常総学院、春夏連続甲子園へ @水戸市民球場

力と力の真っ向勝負

力と力の勝負。初回が終わったところで、そうノートに書きつけた。

常総学院の左腕、鈴木昭と明秀日立の剛腕、細川。ともに真っ向から打者に向かって投げ込んだ。

明秀日立の重量打線と常総学院の巧打者たち。そんな真っ向勝負にフルスイングで立ち向かった。

終わってみれば1対0。ヒットはともに6本ずつ。リザルトもスタッツも“投手戦”を示している。

しかし――単なる投手戦では断じてなかった。真っ向勝負とフルスイングがぶつかり合う真剣勝負の連続。いつスタンドに打球が飛び込んでも不思議ではないような、そんな緊張感を湛えた決勝戦だった。

細川から奪った先制点

そんな力と力の勝負に勝ち続けた両投手をまずは讃えたい。

常総の左腕、鈴木昭投手は、スピード、コントロール、キレ、どれをとっても申し分なかった。軸足にしっかりと体重を乗せて、全身をつかって投げ込む。右肩の開きもない。

2回の連続三振は速球と変化球。組み立てもよく、打者との駆け引きも見事だった。

対する明秀日立の細川投手は惚れ惚れするような体躯から、やはり惚れ惚れするようなストレートを投げおろす。コントロールに若干のバラつきはあったかもしれないが、ボールの伸びが素晴らしかった。しかも重くて力のあるボールに見えた。

初ヒットを打たれたのは2回。1死から鈴木投手に1、2塁間をゴロで抜かれた。それでも続く清水をセンターフライに打ち取り、2アウト。だが、ここで1塁ランナーの鈴木に2盗を許す。

細川のランナーへの意識が薄れたとはいえ、見逃さなかった鈴木の好走塁だった。そして、これがタイムリーヒットを促すことになる。7番有村、ライト線へ。

鈴木がホームに悠々と帰ってきて常総学院、先制。もちろん、これがこの試合唯一の得点になるとは、両チームの選手たちも、スタンドの観客も、この時点では思っていなかったのだが。

鈴木昭、キレのあるストレート

自らホームベースを踏んだ鈴木の好投は続いた。

3回まで3人ずつのパーフェクト。4回初ヒットを許すが、続く3番糸野、4番細川連続三振。糸野は高めの直球を振らせ、その後、低めの変化球で、細川は高めの速球で、それぞれ打ち取った。

鈴木が(たぶん)意識的に投げた高めのストレートと、明秀が誇る長距離砲の対決は見応えがあったが、いずれも軍配は鈴木に上がった。

この後も鈴木のストレートのキレはわずかに明秀打線のスイングを上回り、三振やフライを重ねていくのだった。

ピンチを迎えたのは6回だ。1アウトから1番森下、2番秋山に連続ヒットを打たれ、1死1、2塁。しかも迎えるのは再びクリーンアップである。明秀にとっては4回に続いて、もっとも頼れる打者にチャンスが巡ってきたことになる。

3番糸野の打球は大飛球だった。通算50本塁打の記録を知るスタンドの歓声が響く。しかしフェンス前でレフトの石川がキャッチ。歓声は溜息に変わった。

しかし、今度は4番細野。こちらは40本塁打。再びバッターボックスに視線が集中する。

だが、やはり溜息。セカンドフライ。鈴木のストレートの勢いが主砲のバットをまだ上回っていた。

両投手の投げ合い

鈴木昭のよさはボールだけではなかった。

たとえば牽制。ランナーを警戒するだけでなく、バッターの間合いもうまく外していた。ピッチングだけでなく、マウンドさばきも巧みだった。

加えてフィールディングも素晴らしかった。それを披露したのが7回。ノーアウトからヒットとエラーで、再び無死1、2塁のピンチを迎えた場面だ。

7番庵原のバントはそれほど悪いものではなかった。しかし、マウンドを駆け下りてくる鈴木のコースとスローイングへの流れが見事だった。結果、鈴木からサード、ファーストと転送され、ダブルプレー。ピンチをすり抜けた。

一方で明秀の細川の好投も続いていた。こちらは好投から力投へ変わっていったと言った方がいいかもしれない。中盤から気合の声とともに細川は投げ込むようになった。

そしてランナーを出しながらも、要所では常総の打者を三振に切って取った。外角に決まるストレートは威力十分だった。

レフト石川、バックホーム

歓声と悲鳴が交錯したのは8回だった。

この回、先頭の内田が初球を叩いて右中間を破るツーベース。鈴木の高めのストレートを叩いた気迫の一打だった。

すかさず1番森下がバントで送り、1死3塁。思いがけず1対0で進んできたゲームがが、ようやく動き出しそうなムード。3塁側の明秀スタンドが勢いづく。

打席には秋山。ここまでただ一人鈴木から2安打。」しかも2番打者。何でもできる……。

バックネット裏の高校野球ファンたちが三塁側のベンチを覗き込む。さあ。どうする? サインは?

初球、バントの構え、見送り。スクイズはあるのか?

次のボール、サードランナーが猛然と突っ込んできた。しかし、バッターは見送り。ランナーが三本間に挟まれる。3塁側から悲鳴、1塁側から歓声。

しかし、次の瞬間、悲鳴と歓声が入れ替わる。キャッチャーの清水の送球がランナーを重なり、三塁後方へと逸れていったのだ。

再び入れ替わる悲鳴と歓声。ランナーがホームベースへと駆け込んでくる。

そのときだった。レフト石川からのバックホームがノーバウンドで清水に返ってきたのだ。クロスプレーだった。一瞬の静寂。審判の右手が上がる。

悲鳴と歓声がまた交錯していた。

常総学院、春夏連続甲子園へ

これが試合を決めるプレーとなった。

9回、明秀日立は最後にもう一度、クリーンアップが鈴木投手と対決した。しかし、3番糸野ショートゴロ、4番細川三振、5番秋元レフトフライ。0対1で敗れた。

この試合、チャンスにことごとく中軸に打順が回ってきた。巡り合わせは悪くなかった。それでも鈴木投手を打ち崩せなかった。

打撃に自信を持って戦ってきたチームだけに悔しさはあるだろう。だが、フルスイングした。最終回、4番細川の豪快な空振りにスタンドから起きた大きな拍手は、そんな明秀日立のプレーぶりへの称賛だ。すべての打席で期待感を抱かせてくれるバッターたちだった。

だから最後の最後まで緊張感を湛えたゲームになった。強いインパクトを残すチームだった。

勝った常総学院。8回のレフト石川のバックホームは改めて見事だった。レフト線を転がったボールだった。ホームへ突進するランナーと交錯せず、アウトにできるコースはあそこしかなかった。土壇場でそこに投げた。何度でも見事と言いたい送球だった。

そして、そんなバックホームはカバーリングが的確だったからこそ実現した。スクイズを外し、ランナーが三本間にはさまれたときには、すでに石川はカバーに走り出していたはずだ。そうでなければ間に合わなかった。

値千金のプレーは鍛えられたチームであることの証明でもあった。そして、それが勝利をもたらした。

夏は3年ぶりになる。春の選抜で初戦敗退しているだけに選手たちにはリベンジの思いも強いだろう。継投で勝ち上がってきたこの大会の最後でエースが快投をみせたことも力強い要素。茨城の代表として甲子園でひと暴れする力は十分に備えている。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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