅見が生還し、1点勝ち越し。

さらに2死となった後、今度は佐藤の当たり損ねた打球がセカンドへの内野安打となり、2点目。

この不運な失点の連続に、ここまで好投していた伊藤がついに打たれる。8番森田がセンターオーバー、走者一掃の2塁打。これでこの回、一気に4点。

8対4として前橋育英が勝負を決めた。

突然のゲームセット

実は、決まったかに思えた勝敗の行方は、この後、もう一度揺らいだ。

12回裏。健大高崎は安里、片倉の連続ヒットで無死1、2塁。ワンアウトは取られたものの、伊藤がセンター前へ(この試合3本目の)ヒットを放ち、1死満塁。吉沢投手を攻め立てたのだ。

続く渡口の打球は快音を響かせた。いい当たりだった。スタンドからも歓声が上がった。4点を追いかける健大高崎にとって会心の一打に見えた。だからランナーは前へ、ホームへ走り出した。

センターライナーだった。快音と歓声が、溜息と悲鳴に変わる。センターからショート、そしてファーストへとボールが転送されていく。ダブルプレー。ゲームセット。健大高崎のランナーがベースの近くでうずくまったまま動けずにいた。勝った方も、負けた方も、観ている方も、突然の終止符に呆然とする中、試合が終わった。

僅差だった。スコアだけでなく内容も。熱戦だった。観る者を没入させるような。決勝戦らしい素晴らしいゲームだった。

前橋育英、3年ぶりの甲子園へ

健大高崎はあと一歩のところで3連覇を逃した。勝てるチャンスがなかったわけではない。9回だけでなく、他にもチャンスの芽はあった。しかしその芽を、この試合では走塁やバントで大きく育てることができなかった。

何より痛いところでミスが出た。打者ごとに守備位置を動かすような緻密な野球をしていただけに、わずかな綻びは残念だった。

下級生が多いチームだった。好投した伊藤やマスクをかぶった大柿など、この経験を生かせる選手たちがたくさんいる。来年の楽しみができた。

前橋育英はチームの総合力が高かった。この決勝戦でも投攻守走すべてにおいてハイレベルなプレーを見せてくれた。春の関東大会優勝を、しっかりと夏の結果に結びつけたことで、選手たちの自信もさらに確かなものになったに違いない。

甲子園出場は3年ぶり。初出場で初優勝した2013年以来だ。

あの夏の再現を。群馬県民のそんな期待を受けて夢舞台で戦う。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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