聖光学院、10年連続福島の代表に @開成山野球場

聖光学院10連覇!

 最後のボールがキャッチャーミットに収まった瞬間、スタンドが呻(うめ)いた。はじめ声にならない溜息のような呻きが響き、それから歓声へと変わっていったのだ。

 最初から歓声でなかったのは、まずこの決勝戦が「もっと見ていたいような好ゲームだった」から。どちらのチームにも勝つチャンスが、つまり福島県の代表として甲子園へ出場するチャンスがある接戦だった。

 そして、それでも勝利したのが「やっぱり聖光だった」ことに、厳しい戦いであっても勝ち切るその凄みに、高校野球ファンははじめ呻いたのだ。

 改めて――聖光学院、前人未到の10連覇。「今年は危ない」。そんな前評判を覆して、松本主将を10度、空に舞い上げた。

10年ぶりの甲子園

 序盤は「10年ぶり」に挑んだ光南の試合だった。10年前、つまり聖光の連覇が始まる前、最後の代表が光南高校であった。

 初回、2番金澤が出塁すると、3番松本京がインハイのボールを強振。ライトスタンドへ放り込んだ。聖光学院の三浦投手の力のあるボールに負けない打撃力をいきなり披露して2点を先制したのだ。

 先発の左腕、石井投手も安定していた。球速ではなく、コントロールとボールの出し入れで、聖光打線のタイミングを外し、バットの芯を外し、うまく投げていた。

 もちろんピンチはあった。2回、1死1、3塁。相手のスクイズ(セーフティスクイズだったか? あるいはサインミス?)を落ち着いたフィールディングで阻止。

 3回、2死1、3塁。今度はキャッチャーの近藤が、相手の仕掛けてきたダブルスチール(1塁ランナーがセカンドベース手前で止まり、わざと挟まれるサインプレー)に、やっぱり落ち着いて対応。矢のような送球で刺した。

 石井が粘り強く丁寧に投げ、近藤の肩で相手を封じ、バックも的確な守備で盛り立てる。この時点では、10年ぶりの甲子園に一歩近付いていた。

瀬川の一発から

 流れを変えたのは聖光学院ショートの瀬川だ。

 打順ではなくポジションから記したのは、まず守備が目に留まったから。試合前のノックから、そのセンスは際立って見えた。何より動きにまったく無駄がない。というより最小限しか動かない。バウンドとグラブの角度を感覚的につかめていて打球への入り方がいいのだ。もちろんグラブさばきもうまい。

 4回裏、その瀬川が打撃でも非凡さを見せる。石井投手の高めのストレート。上から叩いたライナーがそのままレフトスタンドに飛び込んだのだ。

 これで聖光学院が活気づいた。続く7番小泉がセンター前、さらに8番鎌倉が右中間を破り、2対2。同点である。

 そして5回表からは背番号「1」をつけた鈴木拓が登場。130キロ台のボールを繰り出し、光南の攻撃を簡単に三者凡退。続くと6回もまた三者凡退。

 気がつくとゲームの空気は一変。聖光のリズムなっていた。

光南の反撃

 だが、光南も地力があった。だから、相手に向かいかけている流れを、ぎりぎりのところでせき止めた。

 6回、ヒットと四球で1死1、3塁のピンチ。さらにライト犠飛で2死2、3塁。しかし、石井が踏ん張る。ピッチャーゴロでチェンジ。

 続く7回も、ヒットと送りバントでまたピンチ。だが、3番加納を三振、4番鈴木駿をセンターフライ。ここも防いだ。

 そんな石井の粘投が再びチームを勝機と巡り合わせる。

 8回表、1死から溝井、金澤が連打。エラーも加わって、1死2、3塁。絶好の勝ち越し機を迎えたのだ。

 ここで聖光学院は3番松本京を歩かせ、1死満塁。打席には4番西牧。

 マウンドに集まる聖光内野陣。西牧の元には背番号10の生方が走り寄り、耳元でささやく。

 ここが勝敗の分かれ目。両軍ベンチもスタンドも、熱気と集中力がぐっと高まる。

 雲間から顔を出した太陽が選手と観客に照りつけ、試合は、いや開成山野球場そのものがまさに白熱していた。

二転三転

 快音が響いたわけではなかった。しかし、マウンドの鈴木拓が伸ばしたグラブのわずか先、打球はグラウンダーで転がり抜け、センター前に達していった。

 2者生還。4対2。4番西牧の大仕事、執念の一打だった。

 正直に言おう。聖光学院、10連覇ならず。そんな見出しがこのとき頭をよぎった。

 すでに8回。聖光に残された攻撃は2回だけである。執念の一打が「歴史的な一打」になる可能性は十分。粘って、粘って、ピンチをしのぎ続けた光南が、絶対王者を倒し……。

 だが――そんな浅はかな先読みは、次の瞬間、吹っ飛ばされる。

 今度は快音だった。

 西牧の一打で4対2と勝ち越し、なおも1死1、2塁。5番近藤の打球は快音とともに三遊間へ飛んで行ったのだ。抜ければ、さらに追加点。ダメ押し……。

 そこにショート瀬川のグラブが伸びてきた。横っ飛び。伸ばした左手の中にボールが収まる。立ち上がりざまにセカンドベースへ。戻れないランナーが立ち尽くしていた。

「ダメ押し点」が「ダブルプレー」に。そして光南の攻撃が突然終わった。チェンジ。

 この瞬間、まさしく“チェンジ”した。試合の流れも、光南の勢いも、スポーツライターの先読みも。

 リードしたのは光南だ。2点を勝ち越し、残すは2回だけ。状況は何も変わっていない。しかし――これはまだまだわからないぞ。

 スタンドにも、両軍ベンチにも、そして両チームの選手たちにも、そう感じ直させる瀬川のビッグプレーだった。

聖光の勢い加速

 はたして8回裏、聖光打線が息を吹き返す。

 勢いをつけたのはまたも瀬川だった。門井を1塁において、レフトオーバー、フェンス直撃の2塁打。無死2、3塁。

 このとき聖光学院はまだ2対4と負けている。だが、ムードはすでに変わっていた。瀬川のバッティングは、チームに勢いを与えただけでなく、チームメイトに自信を甦らせる特別な一打にもなった。

 続く小泉がセンター前に運び、3対4。続く鎌倉が十分な飛距離のフライをライトに運び、4対4。同点、しかし、すでに試合の流れは抗いようもなく勢いを増していた。

 そして最後は、前日貴重な本塁打を放っている磯辺が仕留めた。ランナー2人を置いて右中間へ。6対4。この回、一気に4点を奪い、逆転。あとは9回表の守りのみ。

 わずか数分の間に、試合はひっくり返り、勝敗は入れ替わり、そして甲子園への切符も……。

勝者のメンタリティ

 最終回、光南は代打の生方が3塁打を放ち、ワイルドピッチで生還。1点差に迫ったが、最後は鈴木拓投手の力投に及ばず、10年ぶりの夢は叶わなかった。

 しかし、春の県大会で優勝。「打倒聖光」の最右翼としての実力は十分見せてくれた。評判通りの打撃に加えて、近藤捕手を中心とした守りも素晴らしかった。

 この決勝戦でも甲子園の切符に何度か指先をかけた。つかみとることはできなかったが、力のある、いいチームだった。何より光南の健闘によって決勝戦は好ゲームになった。

 そして前人未到の10連覇を達成した聖光学院。

 前評判通り、楽な試合はなかった(コールドゲームは初戦のみ)。しかし、前評判を覆して、6試合を取りこぼすことなく勝ち続け、しっかり優勝旗を手にした。

 決勝戦を見ていて感じたのは、チームに根付く勝者のメンタリティである。先発の三浦投手も、リリーフした鈴木拓投手も、気合の雄叫びを上げながら投げ込んでいた。ヒットを打ったバッターが、ホームインするランナーが、やっぱり雄叫びとともにベンチに拳を突き上げた。

 そんな姿からは「勝つのは俺たちだ」という確信のようなものが感じられた。9連覇しているチームだからこそ継承され根付いているメンタリティが、最後の最後に聖光ナインを支え、勝利に導いたように見えた。

 もちろん、それは裏返せば、9連覇しているからこそのプレッシャーでもある。継承されてきた歴史が輝いていればいるほど、その重圧も強い。

 そもそも福島大会はいまや「聖光学院vs打倒・聖光学院」と構図がはっきりしている。つまり出場86校(連合チーム4あり、78チーム)のうち85校はチャレンジャー。聖光学院ただ一校が、挑戦を受ける立場で戦わなければならないのだ。

 勝って当たり前のチームが勝ち続けることは容易ではない。しかし、不安視された今年の選手たちは、そんなプレッシャーにも打ち克った。そして過去9年の先輩たちの記録に勝利を上乗せした。

 この大会を通して10年目の選手たちが手に入れたものは、きっと大きい。その新たな力が、甲子園での彼らの戦いを支えるのである。

常勝のDNA

 最後に改めて10連覇について。

 10年という時間は、学生スポーツにおいては相当長い。毎年、選手が入れ替わり、3年でまったく顔ぶれが変わってしまう高校の部活動では奇跡的な偉業と言っていいだろう。

 人生という物差しを当ててもそうだ。最初の年の3年生はいまや28歳。結婚して、すでに父親になっていても不思議ではない年齢だ。それほど長い時間、聖光学院は勝ち続けているということだ。

 もしかしたら子供を連れて応援に来ていた者もいたかも……と想像して、球場で見た野球少年や野球少女たちの姿を思い出し、改めて気づいた。

 彼ら彼女たちは生まれたときからずっと聖光学院の胴上げを見てきたのだ。それどころか聖光学院が勝つところしか見たことがないのである。

 常勝のDNAはすでに次の世代へと――10連覇とはそれほどの大記録なのである。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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