健大高崎、群馬67校の代表に――100年目の高校野球・群馬大会

最後のバッターになった速水はグランドに顔を埋めていた。

その前のバッター、一塁へヘッドスライディングで飛び込み、ユニホームの胸を真っ黒にして、それでも次の回に備えてキャッチボールをしていた山田も、グランドに膝をついていた。

ゲームセット。4対5。わずか1点及ばず。

同点のランナーを3塁に残して、桐生第一の夏は終わった。

もしかしたら未練が残る敗戦だったかもしれない。惜敗とはそういうものだ。

だが、たとえば速水。初回、最初のチャンスでセンター前へ弾き返し、先制点をもたらした。

1点を追う7回、2ストライクに追い込まれながら、きっちりレフトへ犠飛を運び、試合を振り出しに戻したのは山田だ。

何より、この決勝を含めて6試合、44イニング。マウンドに立ち続け、チームを牽引してきた。

記憶に残すべきは、そんな輝きの瞬間の方である。

再び突き放された8回表。2アウトから2点を叩き出した石井のツーベース。レフト線で記憶されるのはあの一打であって、9回の本塁憤死ではない。あの一打で、チームは生き返ったのだ。

その9回、ノーアウト1塁からレフト線を抜かれ……あわや同点に追いつかれそうな場面での健大高崎のカットプレーは見事だった。

無駄もブレもなく、レフト、ショート、キャッチャーとボールをリレーして、ホームベース手前でランナーを刺した。

試合を通じて健大高崎の守備は球際に強かった。

4回、ランナー2塁で一塁線を襲った鋭い当たり。ベースすれすれの嫌な打球だったが、小谷が巧みにさばいた。センターの春日の落下点への動き。キャッチャーの柘植のフットワーク(と強肩)……目に見えないファインプレーが随所にあった。

バッティングも相馬、柴引、柘植のクリーンアップをはじめ、鋭いスイングで強くボールを叩いていた。

それでも2回に2点を奪った後、なかなか追加点を奪えなかったのは、相手の山田投手を誉めた方がいい。あれだけ力強いボールを、あれだけコントロールよく投げ込まれては打ち崩すのは容易ではない(軸足を中心にしたターンとスムーズな体重移動の理想的なフォームで、ボールも長く持っているから、打者にとっては“近くから”投げられているような感覚だったのではないか)。

そんな好投手を攻略した7回裏は健大高崎の真骨頂だった。同点に追いつかれた直後の攻撃である。

1アウトからランナーを出すと、林が2球目をプッシュバント。これが前進してきた3塁手の横を抜けて内野安打。チャンスを広げたのだ。

このシーン、もう少し詳しく振り返れば、初球でも林はセーフティバントを試みた。しかし、3塁線のファウル。

この初球があったからこそ、3塁手は猛然とダッシュし、まるでそれを見越していたかのように林は打球を殺さず、その脇をゴロで抜いたのだ。

見事な頭脳プレーだった。もちろん、それを実現できる技術を身につけていたからこそ、である。

そして続く相馬がレフト前へ勝ち越し打。実はこの直前、相馬は消極的な守備で、同点に追いつかれるきっかけとなっていた。「E」のランプが灯るプレーではなかったが、本人の心の中では「ミス」と捉えていたはずだ。

だが、それを引きずらなかった。引きずらなかったばかりか、見事に撥ね返した。リバウンドできる精神力(逆境を弾き返すたくましさ)を備えている証である。

それもまた健大高崎が培ってきたものの一つだろう。

そんな技術と精神が、最後の勝負どころ――9回のカットプレーでも発揮されたことは言うまでもない。

付け加えるならば、9回2アウト、最後の打者への最後の数球を、雄叫びとともに投げ込む川井投手の姿には「勝者のメンタリティ」を感じた。

2年連続、いや3季連続で甲子園に出場するチームならではのオーラがそこにはあった。

「目指すのは全国制覇」。

そう目標を掲げるにふさわしい選手たちに見えた。

終わりに改めて桐生第一。あと1点、あと1本の悔しさが消えることはないだろう。

しかし、帰路に着く高校野球ファンたちが口々に「いいゲームだった」と目を輝かせながら振り返っていたことは伝えておきたい。

勝てなかった。でも、本当にいい試合を見せてくれた。

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』(光文社)にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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