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好漢・海老名を下して、横浜、花道進む――100年目の高校野球・神奈川大会

川端康生フリーライター

この試合、最高の盛り上がりは6回。ただし、コールドが決まった6回裏ではなく、海老名の攻撃の6回表。先頭の青木が左中間へクリーンヒットを放った瞬間だった。

この時、すでに0対9。それでも1塁側スタンドを埋めた応援団は大いに沸いた。そして実はこれが初ヒット(ここまでノーヒットノーランだった)。だから応援席だけでなく、内野もネット裏も沸いた。

僕も思わず拍手していた。そんなふうにさせる清々しさが、海老名高校のナインにはあった。

試合前から、その元気のよさは気持ちがよかった。アップを終えて円陣を組んで盛り上がる。ノックを終えてまた盛り上がる。

「盛り上がる」といっても(誤解してほしくないが)浮れるわけではない。大して面白くもないのに、両手を叩いて「盛り上がっているかのように」振る舞うのとは訳が違う。

強敵との大一番を前に高ぶる闘志を、緊張ではなく、明るさに転化させた「盛り上がり」が、1塁側のベンチとスタンドには満ちていたのだ。

内野のボール回しも、きびきびしていて、よく声が出ていた。

初回、不安を元気でねじ伏せながら迎えた最初の守備、四球、盗塁、いきなりのピンチ。それでも三遊間の打球をサード中村が好捕。「0」で凌げるかもと思いかけたところで、チームの差が出た。

「この試合のプレーでの差」ではない。「チームの差」である。

打ち取った打球だった。ライトへふらふらと上がった普通の飛球、に見えた。

しかし、ボールは落ちた。外野手が守っていた場所は遥か後方だった。フェンス近くにポジションを取らざるを得ない相手の圧力――そんな「チームの差」が生んだ最初の失点だった。

結局、1回に2失点。試合の流れが方向を決めてしまえば、抗うのは難しい。2回5失点。

それでも背番号「1」の青木がマウンドに立ち、無失点で切り抜けた5回裏を見れば、「あの最初の失点がなければ(勝てたとは言わないが)もう少し違った試合もあったかもしれない」と想像させるだけの実力を、海老名は持っていたと思う。

無論、「チームの差」も含めて試合は行われ、勝敗が分かれる。

その意味で、一塁側、横浜高校はユニホームだけで相手を圧倒できる野球部だ。神奈川を15回勝ち抜き、そればかり甲子園でも2度頂点に立った伝統と実績は強力だ。

そればかりかウォーミングアップの遠投だけで、並の球児ならビビるかもしれない。距離が違う。ボールの軌道が違う。グラブに収まる音が違う。

かといって(やっぱり誤解してほしくないのだが)、この試合で横浜が横綱相撲をとったわけではなかった。

2回の追加点はセーフティスクイズできっちりとった。ランナーが出れば、常に前の塁を狙い、手を抜くことがない。そんな積み重ねで流れを作り上げ、相手を呑みこんでしまったのだ。

6回コールド、10対0。大勝に見える。いや「大勝」には違いないのだが、「圧勝」の印象が不思議なほど薄い。昨秋、今春ともに3回戦で敗退し、この大会ノーシードの理由が伺える戦いぶり……とまでは言わない。

だが、真価が問われるのはこれからだろう。

1回戦に続いてこの試合でも3人が継投。その「これから」へ向けての準備も怠りない。

質、量ともに高い選手の能力と、受け継いだ「チーム」の力。そこに渡辺監督の“ラストサマー”というエネルギーも加わり……。

頂点まで辿り着くポテンシャルは十分だからこそ、花道の行方が興味深い。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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